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ラッキーオーナーブリーダー2  作者: 秋山如雪
第2章 父の夢を継ぐ者
7/12

第7話 将来への可能性

 令和2年(2020年)。


 この年の春。彼ら子安ファームにまた新しい命が誕生する。彼らは新しい馬の誕生に立ち会った。


「父は、大種牡馬のヴィッカース、母は重賞2勝を含む9勝の名牝。これは期待できるな」

 馬主でもあり、オーナーブリーダーでもある圭介は、多少無理をしても昨年種付けをしたことを後悔はしていなかった。


 そして、産まれてきた新しい命の誕生。


 一見すると、鹿毛の牡、どこにでもいそうな幼駒だった。


 ただ、例によって興味本位で立ち寄って、ちゃっかりお産に立ち会っていた、坂本美雪は、傍らに明日香を連れて、予言めいた一言を告げるのだった。


「この仔は、きっと走るよ」

 と。


「また、美雪さんの戯言ざれごとが始まったか」

「戯言じゃないって」

 圭介は呆れていたが、彼女の傍に控える、小さな頭が動いて、圭介を捉えていた。


「パパ。美雪さんの言う通りだよ。きっと、歴史を作る仔になる」

「マジでか。そんなのわかるわけないと思うけどなあ」


「わかるよ。ただ、強力なライバルがいなければ、だけどね」

「そうですね」

 美雪が呟き、明日香が応じる。


 この凸凹コンビの予言が、後に「将来への可能性」を示唆しているとは、圭介は当然、思っていなかった。


 産まれた仔は、「ファイアフライ」と命名された。


「おお。シャーマン・ファイアフライから取ったんですね」

 近くにいた、ポニーテールの女が気色を面上に示していた。相馬美織だった。父譲りのミリオタでもある彼女の言に、


「しゃーまん・ふぁいあふらい?」

 明日香が、可愛らしく小首をかしげていた。


「第二次世界大戦で、イギリスが国産の17ポンド対戦車砲をアメリカ製のM4シャーマンに搭載した巡航戦車だよ。そういえば、ドイツの戦車エース、ミハエル・ヴィットマンのティーガーを撃破した戦車でもあるね。あれ、もしかしてオーナー、狙ってます?」

 矢継ぎ早に早口でまくし立てる、そんな相馬に明日香は「よくわからない」と言いたげな視線を送っており、一方で圭介は苦笑していた。


「まあ、多少は」

 圭介は、内心、特にヴィットマン、つまりかつて10年ほど前に活躍したステイヤーを意識した物ではなかったが、曖昧に相槌を打っていた。


 この時期、圭介は娘たちに振り回されていた。

 特に次女の麗衣、9歳と三女の麻里、7歳に。


 麗衣は、大人しくて感情を表に出さない、ある意味、「子供らしくない」子で、どちらかと言うと、人見知りが激しい子だった。


 いつも母親の美里に懐いており、圭介にはなかなか懐かないが。


 ある時、牧場の馬の様子を見に行った圭介は、厩舎で馬を見ていた彼女と遭遇した。


 どこか気まずいような沈黙の空気が流れる中、唐突に彼女は父の目を見つめてきた。


「麗衣。馬、好きなのか?」


 コクンと短く首を縦に振ったまま、彼女はじっとその場から動かなかった。ただ、馬房に入れられている馬の様子を、食い入るようにずっと見つめており、圭介が話しかけても、どこか(うわ)の空だった。


(何考えてるか、わからない子だな)

 我が子ながら、圭介はこの麗衣に少しばかり苦手意識を持っていた。ただ、それは決して「嫌い」という感情ではなく、理解はしようとしていた。


 元々、口数が少なく、大人びているが、麗衣は悪いことをする子ではなかったからだ。


 一方、7歳の麻里は。


「お父さん。私、お馬さんに乗りたい!」

 まだ幼稚園児の頃から、盛んに父にそのことをせがんだから、仕方がなく、馬の扱いに慣れており、乗馬経験もある牧場長の真尋に付き添わせて、一緒に乗ってもらい、慣れてきた頃、引き馬をしてもらった。


 幼い麻里は、麗衣とは別の意味で、馬が好きになったようで、


「麻里は、将来、騎手になりたいのか?」

 と尋ねたところ、


「お馬さんに乗る人? うん!」

 満面の笑顔で頷くのだった。


 三人娘は、それぞれ別の方面で、才能を発揮しつつあったが、さすがにこの段階では、圭介も美里も、彼女たちの将来の予感すらできていなかった。

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