魔法の鏡がひび割れるまで
◇ お伽話・本編
昔々、国王陛下に寵愛され魔法の鏡と共に輿入れされた美しい男爵令嬢が、色々な苦難を乗り越え王妃様となりました。
それは、豪奢な王妃様のお部屋に飾られ、王妃様の問い掛けに優しく応えてくれる魔法の鏡だったそうです。
「鏡よ鏡。この城で一番美しい者は誰?」
『それは王妃様、貴女です。』
朝目覚めて、身支度をし、毎日王妃様は、魔法の鏡に問い掛け、魔法の鏡はそう答えました。
それが3度の年越し祭を過ぎた頃、新たに公爵家の令嬢が第一側妃として王宮へと輿入れしました。
若く麗しい国王陛下に乞われて、魔法の鏡と共に輿入れして来た男爵家の王妃様には、子が出来ませんでした。
王妃を愛する国王陛下さまでも、流石に後継を望む臣下たちの声を結婚して3年も経つと無視出来なかったのです。
「鏡よ鏡。この城で一番美しい者は誰?」
『それは王妃様、貴女です。』
第一側妃を迎えた後に王妃様と魔法の鏡の対話が繰り返されました。
そして半年後にも、侯爵令嬢が第二側妃として、国王陛下に嫁いで来ました。
また王妃と魔法の鏡との対話が繰り返されました。
「鏡よ鏡。この城で一番美しい者は誰?」
『それは王妃様、貴女です。』
それから半年後、狩りに出かけた国王陛下は、可憐な男爵未亡人を狩場から連れ帰り、愛妾としました。
王妃と同じ元は男爵令嬢でした。
珍しく王妃様は魔法の鏡への問い掛けはしませんでした。
彼女は王妃様の異母姉でした。王妃様が、この事に気付く事は終ぞなかった。
実は王妃様の持つ魔法の鏡は、この異母姉の持ち物だったのです。
そして一番最初に懐妊したのは、妃ではなかった愛妾の男爵未亡人だったのです。
次は第一側妃の公爵令嬢、次は第2側妃の侯爵令嬢と次々と懐妊して行き、王宮は目出度さで活気に溢れ出しました。
愛妾様は陛下に似た男の子を生み、第三側妃として格上げされました。
次に第一側妃は、女の子を生み、第二側妃は、男の子を出産なさいました。
そして2年後、第三側妃は、雪のように白い一際美しい女の子を出産しました。
王の寵愛は、いつの間にか王妃様より第三側妃へと移っていたのでした。
そんな或る日、久しぶりに魔法の鏡へ王妃様が問い掛けました。
「鏡よ、鏡。この城で一番美しい者は誰?」
『ブランシェ王女が年頃になるまでは王妃様、貴女が一番美しい・・・。』
その答えに王妃様は、手にしていた扇をピシリとヒビ割れさせました。
「なぜ・・・?」
魔法の鏡の思わぬ答えに王妃様は戸惑い、意識を失いました。
◇
王妃マリアの物語
父である男爵と再婚した母と共に入った男爵家で、義姉の部屋に在った繊細な装飾が施されたこの鏡を一目で気に入り、父に頼んで義姉から譲り受けたモノだった。
「それは魔法が掛けられているから、この部屋から出してはいけないわ。」
そう泣き喚いていた義姉の言葉を無視して男爵の父親は、魔法の鏡をアタシの部屋へと飾ってくれた。
それからは、鏡に向かって色々な願い事を告げて見た。
月日が経って、唱えなければ為らない言葉が自然と脳裏に浮かび、その言葉を唱えると何故か都合の良い事ばかりが起き始めた。
《王子様に会いたい》と願うと13歳で貴族学院に通えるようになった。
《王子様の恋人になりたい》と願うと王子様の恋人になれた。
《王妃様になりたい》と願うと、王子様の邪魔な婚約者が病気に成り婚約が解消され、アタシを妃にするのに反対していた王様が急死した。
そして国王になった王子様に望まれ、魔法の鏡と共に王宮へと嫁ぎ、アタシは望み通りの王妃様になれた。
お城で魔法の鏡に向かいアタシが「鏡よ、鏡。この城で一番美しい者は誰?」と問いかけ、『それは王妃様、貴女です。』と魔法の鏡から応えて貰えると、満足の行く一日へとなって行った。
王妃に成ると子供を産みなさいとアタシに周囲は煩く言うけれど、醜い体形になる子供なんて身籠りたくなかった。
だからそんなことは願わずに、楽しいパーティーを開くことにアタシは夢中になった。
国王になった王子様は、相変わらずアタシに優しくて、幸せな日々。
でも他国の王子様が来るパーティには参加させて貰えないのが不満だったけど、子供のいない王妃様には参加を許可出来ないと怖い宰相に叱られた。
その内、子供を産む為の側妃が娶られた。
此の頃からアタシの王子様は、疲れた顔をしてアタシと夜を過ごさなくなり、2人で居る時も「王子様でなく陛下と呼べ。」と言われる様になった。
そして魔法の鏡にアタシが呼び掛けても応じるまで時間が掛るように成り、楽しいと思えることが少しずつ出来なくなっていった。
やがて王宮でパーティーも開けなく為り、時間を持て余し暇になった。退屈なので、そろそろアタシも王妃様らしく子供が欲しくなった。
「鏡よ、鏡。この城で一番美しいのはアタシ。だからアタシの次に美しい子供が欲しいわ。」
『・・・・・』
その日、魔法の鏡からの応答は無かった。
少しアタシは、言い間違えちゃったみたい。
それからしばらくしたある日、アタシは熱を出し寝込んだ。
数日たって回復してからアタシは幸せに成る為の問い掛けを魔法の鏡にした。
「鏡よ、鏡。この城で一番美しい者は誰?」
『産まれたブランシェ王女が年頃になるまでは王妃様、貴女が一番美しい・・・。』
その言葉に衝撃を受けたアタシは、「なぜ・・・。」と呟き、意識を失った。
その日、国王陛下から愛され男爵令嬢から王妃になった王女が、亡くなった。
◇
フェリシアの物語
母が亡くなり1年後、父と再婚した美しい継母には12歳になるマリアと言う可憐な娘が居た。
私より3つ年下のマリアは、どうやら父の娘らしい。
中々後継を産まない母と話し合い、妾を囲うことにしたそうだ。
その時、男の子が生まれたら其の侭、男爵家へと入れ、父と母の息子とすることを約束したそうだ。
父は、母の裕福な生家、伯爵家からの嫁入りなのに、傲慢な事を言う男だった。一応、遠縁にあたるらしい。
光属性の魔法が使える母が、生家から命じられていたのは、男爵家にある呪いの鏡の解呪だった。
私も光属性の魔法が使えた為、7歳から12歳まで神殿で学び、男爵家に戻ってからは母と一緒に呪いの鏡の解呪を手伝った。
話し掛けたモノの欲望を叶えるモノだそうだが、周囲にいるもの達に不運を齎すそうだ。
そして最終的に願いを叶い続けた者を不幸にし、魂ごと命を奪うというもの。
呪いを作動させない為に、絶対話し掛けては為らないと言う。
不気味な装飾に縁どられ、鈍く金色に禍々しく見える鏡を亡くなった母の部屋から私の部屋へ移し、私は母から習った通りに不気味な装飾へと解呪の呪文を唱え、光の魔力を注ぎ込んでいた。
そんな時に再婚相手として妾の親子が我が家へと入って来た。
養女になった義妹のマリアは、早々に父に強請って、私の部屋に置かれた古ぼけた不気味な鏡を欲しがった。
私はなんとか父を止めようとしたが、殴られ蹴られて、強引に義妹マリアの部屋へと鏡を持って行かれた。
(愚かな・・・)
痛む身体を侍女たちに抱えられ、私は自室に戻り、震えながら恐怖した。
やっと少し鏡面へヒビを入れることが出来たのに、もしかして解呪されたくなくて、マリアたちを鏡が此の屋敷に呼び込んだの?
それでもマリアが貴族学院の寮に入ってから、屋敷を留守にしている間、こっそりと忍び込んで解呪の魔力を注ぎ込んでいたのに、継母が身籠ると父の友人の男爵令息の元へと私は嫁がされた。
忸怩たる思いで婚姻先の男爵領で子育てと家政に精を出して数年後。
国王夫妻が無くなり、あのマリアが学院を卒業し、我が国の王妃となった。
年若い国王を義妹のマリアが支えられるとは思えないし、王宮を中心にして、なんだか嫌な気配がするという噂が地方の婚家にも聴こえて来た。
あの呪いの鏡がなんかやらかしているに違いないと私は母方の伯父へ「会って話がしたい。」と手紙を書いた。
実家に居た時は、伯父や母方の祖父からの手紙を父から邪魔されていた為、気になって居た彼らと久々の再会になった。
どうやら義妹のマリアは嫁ぎ先の王宮へ、呪いの鏡を持ち込んでいるらしい。
もしかして王太子の婚約者が病に伏したのも、マリアとの婚姻に反対していた両国王陛下が相次いで亡くなったのも呪いの鏡のせいかも知れない。
私たち下位貴族は、王宮に行く事は無いが、伯爵の祖父や叔父たちが王宮のパーティーに参加すると、なにやらマリアに逆らい難い気持ちになるそうだ。
祖父が暫く思案して、「王宮の外で宰相閣下に相談しよう。」と私に告げて婚家の男爵領から帰って行った。
それから暫くして、光の属性魔力を持つ令嬢二人が側室として王宮に召され、その間に夫が亡くなった男爵未亡人の私にも王都郊外の王家猟場へと宰相閣下から招集が掛かった。
義妹マリアと離れて8年ぶり。
私が24歳、マリア21歳の時である。
二人の側妃を得ても健康なのに子供が出来ない23歳のフランシス国王陛下と自然に出会えるように王都郊外の狩場へ私が出向き、偶然の出会いを宰相閣下が演出してくれた。
私は光属性の回復の魔法は使えない為、疲れて見えるフランシス国王陛下へルミナス(聖力)魔法を掛けた。
宰相閣下と違い何時も近距離にマリアの傍に居るフランシス国王陛下へ纏わりついている悪意の淀みを払ったのだ。
すると青白かった国王陛下の顔色が明るくなった。
「貴女といると安らげる。其方の名前は?」
「フェリシアで御座います。」
「そうか、良い名だ。」
そうおっしゃって麗しい顔を私に向けて、ニッコリと国王陛下は微笑んで呉れた。
それから呪いの鏡のことや義妹マリアについて陛下へと打ち明け、陛下に求められる侭、愛妾となり、一週間ほど猟場の屋敷で過ごし、共に王宮の離れへと向かった。
婚家の男爵家は弟夫婦が継ぎ、7歳になる息子は祖父の居る伯爵家に養子に入り、育てて貰うことにした。
そんな手続きも宰相閣下からの遣いの方が手際よく片付けてしまわれるので、もしかしたら領地視察の際に事故死した夫は、宰相の手によって?と言う疑念を私が持つのも仕方のない事ですよね。
私より7歳年上の夫は、傲慢な父の友人の令息らしく我儘な方でしたので、情を持つことは終ぞありませんでしたが、我が子ローランだけは愛しくて、夫の弟家族に邪険に為さる前に、このお話を頂いて祖父へと預けました。
猟場の屋敷で過ごし一週間で、フランシス国王陛下と宰相閣下、2人の側室様たちにルミナスを込めて作ったアミュレットを差し上げました。
すると王宮の離れに住んで3か月後に私が懐妊し、立場が愛妾から第三側妃へと上がり、続いて第一側妃様、次に第二側妃様の懐妊の知らせが届きました。
私の生んだ第一王子のアルフレッドは、正式な婚姻前でしたし、後見が出来る家柄でも無いので、成人したら王位継承権を得ずに一臣下として生きていかせる心算であることを国王陛下と宰相様へと伝え、了承して貰えました。
公爵令嬢である第一側妃様は、第一王女殿下を、侯爵令嬢である第二側妃様は、第二王子を出産された。
順調に成長されたら第二王子が、王太子殿下に為られるだろう。
陰鬱に淀んでいた王宮は、次々生まれる国王陛下の御子の祝辞で明るい活気に満ちて来た。
2年後、私は第二子に雪のような白い肌に輝く白金の美しい第3王女を出産した。
白い雪のような娘で在ったので、夫のフランシス陛下は〔ブランシェ〕王女と名付けて呉れた。
ブランシェが生れた時期に合わせて神聖ロベリア教皇国から、遠路はるばる国教のユリウス教のロベリア教皇猊下が来てくださり、ブランシェに祝福を与えて下さった。
祝福を下さった日、義妹マリアが亡くなり、その後、呪いの鏡が砕け散っていたと言う話を伝えられた。
聖堂の鐘が響き、ここ数年、重苦しかった王都の空気が、晴れ渡る秋空の下で、清々しい空気になったとか。
呪いの鏡は、遥か昔に精霊や妖精たちの悪戯で造られたアーティファクトであったと、その後、ロベリア教皇から聞かされたのだった。
【完】
今から約千年前、アトラス大陸で人類が神の怒りにふれた大浄化が行われ、人々の耳目や記憶から精霊たちを神が消し隠した。
その頃作られたアーティファクトの多くは精霊たちや妖精たちに寄り作られ、使い方次第では人類に災いを齎すモノも多く在る。
詳細を知るのは、ユリウス大聖堂に集うロベリア教皇と12人の枢機卿のみ。




