イモムシの恋
イモムシが、タンポポに恋をした。
みどり色のイモムシ。黄色いタンポポに恋をした。
ノソノソいそいそ。
毎日タンポポの所へ通う。
タンポポは、道端に一人咲いていた。
「タンポポさん。 今日もいい天気ですね」
イモムシが一人話しかける。
返事はない。
「今日もキレイな花びらですね。 黄色い花びら。 太陽の色だ」
タンポポに寄り添い、そう言った。
風に吹かれ、タンポポの花びらが揺れる。
小さく揺れる。
「その茎と葉、 僕と同じ色ですね。 何か嬉しいな」
返事はないけれど、イモムシは幸せだ。
大好きなタンポポと一緒に過ごす時間は、宝物。
雨が降り、タンポポの花びらが濡れる。
イモムシは心配だが、自分にどうにもできないと分かっていた。
だから寄り添う。
時が経った。
タンポポの黄色い花びらが白い綿毛に変わる。
「タンポポさん。 さよならだね。 でも、 また必ず会えるよ。 信じてる」
イモムシの言葉と同時なに風が吹いた。
白い綿毛がフワフワ空へと舞い上がる。
イモムシはそれを見ていた。
最後の綿毛が彼方へ消えるまで。
「タンポポさん。 新しい場所でも、 キレイな花びら見せて下さいね」
イモムシはノソノソとその場を後にした。
叶う事ない恋だとしても、一方通行な想いでも。
誰かを想う心は美しい。
イモムシにはそれが分かっていた。
だから、敢えてタンポポに寄り添った。
短い間でも。
だから、綿毛を見送った。
また咲いて欲しいから。