プロローグ キラキラ輝くその名は!!
最後まで書いている作品ですので、予約を駆使して定期更新。
そのため感想返信ができない可能性がありますのであしからず……。
暗い、暗い闇の中、私は私の心の奥底に眠る、魔王……《深き深淵の闇》ブラックジャストライトニングとの精神世界での激闘を行っていた。
精神世界の私はブラックジャストライトニングの雷速の攻撃をよけ、鮮やかな後方宙返りをしながら投げナイフを投擲。しかし奴もさるもの、魔王の名にたがわぬ奴の固有スキル――常時発動型の絶対結界によって、私のナイフは見事に空中で止まり、雑に振るわれた奴の手によって弾き飛ばされた。
くそっ……やはり奴と私には、超えられない絶対的な実力の壁が、
「もう終わりか? 小娘」
「っ!?」
私の弱気な心を読み取ったのか、奴は傲然とした色が込められた声で再び私に話しかけた。
「なぜ逆らう、小娘。貴様は私に体をあけわたすだけでいいのだぞ? そうすれば貴様にこの世のすべてをくれてやると言っているのに」
漆黒のマントを翻し、光沢をもった威圧的な黒い鎧を晒してくる魔王ブラックジャストライトニング。その顔には暗い笑みが浮かんでおり、いまだに脆弱な力しかもたない私を圧倒した。
しかし、いくら弱くても私にも能力者としての矜持がある!
「御免こうむる。わたしには、貴様とは違って守りたいものがあるんだ!!」
「ふん。三度も勧誘してやったというのに、愚かな女だ。もういい、私の物にならぬというのなら、その守りたいものとやら……守れぬままに消え去るがいい!!」
瞬間だった! 魔王の体から今までの戦闘では考えられないほどの圧倒的な魔力が放たれた。
そんな!? 奴はまだ本気を出していなかったとでもいうのかっ!?
私が内心で恐れ戦く中、奴はまるで蚊でもつぶさんとするがごとく、無造作に私に向かって手をふるった。
それと同時にあふれ出た魔王の魔力が形を持ち始める。それは、まるで太陽。そう錯覚してしまうほどの熱量を持った真紅の焔が、巨大な球体となって現れ私に向かって撃ち出された。
巨大さゆえか、その弾速は遅い。しかし、その巨大さゆえに私の脚力ではよけられるわけがなかった。
せめてもの抵抗として、私は必死に自分の力をふるい自分の前へとシールドを張る。だが、わたし程度のシールドじゃこんな巨大な炎は防げないだろう。でもっ!
「ごめん……澪。わたし、必ず帰るから……待っていて」
私は、私がこの世界に入る前に、友人が渡してくれたロザリオを握り締める。
それは、決してたがわぬ誓い。たとえどれだけ絶望的な状況であっても必ず生きて帰ると誓った、友人との絆の証。
だから私は、負けられない。……こんなところで、負けてはいけない!!
その時だった。私が握りしめたロザリオから、膨大な光があふれだし私のシールドに力を与えてくれる。
「え?」
「なっ!? ば、バカな……この力は!?」
魔王が慌てふためいた声を上げたのでそちらを見て見ると、私のシールドが押し返した巨大な炎が魔王に向かって進み始めていた。
「くっ……おのれ、貴様の力か、澪!? なぜ私の邪魔をし、そのような人間に手を貸すのだ!! しかもその術は禁術……命を削る魔法だぞ!?」
魔王の言葉を聞き、私は何が起こったのか悟った。私がこの世界に来る時に友人が浮かべた悲しげな笑み。そう、彼女は最初から……こうするつもりで私を、
「そんな……澪。やだよ、死んじゃヤダぁああああああああああああああ!!」
私が守りたかった人が、命を懸けて私を助けてくれた。それがわかっていても、私はそう言わずにはいられなかった。
私の強化されたシールドによって押し返された焔は、あっさりと魔王を飲み込み消し飛ばした。
でもあの子は帰ってこない。私が守りたかったあの子は……。
激闘が終わり静けさを取り戻す私の精神世界。私はそこに力なく膝をつき、がっくりとうなだれた。
守れなかった……戦いには勝てたけど、守れなかったっ!
私は悲嘆にくれる。幼いころから一緒だった少女の死を。魔王の右腕の魂が自分の中に入っていると知り苦悩していたあの少女が、死んでしまったということが、戦いに勝った喜び以上の暗い影を私の心に落としていた。
だが、
『泣かないで……優子』
「え?」
もう聞けない……そう思っていた少女の声が私の精神世界に響き渡った。
「澪……」
『えぇ……私よ。優子』
私が顔を上げるとそこには、真っ白な服を着たあの少女が、
『バスが学校についたから、いいいかげんバカな妄想はやめて帰ってきて。あんた今までの妄想口から垂れ流していてバス乗っているときすごく恥ずかしかったんだから』
「え、あ……ご、ごめん」
額に青筋を浮かべて仁王立ちし、わたしを精神世界から引きずり出した……。
…†…†…………†…†…
「あんたってホント救いがたいバカね。いまどきあんな妄想百パーセントの戯言口に出して許されるのは幼稚園までよ?」
バスから降りた私たちは一緒に降りて、学校へ向かう見ず知らずの生徒たちからの苦笑から逃れるために足早に校舎へと向かっていた。
無意識のうちに魔王ブラックジャストライトニングとの激闘を実況中継してしまい、バスの中を失笑の嵐に巻き込んだのは、わたくし――中田優子、16歳。草野市立六文橋高校に在籍する長い黒髪(手入れが大変)と左目の泣き黒子がチャームポイントの癒し系美少女(自分で言うなって怒られた)!! そして、ちょっぴり非日常な日々にあこがれる高校一年生だ。
「もう、そんなに怒んないでよ~、澪。今度は澪が主人公の青春冒険活劇を妄想するから~」
「いらんわ!! というか、あの話の展開どういうこと!? 妄想の中とはいえ親友殺すとか何考えてんのよ!!」
ガーッ!! と若干顔を赤くして私に吠え掛かってくるのは、私の小学生時代からの幼馴染の北野澪ちゃん。とっても頼りになる風紀委員さんで、薙刀・合気道共に3段のさらりと流れるストレートポニーテールの、若干目つきが鋭いクールビューティーさんで、
「も~。なんでそんな冷たいこと言うのよ~。昔は一緒に『二人はエディキュア!!』とか決めポーズ一緒に取った仲じゃない」
「その話はやめろッつたでしょうがぁああああああああああああああああああああああああああああああ!! 私はもう中二病は卒業したの!!」
私と同じ戦いの歴史を(世間では黒い歴史とよばれる)もつ親友でもある。
「ちゅちゅ、ちゅうにちゃうわ!!」
「関西弁になってるわよ」
「ちゅちゅちゅ……中二やわ!」
「どっちなのよ……」
とりあえずいつものネタで〆ながら私たちは昇降口へと続く道を歩いた。
私たちが歩いている道は小高い丘の上に設置されていて、その下に広がるグラウンドでは朝から元気に運動部の皆さんが走り込みをしている。とはいっても特にどこかの部活が強くて全国に行ったという話は聞かないことから、あまりこういった練習の実は結んでいなかったりするらしい。まぁ、青春だとは思うけどね?
「それにしてもすっかり桜も散っちゃったね~。残念無念……」
「私としてはあんたが桜吹雪の中を走って『見てっ! 桜が私を祝福してくれている!!』とか言わなくなっただけでもありがたいけどね」
「だ、だって綺麗だったでしょ!! 綺麗だったでしょ!!」
大事なことなので二回言った!
「あんたの中二な空気に巻き込まれたら、そんな感想も彼方に吹っ飛んだわ。もういいかげん卒業しなさいって……高校に上がってからどれだけ経つと思っているの?」
「ま、まだ二カ月だもん! ぎりぎり許されるもん!! 私は永遠に中学二年生の頃の気持ちを忘れないもん!!」
「マジでそれ実行したら絶交だからね?」
私は、そっけなく私の信念を切って捨てた澪に断固抗議をするべく、頬を膨らませて後ろを歩いていた澪の方を振り向く。そして、
「あっ!」
ドンッという衝撃が私の体の走り、私は思わず尻餅をついてしまった。どうやら何かにぶつかったようだ。
「いった!?」
「あ、ちょ……大丈夫?」
なんやかんや言って心配してくれているらしい澪に、好感度をちょっとだけ上げながら、私は尻餅をついたお尻をさすりながらぶつかったものへと視線を向ける。
そして、
「す、すいません! 大丈夫ですか?」
私はそこで運命に出会った。
「怪我はないですか? すいません、新しい学校に来てちょっと感動していたもので……」
詰襟の制服には私と同い年だと示すための青い校章。差し出された右手には何かを封じるためにつけている(ように見える)黒い革製の薄手グローブ。鋭い傷跡が走った右目は固く閉ざされており、髪は透き通るような銀色をした、
「あっ」
「え? え? ……お、俺の顔に何か?」
中二成分満載な……見知らぬ少年の姿があった。
「き」
「き?」
プルプル触れる私をみて、ぶつかったことを怒っているとでも勘違いしたのか少年は慌てふためいた様子で私の言葉をおうむ返し。だが、今の私にはそんなことは些細な問題としてしか認識されない。
「き、き、キタ―――――――――――――――――――!! 私の非日常っ!!」
突如絶叫を上げる私に少年はビクッと震え、思わず差し出していた手をひっこめる。そして澪は、
「素人さんをびっくりさせるんじゃないの!」
と遠慮なく私の頭をチョップで殴り、わたしを地面にたたき伏せた。
ひ、ひどい……。
「このバカが迷惑かけてごめんなさいね。でもあんた……見ない顔ね? 上級生の方?」
「え? あぁ、違いますよ。俺はちょっといろいろ理由があって入学式に間に合わなかったんです」
澪の質問に苦笑をうかべながら、少年は丁寧にぺこりと頭を下げ、
「どうも、今日からこの学校に1年3組でお世話になる帝院雷輝といいます」
「同じクラスで、キラッキラ中二ネームキタ―――――――――――――――――!! これはもう運命という名のフラグが立っているとしか思え」
その名前を聞き狂喜乱舞する私の頭を、再び澪がはたき私を地面にたたき伏せた。
ひ、ひどいって、だから……。
こうして私は、世にも中二な同級生に出会った。