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初めての手助け

 佐倉小春は、ポケットの中の町を訪れることが日常の一部になりつつあった。あの日以来、毎日のようにその小さな世界を覗き込むと、町の住人たちはいつも小春を待っているような気がしてならなかった。言葉を交わすことはできないけれど、住人たちの目線や手振りから、何かを求められていることが分かる。


 そして今日もまた、小春はポケットの中に手を入れ、町の中を覗いた。

 町の風景は、以前と変わらず静かで美しいものだった。街路樹の葉が風に揺れ、小さな家々が並んでいる。空は淡い青色に澄み渡り、遠くには小さな山々が見えた。町の住人たちは、今日もまたそれぞれの仕事をしている様子だ。

 けれど、今日は何かが違った。どこか静けさが漂っている。小春はその違和感を感じ取った。

「何か、ある?」

 小春はポケットを少し広げ、その中にさらに目を凝らした。すると、視線の先に、何か異常があるのを見つけた。

 町の中央にある、小さな家が倒れかけていた。屋根は歪み、壁が崩れかけている。住人たちがその周りをうろうろしているが、どうにも手を出せない様子だった。小さな手で支えようとしたり、何かを試みたりしているが、どれも無力に見える。

 小春はすぐにポケットの中に手を差し入れた。目の前の景色が、現実のものとは思えないくらい小さく、愛おしく見える。けれど、この町には一つだけ、現実の世界と同じような問題があるのだ。それが目の前で起きている。

 住人たちは、まるで小春に気づいてほしいと言わんばかりに手振りを大きくして、崩れかけた家を指さしている。小春はその手振りに気づき、再びその家に目を向ける。壊れかけた家は、見たところ修理が必要そうだ。住人たちの体では、到底手に負える問題ではないだろう。

「私が何とかしなくちゃ。」

 小春は心を決めた。もう逃げるわけにはいかない。この町と住人たちが、何かを頼んでいることを感じ取ったからだ。そして、ポケットの中の町で最初に起きた奇跡を思い出す。あの時も、何もできないと思っていたけれど、手を差し伸べることで、町に変化が訪れた。


「うん、私ができることをしよう」

 小春は深呼吸をして、手をポケットの中に深く差し入れた。目の前の倒れかけた家を見つめながら、自分の心を落ち着ける。指先が、あたたかい町の空気を感じると、じんわりと力が湧いてくるのを感じた。

 そして、彼女の手が家に触れると、あたりがふっと明るくなった。温かな光が、小春の指先から広がり、まるでその光が町全体を包み込んでいくかのようだった。

「お願い、直してあげて」

 小春は心の中でそう呟きながら、力を込めて家に触れ続けた。ポケットの中の町は、まるで生きているように感じられ、家が修復されるのを手に取るように感じ取れた。どこからともなく、穏やかな風が吹き、住人たちがその光景をじっと見守っている。

 次第に、崩れかけていた家が元に戻っていく。歪んでいた屋根が正しい形に戻り、崩れた壁が元通りになった。修復された家は、まるで新しいもののようにきれいになり、光がその周囲を包み込むように広がっていった。

 ポケットの中に、花火のような光が散るのを感じた。あちらこちらで、きらきらとした光が弾ける音が聞こえ、町全体に幸せの兆しが広がっていった。

 住人たちは歓声を上げ、手を叩いて喜びを表現していた。小春はその光景に、思わず微笑みがこぼれた。彼女の胸の中に広がる温かな感覚は、言葉にできないほど優しいものだった。自分の手で町を助け、住人たちに喜ばれることが、こんなにも嬉しいことだとは思わなかった。

「ありがとう」

 一人の住人が、嬉しそうに手を振りながら駆け寄ってきた。小春はその住人に微笑み返し、何となく胸が温かくなるのを感じた。言葉が通じないことは分かっているけれど、その住人の表情が全てを物語っていた。

 住人は小春の前に立ち、手を広げて家の中を指し示した。どうやら、小春にその家の中に入ってほしいのだろう。小春は少し戸惑ったが、住人の目を見て頷くと、家の中に足を踏み入れることにした。

 家の中に入ると、そこは思った以上に温かく、落ち着いた雰囲気が漂っていた。小さなテーブルの上には花が生けられ、壁には可愛らしい絵が飾られている。床には、ふかふかの絨毯が敷かれていて、どこか懐かしい気持ちを呼び起こす。

 住人たちは、次々と小春の周りに集まり、嬉しそうに手を叩きながら感謝の気持ちを表している。その様子を見て、小春は胸がいっぱいになった。何も言わなくても、心から伝わる感謝がある。それが、何よりも嬉しい。

 小春は住人たちに微笑みながら、心の中で決意を新たにした。

「私は、もっとこの町を助けたい。もっと、みんなのためにできることがあるんじゃないかな」


 ポケットの中の町には、まだ解決すべきことがたくさんあるに違いない。でも、小春はそれを恐れず、むしろ楽しみにしている自分がいた。

「ありがとう。私、頑張るからね」


 小春は心の中で誓いながら、ポケットの中の小さな町を見つめていた。ここで、彼女の成長が始まるのだ。

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