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ラッキーオーナーブリーダー2  作者: 秋山如雪
第8章 覚醒する者たち
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第44話 女王誕生

 競馬では、夏を越えて秋になると、急成長する馬がたまに現れる。


 そして、この年の秋。4歳になった彼女、ミヤムラスイートは、子安ファームではまだ未勝利、勝てば初となる大レースに挑むことになった。


 2025年11月16日(日) 京都 11R エリザベス女王杯(GⅠ)(芝・右・2200m)、天気:晴れ、馬場:良


 ここに出走する「彼女」を応援するため、ただでさえ自家生産馬を身贔屓する傾向がある明日香が、お気に入りと言っていいくらい、推していた彼女、ミヤムラスイートのために、圭介に従って、彼女も乗り込んだ。


 今回は、お供をする相馬美織も着いて来ていた。


 そして、京都競馬場では。


「ういっす。儲かってるかね?」

 またもいつものように、飄々と姿を見せたのが、ギャンブラーの坂本美雪。


 どこにでもふらりと競馬場に現れる彼女が、一応、説明してくれるのだった。


 京都競馬場・芝2200m。その特徴は、内回りコースの直線入り口付近からスタート。直線が平坦でテンの入りは速くなるが、1コーナーまでの距離は397mと長く、それまでにほぼ位置取りが決まり、外回りでバックストレッチも長いため、ゆったりとしたペースになることが多い。


 古馬のレースの場合は上がりの速い競馬が多く、下り坂で一気にペースが速くなる。そのまま最後の直線でどこまでトップスピードを維持できるかの勝負。一瞬の切れよりも、スピードの持続力が問われる。


 とのことだった。


 人気面では、ミヤムラスイートは、2.7倍の2番人気。だが、優駿牝馬オークスで2着、秋の秋華賞で優勝していた、3歳のメアリーローズが2.5倍の1番人気。だが、人気はほとんど拮抗していた。


 そこで、圭介はパドックを見てから、馬主席に向かい、彼女たちに意見を聞いてみることにした。


「私は、もちろんミヤムラスイート」

 明日香は、聞くまでもなかったが、残りの2人の予想は違っていた。


「メアリーローズですかね」

 美織が順当な人気馬を推しているのに対し、


「サツマハルカの逃げが面白いと思うよ」

 美雪が推したのは、16.4倍の5番人気の馬で、前哨戦の府中牝馬ステークスで3着、その前の福島牝馬ステークスでは4着の馬だった。ちなみに昨年度は府中牝馬ステークスで1着、その前のクイーンステークスでも1着、エリザベス女王杯では2着に入っている。


 そして、4人でファンファーレの音を聞き、レースを見学することになるが。


「ミヤムラスイート、入りました!」

 テレビ中継では、解説者的立場にいる、元・女性騎手が嬉しそうに声を上げていた。


 そう、「わがまま女王」にとって、まずこのゲートに無事に入ることが重要な儀式なのだ。

 そこをクリアしただけで、一堂は安堵する。


 実際、アナウンサーから、

「これで大きな難題をクリアしました。後はスタートですね」

 と言われる有り様。


 前走の天皇賞(秋)での、ミヤムラスイートのゲート嫌い騒動が、まだ彼らの脳裏に焼き付いているのだろう。


 スタートすると、ミヤムラスイートはいきなり出遅れており、中団の後方を追走。


 ハナを奪ったのは、美雪が推していた、サツマハルカで内埒うちらち沿いからいきなり先頭に立って、レースを引っ張る形になった。


 向正面に入ると、場内から歓声が上がっていた。

「さあ、大逃げだ、大逃げだ!」

 実況アナウンサーが告げるように、サツマハルカが文字通りの「大逃げ」体勢で、後続を一気に突き放して疾走していた。


 その差、2着と10馬身差。


 京都競馬場の坂を下っても、まだサツマハルカが4馬身以上のリードを保ったまま、最終コーナーに差し掛かる。


「あと、300m。今年はついに逃げ切るか!」

 残り300m地点で、尚もサツマハルカがリードを取っていた。


 残り200m付近。

 周りの馬に飲まれ、馬群の中から飛び出してきた、1頭の馬が歓声を浴びる。

「外からミヤムラスイート!」

 それは、見事な末脚だった。


 ゴール板まで残り100m。強烈な末脚を発揮した、ミヤムラスイートは、外から豪快に差し切る形で、ゴール手前で内側にいたサツマハルカを抜き、半馬身差でゴールイン。


「ミヤムラスイートです! 差し切りました!」

 大歓声に包まれる京都競馬場。


 そんな中、明日香は満面の笑みを浮かべていた。

「やったよ、スイートちゃん!」

 明日香は、隣にいた美織とハイタッチして、喜んでいた。


「ああ、明日香の願いが届いたのかもな」

 圭介は優しい目で見守っていた。


「これでGⅠ3勝! お父さんがお母さんと約束したことの一つがクリアされたね」

「ああ」


「いや、惜しかったなあ、サツマハルカ」

 一方、美雪は推していた馬があと一歩で負けて悔しそうにしていた。


「美雪さんはどっちの味方ですか?」

 明日香に突っ込まれ、彼女は冷静に、馬のキャラが描かれた帽子の下から、

「私は全ての競馬ファンの味方。というより、冷静沈着にレースを予想するだけ」

 と、少し格好をつけたような言い方で答えていた。


 かつて、初めて坂本美雪に競馬場で会った時、彼女は最終コーナーから物凄い気合いの入った大声で応援していたということを思い出し、圭介は苦笑していた。

 彼女も成長したのだろう、と。


「相馬が推していた、メアリーローズは?」

「5着ですね。ハズしました」


「まあ、競馬は難しいってことだな」

「そうですね」


「美織さんはどっちの味方ですか?」

「いや、明日香ちゃん。私も冷静にレースをね……」

 結局、ミヤムラスイートを強烈に推していた、明日香によって彼女もまた問い詰められて、言葉に詰まっていた。


 こうして、ミヤムラスイートは、GⅠを3勝目という栄誉を勝ち取った。かつての「わがまま女王」が本当に、「女王」の称号を手に入れた瞬間だった。

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