バイト・シフト
というわけで、ある意味鮮烈の登場した俺に対しての反応は、
「って、え? み、帝院君? なんでそんな変な絶叫あげて堂々登場しているの?」
意外すぎる登場人物に、そんな間の抜けた声を上げる中二病女子生徒が一人。うん、完全に「非日常? え、頭おかしいんじゃないのお前?」といわんばかりに逃げ切ったから、ここで俺が登場するのは意外だよね。というか、そんなに変だったか? 自覚あるけど言われると凄い傷つく……。
「くっ!? 貴様……教室にいた不届きもの!!」
さらに、なんか傷だらけのくせに、再びキャラ取り繕って俺に食って掛かろうとする、意外と元気そうなバカ後輩が一人。うん、とりあえずお前あとで説教ね? 中二病治すまで24時間耐久説教レースなんてどうだろう。あぁ、だめだな。俺の体が持たんわ。うちの0課はメンバー全員が重度の中二病わずらっているせいで、その手の説教任せられる人いないしな……。せいぜい候補に挙げられるのは、剣のお兄さんと銃のおっさんか? でもあの二人も中二病でないにしても純粋戦闘種だしなぁ。説教がSEKKYOUという名の肉体言語に変わる可能性が、無きにしも非ずなんだよな……。
「……」
最後に、ぽかんと口を開けて俺の言った言葉が理解できていない殺人鬼が一名。うん、警察官目の前にいるのに隙だらけとはよほど自由が要らないらしいと、俺は懐から取り出した手錠を問答無用で殺人鬼の片手にかけて、近くの焼けただれた道路標識につないでみる。
「っ!?」
さすがにこれは抵抗したのか、殺人鬼はあわててナイフをふるい手錠の鎖を断ち切った。
おいおい、一応本職警官が使っている頑丈な奴なんだけど、そんなにあっさり切っちゃいますか? 全国の警察官が泣くぞ、これ?
「お、お前えええ!? いったいな……ぶっ!?」
「いちいち叫ぶな、うるさい」
一瞬だけこぶしを雷に変換し、ロケットぱーんち。以前0課メンバーの一人が「ロケットパンチは外れない!」とキリッとした顔で言っていたので試してみたんだが、けっこう効いたらしく、殺人鬼は痛みのあまりのた打ち回っていた。
というわけで時間稼ぎに成功した俺は、再び中田に向き直り、その体を肩に担ぐように抱え上げる。
「え?」
「はいごめんよ~。オラ、山田起きろ……殺すぞ」
「あ、扱いが違いすぎるではないか!?」
「だまれ、王様口調やめない限り、俺もこの態度やめてやらんぞ?」
トドメに「この蛆虫が」といってやる。口に出したのは初めてだが、割と酷いなこれ……。まぁ、今後も中二続けるようならこいつに対しては言い続けるんだが。
なんだかひどいメンタルダメージを受けた様子で、フラフラ立ち上がる山田。やばい、べつにゾクゾクもしなければ気持ちよくもなったりしない。ひたすら罪悪感だけ浮かんでくる。よかった……俺にSの気はないようだ。
「て、山田!? 誰のことですか!? 鳳凰院さんのことですか!?」
「ん? そうだよ? こいつの本名、山田太郎。鳳凰院陽炎は0課だけで通じる偽名です」
「き、貴様がなぜそのことを!? いったい何者だ!?」
「というか事実なの!? 知りたくなかった!! 知りたくなかったよ、そんな悲しい真実!!」
ワーワーギャーギャー騒ぐ二人を、火災現場から何とかひき離す俺。そんな騒がしい二人にげんなりとしつつ、俺は割と本気で消防士の方々を尊敬した。
無駄に警察から金もらっているし、近所の消防署に寄付金でも贈るかね?
「優子っ!!」
「澪っ!?」
そんな俺苦労なんて知ったこっちゃないといわんばかりに、幼馴染二人は感動の再会を、
「歯ぁくいしばれっ!!」
「なんでぶっ!?」
なんてことはなく普通に北野が鉄拳制裁で、中田の顔面を女子にあるまじき形にゆがめていた。北野……お前。
「あれほど、あれほどっ! 中二も大概にしておきなさいって言ったでしょうがっ!? なのに何、このザマは!」
「ごごごごごめんなさいぃいいいいいい!?」
「こんなみょうちきりんなトマト頭の甘言に乗せられて命の危険晒すなんて、どれだけバカなのこのバカ娘は!!」
「と、トマト頭!?」
なんというか、友人の安否を確認できたとたん、反動で怒りの限界点へと到達してしまったらしい。さっきから罵詈雑言が留まるところを知らず、見事に体の限界が来てぶっ倒れた山田が被害を受ける。
あぁ、そういえば山田未だに重症者だったな。早いこと治してやらんと割と命にかかわるか。
「私が……どれだけ心配したと思ってるのよ」
「澪……」
まぁ、そんな山田を完全無視する形で告げられたため、俺の心には微塵も響かなかったその泣きかけの言葉は、どういうわけか中田の胸には届いたらしく、中田は本気で申し訳なさそうな顔をして、目を潤ませる北野に抱きついた。
背景に白い花が咲き乱れている気がするのは、気のせいだと思いたいが……。
「というか、こういうこと邪推するから俺ってばモテないのかな? そこら辺どう思う山田」
「そ、そんなこと聞かれても……と、というか俺の名前は鳳凰院だし!?」
「まだいうか……。もういいかげんやめろってそれ、名前聞くたびに蕁麻疹でるっていっただろうが」
「そこまでひどいか!? いや、まて……そのセリフ、貴様まさかっ!?」
「というか本気で気づいてなかったのか。仮にもお前スカウトしたの俺なのに……先輩としてかなり悲しいんだけど」
いやこのセリフ割とマジよ? 能力使用状態の俺はインパクトの塊だから正直忘れられるなんて、ついぞ経験したことなかったのに……。
「……わかれ、という方が無理難題だ。貴様は俺の前に出るとき常に能力を全身にかけていただろうがっ!!」
「あぁ……全身変換状態だと、若干輪郭が曖昧になるからわからなかったのか。そりゃ納得」
にしても能力使用状態の俺って、そんなに今の俺とかけ離れているかね? ちょっと、これ終わったら鏡で確認してみよう。と、俺が一人のんびりと考えながら鉄槌を持ち直した時だった。
「てめぇええええ!!」
再び上がる絶叫と共に、いつのまにか延焼をさらにひろげ、火の手を増していた火災現場から、殺人鬼日比谷が飛び出してくる。
怒りに燃えるその形相は、獲物を狩ることを邪魔されたのが理由か、はたまた火災現場に一人取り残されたのが理由か。
まぁ、あの程度の火の手なら、切り抜けてくるだろうとは予想していたけどな。神器級武装召喚主が火事程度で死ぬとは微塵も思えなかったし。
俺がそんな風に割としつこい殺人鬼にため息をつく中、日比谷は先ほどの怒りはどこへやら? なんだか驚いたような顔で俺と山田を交互に見ていて。
「……お、お前ら。味方じゃなかったのか?」
「え? 敵だけど?」
「即答!?」
「当然だろうがぁあああああああああ! 全世界の中二病は俺の敵だ!!」
「けっこうな人口がいると思うんだけど? 高二病君」
「黙れ、俺をその病名で呼ぶな。あと全国の中二病の皆さんスイマセン。俺の敵は山田だけです」
「プライドないのか貴様っ!?」
いやだって、流石に全国の中二病の皆さんが襲いかかってきたら、戦う云々以前にビジュアル的に怖すぎるだろっ!? と、内心で抗弁する俺に山田と、中田の抱擁を解いた北野が白い目を向けてくる。や、やめろ……そんな目で俺を見るな。どこかの登場人物みたいに変な扉開いたらどうしてくれる!?
「い、いや……敵ならば。うん。それも仕方ないのか?」
「うん? あぁ、これ?」
と、日比谷が指差した先の俺の鉄槌があるのを見て、俺はようやく先ほどの質問の意図を理解する。
そりゃこんな光景見たら殺人鬼も驚くわな。いきなりぶっ倒れている山田の頭部めがけて俺が戦鎚振り上げていたら……。
「だが残念。これはれっきとした救命行動だ」
「……どこからどう見ても殺人現場にしか見えない」
「ふっ……俗物め。だから貴様は日比谷なのだ」
「全国の日比谷さん敵に回したわよ、あなた? あとその言い回し、中二臭い」
「ぐあぁああああああああああああああああ!?」
俺としたことがぁあああああああああ!? と、俺がのた打ち回ると同時に手から離れた戦鎚は、ポロリと俺の手から落ち日比谷の頭を直撃する。
そして、響き渡るカンッ! という硬質な音。
「……理不尽。理不尽極まりない」
「じ、神器級ってそういうものだしな……かはっ!?」
「喀血!?」
「どこまで中二扱いされるのが嫌なのよ……」
地面にぶっ倒れて力尽きる俺をしり目に、炎の変換をやめ立ち上がる山田の体には傷一つ残っていなかった。それを見て心底驚いた顔をする山田。お前の能力も十分理不尽だと思うんだけどな……。
山田の回復の理由は何てことはない。俺の戦鎚が《傷》を山田の体から叩き出し、山田の体が回復した。ただそれだけの話だ。
……言っていて俺自身も思ったが確かにこのハンマーチート臭いよな。いちおう死者蘇生はできないらしいんだけど、それ以外にできないことってちょっと思いつかないし。
「さて……山田。お前今回はまた見学な」
「な!? なぜだ!?」
「いや……むしろあんなにあっさり負けたくせに、なんでそんな意外そうな顔ができるんだよ?」
ホントこいつバカだろ? と、ちょっとだけウチの後輩の頭を心配しつつ、俺は立ち上がった。ほんのすこしだけメンタルダメージがひどいがまだ何とかなるだろう……。と、俺はプルプル小鹿のようにふるえる足を叱咤しながら、立ち上がる。
やべぇ……なんか自信なくなってきた。と、自分のメンタル的脆弱さに愕然としつつ俺は右目を開く。
「そんな、まだまだ素人感覚が抜けないお前に、もう一度社会科見学をさせてやる。中二病が」
俺の体は再び青白い雷へと変換され、中田と北野が息を飲む声が聞こえる。それと同時に日比谷が震える声で、
「の、能力が……二つ!?」
「やめてよね~そういうノリ」
中二臭くてついていけないから。と、俺はそっけなく告げて、戦鎚を日比谷に向かってかまえる。
その間にも見る見るうちに俺の体は変貌していった。
体は青白い電撃へとかわり、変換系特有のゆらゆらとした輪郭があいまいな姿へと変わっていく。バリバリと激しい音を立て雷変換された詰襟の前が開き背後へとはためいた。
上がっていく電力と中二力……のたうちまわりたくなる俺……。というか俺の着衣がコート系や前をボタンやチャックで留める系の服だと、勝手に前を開かせる理由が分からない。それ系の服を敬遠しても、なぜか雷変換を行うと雷のロングコートがオートで出現するし!? 何なの神様!? 俺を苦しめて何がそんなに楽しいの!?
と、内心であくまで俺を中二ビジュアルにしようとする正体不明の働きをののしりながら俺はとうとう変身を完了した。
全身が青白い光となった、数千億ボルト近い電撃の塊。
「それじゃ……俺の精神が壊れる前にさっさと終わらせるか」
俺のバイト用の姿である(断じて戦闘態勢ではない。ないったらない!!)。




