第一章(2)「居候の仕事」
リュックを背負って雑貨屋を出て西に行くと、広大な農場が広がっていた。今日もいい天気。やっぱ朝はいいね。このまま空へと飛んでいきたいわ。
今日のクエストは隣町の雑貨屋に近所の畑から採れた農作物を届ける仕事だ。
内容も簡単で力仕事のみ。楽勝、楽勝。
農場に来てみるとすでに老夫婦が作業をしていた。
「すみません…。エリクおじさん。ちょっと、遅れました。」
「ああアレンか…。大丈夫、問題はないよ。じゃあ今日もよろしく頼むよ。」
そう言いつつ、エリクおじさんは俺に籠いっぱいの作物を渡す。今朝採れたばかりなのだろう、野菜も色鮮やかで美味しそうだ。向こうでつまみ食いしてくるか。
「つまみ食いは駄目よ。後で分けてあげるから。ところでミントは?」
そういうのはソフィアおばさん。
心を読まれているのか?ちょっとくらいいいじゃんか。たくさんあるのによ…。
「ミントは午前中は依頼屋で事務だ。午後からは一緒に仕事をすることになってる。」
「そうかい。毎日一人で運ぶのも大変だろうが頑張っておいで。」
「ああ、ちゃんと仕事はこなすのでご安心を。じゃ!行ってくる。」
籠の作物をリュックに入れ農地を後にする。後は雑貨屋に届けるだけだ。
ちなみに話題は変わるけど俺の相棒はどこにいるでしょう?
答えはカードの中。
契約された魔物は特別なカードに封印され、俺はカードに呼びかけることによっていつでもヴァ―シュを出すことができる。さらにはカードの状態でも会話をすることができるのだ。
雑貨屋でクエストの報酬をもらい依頼屋に帰りドアを開けると仕事を終えて一服しているミントの姿があった。
「おかえり、アレン。よく頑張りました!はい!ご褒美にハグしてあげる!」
俺が視界に入り次第抱き付こうとするミント。俺はそれを適度にかわす。視線を戻すと床に突っ伏していた。わお、痛そ…。
「俺たちは異性なんだからそこんとこもう少し気を付けろよ…。はいこれ、今日の報酬。」
「いいじゃないの!別に減るもんじゃないんだし。まあいっか、いつものことだし…。昼食にしよ。」
席に座り彼女が用意した昼食を食べる。
メニューはトーストに卵と焼いた干し肉、ラピスキャベツのサンド(マスタードのせ)
相変わらずこいつの料理は上手い。俺も料理してもここまで作れない。最高だ。
ちなみにこいつにもシュヴァルのことは知らない。厄介ごとには巻き込みたくないからな。
「午後のクエストは何するんだ?」俺が聞くと、
「シルバート付近で魔物が出たらしいから、それの討伐クエスト。」
「魔物が現れた?珍しいな。槍でも降るんじゃねーの?」
「魔物クエストを毎日血眼にして、ハアハア言いながら探していた人間がそれを言う?」
「そこまではなってないだろ!これじゃあ変態じゃん!」
「今頃気づいたの?第三者が見たら絶対同じ反応すると思うけどな…。
アレン、魔物マニアだもん。」
「そこまで酷いとは思わないけどな…。」
その会話にヴァ―シュも反応する。
「ミント…。こいつに言っても無駄だ…。自覚がないからな。」
「酷い言われよう…。俺グレちゃうよ、いいのそれで?」
「いいけど、私のおかげで生活できているのに、働かないとまた路頭に迷っちゃうよ。アレン死んじゃうよ…。」
「嘘です。すいませんミント様許してください!」
俺はすかさず土下座する。こいつには頭上がんないわ、無理。
「全くもう…。次のクエストは1時からだから30分後に着替えて一緒に行こう。」
そういいながら彼女は自分の部屋に入っていった。
俺たちだけが部屋に取り残される。
「俺もさっさと着替えて武器のメンテしとくか。」
そう言いつつも、久しぶりの実戦でワクワクするアレンであった。