悲哀
放課後
僕は、帰り支度をしていた
隣の田中も同じように帰り支度をしていた
すると、桜が田中の前にすっと立った
「あのさ、道也君。一緒に帰らない?」
とても、田中が嫉ましい
しかし、どうしようもないのだ
なぜなら彼は、青山の運命の人だからだ
将来が約束された二人だからなのだ
その事実を知ったのは、1年前だった
その日、僕は桜と歩と三人で、学校から、帰っていた
みんな、家が近くにあり、幼稚園も、小学校も、中学校も一緒だったから、一緒に帰ることが多かったのだ
その日も、いつものように一緒に帰っていた
そして、何気なく桜が
「私の運命の人は、田中君なんだ。」
と打ち明けた
正直、素直には祝えなかった
歩は、
「おお、そうなのか!幸せにな。」
と、素直に祝った
しかし、僕は
「そう。よかったね。」
と、ため息混じりに言ってしまった
嫌なやつにしか見えないだろう
絶対に
運命が決まっていることが分かっていたのに、勝手に片思いして、勝手にふられて、
挙句の果てには、素直に祝えもしないのだ
ひどい奴だ
それに、僕は、まだ、あきらめきれてないんだ
ねっちこい男だ
「はあ」
小さくため息をこぼした
泣きそうだ
心の中が聞こえてしまいそうで
早く帰ってくれ
と、心の中で願った
すると、歩が、
「照途、一緒に帰ろうぜ!」
と、誘ってきた
「うん」
荷物を入れ終えた鞄を抱え、桜たちと帰る時間が重ならないように、足早に教室を立ち去った