第一章 「魔物の異変、旅立ち」 (1)「居候の日常」
「じゃ、よろしく頼むよ」
「分かった。できるだけ早く終わらせる」
「依頼屋・アルド」という小さい家屋の一室で少年と少女の会話が響く。
少女の髪は金色のショートヘア。瞳は瑠璃色の宝石のようで太陽の光を浴びて輝き、あけどなさが残る顔立ちがそれをさらに引き立てている。小柄な体を包むのは青と白を基調としたローブ。
彼女の名はミント。俺より一つ歳下だが、この店を一人で営業しているしっかり者だ。真面目でいいね。俺とは大違い。
少年はぼさぼさの色素の薄い髪。装備は古びた革のジャケットに灰色のズボン。
俺の名はアレン。
つい最近18歳になったばかりのハンターだ。
恥ずかしながらも依頼屋の2階に居候をしている。
いつものやり取りの中で俺は話題をふる。
「魔物討伐のクエストは無いか?」
「そのセリフはもう聞き飽きたよ……たまには違う言葉をしゃべろうね」
「俺はハンターなのにこれじゃ市民の生活と変わらないじゃん」
15歳の時からハンターになり魔物討伐の依頼をやってきたが他のハンターたちにより魔物の数も減ってしまった。昔はたくさんいたハンターも徐々に数を減らし、今ではこの町には10数名程度しかいない。なのでここ2年間は依頼屋でアルバイトをこなしながら生活を送る毎日。ハンターという職があるのに、これじゃあフリーターじゃん。
ヤべッ…、涙出そう…。
涙が出そうな気持ちをこらえつつ、話を続ける。
「お前だって、魔物を久しぶりに見たいだろ?」
「全く思わないって。魔物がいないってことは平和の証拠でしょ。いいことじゃないの」
「じゃあ、お前はどう思うよ。ヴァ―シュ?」
ふとつぶやくと俺の隣の何もない空間から魔物が姿をあらわす!狼の頭をした魔物だ。
魔物も悪いやつばかりでない。魔物を封印するのではなく、心を通わせ契約することによって使い魔にすることもできる。そしてこいつが俺の相棒ヴァ―シュだ。
「俺に聞くな。そんな事言ったところで魔物は増えん。それよりも時間は大丈夫なのか?」
ふと時計を確認する。時計の針は6時55分を指している。
今日の仕事は7時からだ。
「やっべ!遅刻しそう……とにかく今日の仕事に行ってくる!」
「行ってらっしゃい!私は午前中は事務の仕事してるから午後からはクエスト手伝えると思うから」
「頼むぜ。じゃあ今日も頑張りますか」
「ヴァーシュも行ってらっしゃい!」
「了解。さっさと終わらせてゆっくりさせてもらうぜ。ミントも頑張りな!」
そう言いながら俺たちは雑貨屋を出た。
交易都市シルバートは今日も平和である。