表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/4

読んでいただきありがとうございます

「ふぅ」


雨が降る中、裏路地の建物の壁に寄り掛るように座り込む。

寄りかかることによってできた汚れは、雨によって洗い流される。髪が濡れ、顔に張り付き視界を遮るが、それももう気にならない。


空を見る。相変わらず雨が降り、真っ暗だ。ビルの窓から溢れる光が、一層それを強調する。


何気なく来た道を見てみれば、溜まった雨が濃い赤に染まっていることに気付く。

それと同時に理解した。


もう、手遅れなのだと。



―――――――――――――――――――


父が死んだ。13歳の春だった。

母が病気になった。13歳の夏だった。

妹が病気になった。13歳の秋だった。

人を殺した。13歳の冬だった。


―――――――――――――――――――


生きるのはとても大変だ。

まず、強くなくてはならない。精神的にも、肉体的にも。

次に、食事をしなくてはならない。

そのために、金が必要だ。

金を得るためには仕事をしなくてはならない。会社員でも、土木工員でも、政治家でも、強盗でも、結局は金が手に入る。過程よりも結果が大切だ。

そうやって考えていくと一向に考えが尽きなくなる。


しかし、終わるのは呆気ない。

たとえどんなに強くても、たとえ国を築けるほどの財産があっても、たとえ国の王だとしても。

終わってしまえば、意味がない。






「......」


どれだけの時間が経ったのだろうか。いや、自分が生きているということは、まだそんなに長い時間が経っていないのだろう。だが、雨は止み、雲の間から星が顔を覗かせている。


綺麗だ、と思う。無論、声には出さない、いや、もう声が出ない。


だがこんな綺麗な星空を見たことがあっただろうか。星が規則正しく並び、まるで魔法陣の様に――――――


唐突に思い出した、というよりも理解した。


あれは、召喚陣だ。あいつの所で一度見た物に似ているが、細部が違う。あいつの所で見たものより随分と非効率的だ。だが、問題はそこではない。

術式の規模が大きすぎる。召喚陣は本来武器や道具などを遠くから取り寄せるための物のはずだ。だがあれは違う。上手く回らない頭でもはっきりと理解出来る。

あれは、生物、よりによって人間を、異世界に連れ去らう物。標的は......四人。目的は分からない。


....四人の内の一人は誰かわかった。

俺自身。


足元に出来た魔方陣がその証拠だ。





転移にも似たあの感覚。

体が分解され、再構築されるような、出鱈目な感覚。

背中から壁の感覚が消え、そのまま後ろに倒れ込む。


「ようこそ、勇......って一人死にかけてるうぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!?」


意識が途絶えるさなか、そんな叫び声が聞こえた気がした。


―――――――――――――――――――


勇者召喚。それはこの国に伝わる秘伝の大規模詠唱魔術。

宮廷魔導士を総動員して行う儀式。召喚が成功すれば、上位世界から力のある人間を召喚することができる。

召喚、と言えば聞こえはいいが実際やっていることは異世界からの人攫い。

それに召喚された人間が協力的かは分からない。過去に何度かこの国は滅ぼされかけたらしい。その時はどうにか説得して帰ってもらったそうだ。そう国史には書いてあるが絶対に違うと思う。


お....そろそろ光が収まってきた。まずは会話の主導権を握るために挨拶をして一方的に話さないといけない。


「ようこそ、勇......って一人死にかけてるうぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!?」


なんだこれ。会話の主導権握るどころか一人死にかけてるじゃねーか。おいどうすんだよこれ。


「お、おい、何をしている!動けるものは勇者を治療しろ!」


お、魔導士A、ナイスな判断。みんなまだ結構動けるじゃん。今動いてる奴後で昇格させてやるよ。

ま、他にも三人召喚されてるし、一応挨拶とかしないと。三人皆放心状態じゃん。今のうちに...


「よ、ようこそ勇者。よく分から「あ、あの!!」


おい、いきなり話遮んじゃねーよ。てめーの聞きたいことは俺が今から喋ってやっから。つか母親から人の話を遮っちゃいけないって言われなかったのかよ。最低限会話のマナー位守るべきだろ。どんだけ躾がなってねーんだよ。あーヤダヤダ、これだから平民とか相手したくないってのによ。マジどんだけだよ。


「ここ、どこなんですか!?」

「はい、ここは「うわぁあああああああああ」


お前もかよ。いい加減にしろよ。男のくせに何血を見ただけで叫んじゃってんの?何腰抜かしてんの?あれか、平和な世界からきますたってやつか?生憎こっちの世界じゃ割りと日常茶飯事だから。人とかマジ簡単に死ぬから。俺が死ねって言えば喜んで死ぬやつとか結構居るから。...こんなの勇者で大丈夫だろか?


「血...血が、あばばばばばばば」


おいおい気絶しちまったよ。こりゃダメだな。早急にどうにかしないと。


「あ、あのっ」


お、男が気絶したからさっきのやろうが話しかけてきやがった。


「こ、こっこここ、ここは何処なんでしょうか」


それを今から話そうとしてたんだよ。でもテメーが話遮ってくれたおかげで今まで話せないで居るんだよ分かる?つまりお前がその質問をする権利なんてねーんだよ。でも特別に答えてやるとしよう。じゃねーと話が進まねー。


「はい、ここは「ちょっとあんた!!」


もう突っ込まねーぞ。勝手に喋りたいだけしゃべれ。俺は完全に受身の形で行くから。


「ここはどこ!私たちはなんでここにいるの!それと何で死にかけている奴がいるの!?」


おうおうヒステリックだねー(棒)。

ならそれが聞きたいなら俺の話を遮んじゃねーよ、全部今から話すから。というか喋らせてくれ。マジで話が進まん。


「.......こk「国王様!!」


おい。お前は ク ビ だ。


「死にかけて「うっせぇえええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!何話し遮ってんだよ!マジなんなんだよお前ら!俺が話し始めた瞬間狙いすましたように話しかけてきたり叫んだり!喋らせろ、お前らは黙れ!分かったか!復唱!!」


「「「「「「「「「「うっせぇえええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!何話し遮ってんだよ!マジなんなんだよお前ら!俺が話し始めた瞬間狙いすましたように話しかけてきたり叫んだり!喋らせろ、お前らは黙れ!分かったか!」」」」」」」」」」


「そうじゃねぇえええええええええええええええええええええええ!!!!!!」


なんだこれ。



なんだこれ

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ