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ラッキーオーナーブリーダー2  作者: 秋山如雪
第8章 覚醒する者たち
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第45話 地方の雄とあねっこガールズ

 日本競馬において、観客の多くを魅了するレースは、いわゆる「中央競馬」の舞台に集中している。


 対して、地方競馬は言わば「裏」の世界。

 馬主としては、中央で活躍できなかった馬を、仕方なく地方に移転させるということが決して珍しくはない。


 地方は、中央と違って、「レベルが低い」とみなされてきた歴史が確かにあった。


 しかし、今、岩手の地では、ある地方馬が世間の耳目を集めていた。


「ミヤムラプリンス、また勝ちました! これでデビューから負けなしの11連勝!」

 圭介が契約している競馬専用チャンネルの映像から流れてきたのは、ミヤムラプリンスの雄姿。

 1年以上前のデビュー後、すぐに屈腱炎により半年も休養していた、子安ファーム所属の地方馬、ミヤムラプリンス。

 名付け親は明日香だった。


 そのミヤムラプリンスが、今、覚醒の時を迎えようとしていた。


 その年の4月からやっと現場に復帰。一度は出走取消にもなっていた、ミヤムラプリンス。しかし、それ以外のレースは全て1着だった。


 実は預けている調教師に圭介が聞いた話によると、このミヤムラプリンスという馬は、脚が決定的に弱い、という。

 つまり、負担をかけると、すぐに屈腱炎のような怪我に見舞われる恐れがあるため、陣営は割と軽い調教を施し、時には脚にテーピングをして走らせていた。

 重い調教を施せば、確かに重賞などのレースに勝ちやすくなるが、怪我を恐れたのだ。ある意味、これがジレンマになっている。


 ところが、これが勝つわ勝つわで、気が付けば無傷の11連勝。


 地方の競馬場では、中央ほど観客が入らないし、盛り上がらないのだが。


 次のレースに、陣営は六華賞というレースを選んだ。


 2025年12月20日(土) 水沢 9R 六華賞(ダート・右・2000m)、天気:曇り、馬場:稍


 当然、このレースは重賞でもないので、盛り上がらない、と思いつつも圭介はさすがにこれだけ勝っている馬だから、見に行くべき、と娘の明日香に説得され、仕方がなく、彼女と次女の麗衣、三女の麻里を乗せて、車で北海道から岩手県の水沢競馬場に向かった。


 そこで見たのは、競馬場の端のステージで、派手なピンク色のフリフリのドレスを着て、踊り、歌を歌っていた3人組の若い女性アイドルグループの姿だった。

 しかも、歌の歌詞がしっかりと「ミヤムラプリンス」を応援する内容になっている。

 どうやら、彼の連勝を聞きつけて、わざわざそういう歌を作ったらしい。妙に凝っていると圭介は思った。


「何だ、あいつらは?」

「お父さん、知らないの? あねっこガールズだよ」


「あねっこガールズ?」

「そう。岩手県のローカルアイドルでね。センターの子がスミレ、右がサクラ、左がミドリ。みんな可愛いでしょ」


 と、麻里に説明を受け、視線をステージに向ける圭介だが、

「みんな同じ顔に見えるな」

 と、中年のおじさんらしいセリフを吐いていたら、さすがにその娘に突っ込まれていた。


「違うよー。どこ見てるの? スミレは元気一杯のロリ系美少女、サクラはちょっとアンニュイな美少女、ミドリはちょっと大人っぽい美女。岩手県でも人気だけど、最近、動画配信で有名になって全国区になってきたね」

「ふーん。あねっこってどんな意味だ?」


「えーとね、岩手県の雫石しずくいしの方言で、『お姉さん』とか『年頃の女の子』って意味だね」

「それだと、『お姉さんガールズ』とか『年頃の女の子ガールズ』になって、意味がかぶってないか?」


「もう、お父さん、細かいところにうるさい」

「しっ。静かに。レースが始まるよ」

 結局、圭介は麻里に怒られ、麗衣に諭され、レースを見守ることになった。


 このレースでは、10頭立てだったが、ミヤムラプリンスは1番人気。というより、彼はデビュー以来、一度も「一番人気以外」になったことがなかった。


 そして、後方に控えるレースを展開していたかと思いきや、最後の直線であっさりと先頭を捉え、外から差し切るという、模範のようなレースであっさり勝利を手にしていた。


 その後、再び、くだんの「あねっこガールズ」の3人組が、ステージ上でタンバリンを鳴らし、その後、彼の活躍をマイクを使って、わざわざ祝福していた。

「ミヤムラプリンス、勝利おめでとう! これでデビューから無傷の12連勝!」

「この連勝はどこまで続くんでしょうか?」

「私たち、あねっこガールズはこれからも、ミヤムラプリンスを応援します」

 三人の少女たち、圭介から見て推定年齢20歳前後の三人が口々にマイクを通して声を上げていた。


「ミヤムラプリンス、がんばってるね」

 レースを神妙な面持ちで、じっと見守っていた明日香が、声を出した。


「そう言えば、お前が名付け親だったな」

「うん」


「どう思う?」

「脚が弱いのは確かだね。だから、彼は無理に中央に遠征させない方がいいと思う」


「地方競馬だけで使うってことか。賞金額が全然違うぞ」

 圭介が懸念していたのは、たとえレースで勝っても、地方のレースの優勝賞金は、中央に比べて格段に少ないということだ。つまり、せっかく勝っても「稼げない」まま終わる。


 簡単に言うと、中央の重賞では1億円を超えるのがザラだが、地方の重賞で1億円を超えることはまずなく、数千万円がいいところだ。


「それでも、無理はさせたくない。逆に地方競馬を盛り上げると思えばいいんじゃない」

「私も明日香姉さんの考え方に賛成だな」

 次女の麗衣までも、長女に賛成のようだった。


「麻里はどう思う?」

「いいんじゃない。それにあねっこガールズがせっかく応援してくれてるんだし。ミヤムラプリンスのお陰で、地方競馬が盛り上がれば、それはそれでいいことだし」

 三女の麻里までもが同意見だったので、圭介もまた彼女たちの意志を尊重することにした。


 早速、預けている調教師のところに娘を連れて行き、娘の意見をベースに提案してみたところ。


「私たちも同意見です。ミヤムラプリンスは、確かに脚部に不安を抱えています。つまり、中央に移送するだけでもこの馬にとっては大きなストレスになるのです。でしたら、地方、岩手で活躍させることもありかと」

 調教師もまた同意見だった。


 圭介は、娘たちの慧眼けいがんに感心しながらも、引き続きミヤムラプリンスを岩手競馬で使うことを、調教師の確認し合うのだった。


 そして、このミヤムラプリンスが、後に地方競馬にある種の「革命」をもたらすことになる。

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