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ラッキーオーナーブリーダー2  作者: 秋山如雪
第1章 10年後の軌跡
5/12

第5話 強心臓と運命の種付け

 平成31年(2019年)、春。


 この年の5月、年号は令和と変わるが、まだ変わっていない時期の4月。


 とある幼駒がこの子安ファームに誕生した。


 父は、種牡馬2年目の、ゾルファガールという牡。いわゆる「持込馬」だが、4年前のNHKマイルと、日本ダービーをどちらもコースレコードで制した馬で、将来の大種牡馬として期待されていた馬だった。


 その幼駒を見た、獣医の岩男千代子が、産まれたばかりの仔を見に来た、圭介や明日香たちに向かって、驚くべき発言をしたのだった。


「この仔、心臓の音がすごいです」

 と。


「えっ。心臓の音ですか?」

「ええ。こんな心臓の音は聞いたことがないというか。力強いというか。とにかくすごい馬です」

 獣医だからこそわかる、直感的なものか、それとも長年の経験則によるものか、圭介にはわからなかったが、立ち会った牧場長の真尋もまた、岩男千代子の言を首肯していた。


 岩男千代子によると、体がものすごく丈夫だという。

 怪我をしやすい競走馬にとって、それが大きなメリットであることを、もちろん圭介は認識していた。


「岩男先生の言う通りだよ、オーちゃん。この仔はマジですごいよ。これで勝てなかったら、逆にヤバいと思うくらい」

 と、太鼓判を押していた。


 一方、妙なところで相馬眼を発揮する、明日香は、この産まれたばかりの仔の様子をじっと見つめていたが、やがて、父の袖をくいっと引っ張った。


 ジェスチャーで耳を貸せ、と言っている娘のために、かがんだ圭介に、彼女は小声で告げるのだった。


「これから伸びる気がするから、ドラゴンでどう?」

 と。


 変なところで、父に似ている明日香に、圭介は苦笑しつつも、そのまま娘の提案に従い、名前をつけた。


 冠名の「ミヤムラ」をつけて「ミヤムラドラゴン」と。


 そう。この時からまさに「ドラゴンロード」は始まっていたのだ。後に、この「ドラゴン」が本当に天へと昇り詰めるような存在になるとは、この時、誰も思わなかったが。


 同年、令和元年と変わった5月。


 種付けを行うにあたり、この年はとある特徴的な種付けが行われた。


 父は、すでに6年連続でリーディングサイアーとなっていた、ヴィッカース。名種牡馬としての地位を確立していた。

 母は、昨年、相馬美織の推薦によってセールで入手した、アリエテという馬。


 後に、この両者の仔が、死闘を演じ、そして大きな存在になっていくことになる。


 子安ファームは、まだ大きな戦いの前の、「嵐の前の静けさ」の様相を呈していたが、時はゆっくり、確実に動き出していた。

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