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読んでいただきありがとうございます

沢山の視線。乗せられているのは純粋な興味や邪な思考。

その全てがステージに立つ俺たちに向けられている。


そして俺たちがステージの中央に立つと、拍手が小さくなり、すぐに止む。


「では、国王様からお祝いの言葉をいただきます」


そう言って案内がステージから消えると、ステージの照明が消え、後ろの方が明るくなる。

後ろはステージよりさらに一段高くなっており、その上の大きな椅子に座る人物が照らし出されていた。


「よく御出でになられました、『勇者』様」


翻訳魔法が作動し、国王の言葉の正しい意味を伝える。


「まあ、そう硬くならないでください。私は貴方がたが召喚され、今ここにいることを心から嬉しく思っています」


さっきの案内が人数分グラスを持って来て、俺たち四人にそれぞれ配る。


「今日は貴方がたの『歓迎パーティ』です。無礼講とはいきませんが、このひと時が楽しいものになることを願っています」


反吐が出る。何が歓迎パーティだ。


「それでは、乾杯」


――――――


ステージのから降り、下の会場で食事を取るように進められる。

豚に近い何かの丸焼き、キレイに盛り付けられたサラダ、豪勢な料理がこれでもかと並べられており、人々はそれを自分の皿にとって食べている。所謂ビュッフェの様なものだ。


『ハイドミラージュ』


気配を消す魔法と姿を消す魔法。周りから見れば人がいきなり消える様に見えるため当然驚くだろう。だが消えてしまえば、まわりを気にしなくて済む。


他の三人は数人と仲良く談笑している。自分が品定めされているとも知らずに。

綺麗な服を着て、旨い料理を食べ、話しかけてくる人間は皆好意的で会場は歓迎ムード。そこに酒も入り、さぞ幸せな気分だろう。

だからいつもよりつけこみやすく、取り入れやすい。そこを狙って皆話しかけてくるのだ。そんな私欲が見え見えの奴らとは関わりたくもないし、話もしたくない。


いっそこのまま会場を出て部屋に戻るか迷うが、何も食べずに戻りたくない。未使用の皿を探すが見つからず周りを見ていると、どうやらウェイターが配っているようだ。そうなると皿をもらうためには魔法を解除する必要がある。

魔法を解除すれば、当然周りから話しかけられるだろう。肥えた豚のような奴が、品定めをするような目線で、『勇者』との関わりを求め話しかけてくる。

めんどくさい。

その一言に尽きる。


やはり戻ることにしよう。


――――――


魔法を使ったまま来た道を戻っていると、向こうから二人の兵士が歩いてきた。


「いいよなー貴族の奴らは。今頃パーティで旨い飯くってんだろうなぁ」

「いい匂いもするし、俺も一度でいいから行ってみたいもんだぜ」

「まあ俺たちは一生無理だろうけどな。一応王城警備兵になったとはいえ、騎士になったわけでもないし、ましてや貴族になるなんて無理な話だ。ま、俺は腹芸なんて出来ねぇし、あんな豚みたいな奴らとは付き合いたくもねえしな」


「そう言えば何で勇者が呼ばれたか知ってるか?俺は近々戦争を起こすからって聞いたんだが、お前は何か聞いたことあるか?」

「あるある。俺が聞いた話は隣の国なんつったっけ。ア、ア、アードール?」

「アーグルだ馬鹿やろう。なんだよアードールって。んでアーグルがどうしたって?」

「そのアーグルが攻めてくるらしいぜ。何でも戦争の準備のために色々ほかの国から物資かき集めてるとか」

「あー、国土小さいもんなーあの国。んで一番近いうちが標的になったと」

「じゃねえの?俺も詳しく聞いたわけじゃないしあくまでも噂だからな」


話しながら隣を通り過ぎていく二人。こちらに気づいた様子はない。

戦争か。出来れば始まる前に終わらせて、帰る手段を探さなくては。


部屋の前につきドアを開けると、メイドが部屋を掃除していた。勿論俺は見えていないので、ドアが勝手に空いたように思ったのだろう。とても不思議がっている。


「俺だ」

「勇者様でしたか」


声をかければあまり驚いた様子もなく、すぐに掃除を再開する。


「すまん、何か食べるものを持ってきてはくれないだろうか」

「パーティで食べてこられたのでは?」

「豚共が私欲丸出しで話し掛けてくる所で食欲が湧くと思うか?」

「なるほど。少々お待ちくださいませ、まかないなら何かあると思いますので」

「すまんな」

「いえ」


そう言うと掃除道具を置き、足早に部屋から出てくメイド。俺は魔法を解いて、備え付けの椅子に座る。

.....何もすることがない。メールは来ていないだろうし、銃の手入れをするわけにもいかない。刀は手入れ不要だし、眠るのはもっての外だ。だがパーティ会場に戻る気は更々ない。やることが無いかと考えを巡らせていると、不意にドアをノックされた。

メイドが帰ってくるにしては早すぎる為、別の誰かだ。パーティ会場に居ないことがバレたのだろうか。


「あー、メイドすらいねえのかよ。つかどこ行きやがったんだよあのやろう」


その声は紛れも無く、国王の物だ。


「って開いてんじゃん。んじゃ誰か......げ」

「........」


ドアを開いて中を覗いた体制のまま、固まる国王。どちらも喋らないため微妙な空気が漂う。


「随分と汚い言葉遣いだな」

「......パーティ会場に戻る気はありませんか、『勇者』様」


勇者。翻訳魔法は正しい意味を伝える。


「貴様らの様に勇者と呼びながらも頭では奴隷としか考えていない奴らと同じ飯を食えと?」

「......なんのことかさっぱり。もしかしてあのケガのせいでしょうか。今すぐにでも魔導士を連れて来ましょう」

「俺を殺すか?どうせ連れてきたところで時間稼ぎ程度にしかならないと、お前も分かっているじゃないか」


「それに、この部屋から出られると思っているのか?」


それを聞いて国王はドアノブに手をかけるが、もう遅い。

こいつが部屋に入ってドアを閉めたときに、魔法で鍵をかけた。ついでに防音の結界も張ったため、このやりとりが一切外に漏れることはないし、扉を破壊する以外ここから出る方法もない。


「.....思考を読む魔法か」


猫をかぶるのを止めたのか、敬語が消えてさっきまでの荒々しい言葉遣いに戻る。


「さあな。第一ここで種明かしをする馬鹿がいると思うか?」

「.....で、俺をどうする気だ?殺したって何もいいことが無いのは簡単に分かるはずだ」

「命乞いか」

「まあ、そうだ」

「そうだな、お前が言うとおり、お前を殺したところでどうにかなるわけでもない。だからと言ってこのまま返すわけにもいかない。反逆罪で死刑というのは避けたい」


このまま返してしまっても何もいいことがない、それは当たり前だ。


「じゃ、こう言うのはどうだ」

「俺がこれからある程度お前の『行動』を黙認する替わりに、俺をここから出す。勿論このこともお咎め無しだ。悪い条件じゃないだろう」

「.....ふむ、もう一つ付け加えるなら」

「いいぜ」


「元の世界に返せ」

「......」

「......」

「......戦争が終わったらな」

「ならいいだろう。条件を飲む」


扉にかけた施錠の魔法を解除して、防音の結界も解く。


「ったくとんだ災難だったぜ。もう自分の部屋戻って飲み直すか」


そう言って出ていく国王。


「全く面倒なことに巻き込まれたものだ」

「そうですね」


「いたのか」

「いえ、今戻りました。取敢えず、まかないでよろしいでしょうか」

「すまんな」

「いえ」


料理を口に運びながら考える。


後ろ盾が手に入った事。

国王が決して無能ではなかった事。

これからの振る舞いについて。

まかないを食べても、考え事は尽きなかった。


読んでいただきありがとうございました

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