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ラッキーオーナーブリーダー2  作者: 秋山如雪
第7章 復活と逆襲
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第40話 フロックではない証明

 競馬にとって、一年の集大成、有馬記念が終わった。

 その最後は、衝撃的な結果として、人々の記憶に残るもので、無敗の三冠馬である、デアフリンガーを、子安ファーム所属のファイアフライが追撃を振り切って勝利したものだった。


 有馬記念が終わると、いわゆる芝のGⅠは年内にはなくなる。


 しかし、まだ最後のGⅠが残っていた。

 それが、ダートの年内総決算、大井競馬場で行われる東京大賞典だった。


 2024年12月29日(日) 大井9R 東京大賞典(GⅠ)(ダート・右・2000m)、天気:晴れ、馬場:良


 そこに参戦するのが、子安ファーム所属の、「復活した」ダートキング、バルクホルンだった。


 だが、前走のチャンピオンズカップで勝って、復活をアピールしたものの、まだ怪我明けから間もない彼のことを疑う向きは強く、「フロック」、つまりまぐれ勝ちだと見る関係者も多かった。そのため、彼は単勝3.2倍の2番人気になっていた。鞍上は、ファイアフライで有馬記念を制した、キール騎手が務める。


 それに対し、海外でのGⅠでは勝てなかったが、国内では安定した勝利を積み重ねていた、ヴィッテルスバッハが単勝1.6倍の1番人気になっていた。


 そして、同じく前走に出走した、3歳の強豪、ユーティライネンがバルクホルンに続く単勝5.6倍の3番人気。


 まさにこの暮れのダート決戦は、「三つ巴」の様相を呈しており、先日のチャンピオンズカップ同様にそれぞれの馬主、子安圭介、山寺久志、長沢春子による、代理戦争と化していた。


 このレースに、圭介は今回は三女の麻里を連れて行くことにした。

 姉妹の中で最年少ながら、最も自由奔放で、行動が読めない彼女。


 しかし、彼女の感性は独特の物がある、と圭介は見ていた。

 弱冠11歳の幼い彼女を、いつものように相馬美織に監視というより、保護させるように同行させ、東京都品川区にある大井競馬場に向かうのだった。


 大井競馬場、ダート2000m。実は南関東4競馬場の中で、大井は唯一の右回り競馬場である。2000mのコースはスタートが直線奥で、広い外回りを使用することから、他の南関競馬場とは違ってコースの半分以上が直線となるという特徴がある。


 直線は長いとはいえ、2000mの場合は向正面、残り1000m付近からペースが速くなることで、ロングスパート勝負になりやすい。従って、求められるのは早めにスパートして、長い直線を乗り切る持続力になる。


  内の馬場が極端に悪くない場合は、内である程度脚を溜め、直線で外に出せる馬が有利になりやすい。逆に1コーナーまでの距離が遠いことで内枠の馬がポジションを取りやすく、外枠、特に8枠は外側を回らされやすいことで不利になりやすい、と言われている。


 その大井競馬場。「東京シティ競馬」とも言われ、都会の中にある割には、大きく、そして綺麗に整備されている。


 そこのG-FRONTと呼ばれる、ゴール前の建物の2階まで、圭介は例の如く、彼女に呼ばれていた。


「またお前か、緒方。暇なのか?」

 喫煙室まで呼び出された圭介は、煙たい空間に入って、悪態をついた。


「失礼ね、暇じゃないわよ」

 その緒方マリヤ。冬なのに、割と丈の短いスカートを履いていたが、そこは一応、元はアイドル。年齢の割にスタイルはいい。

 手に、馴染むように電子タバコを持って、紫煙を吐いていた。


「年末のダート総決算、東京大賞典。これは外せない上に、一応、グライエフっていう馬が出てるでしょ」

「ああ。確か船橋と川崎中心に活動してる馬か。そういやお前んとこの馬か」

 かろうじて覚えているレベルの圭介に、彼女は不服そうに顔を歪めた。


「何、言ってんの、あんた。今年の帝王賞で勝ったでしょうが」

「そうだっけ?」


「そうよ! グライエフはね、船橋のダイオライト記念と、大井の帝王賞に勝ってるのよ。まあ、最近はちょっと成績がイマイチだけど、今日は調子良さそうだわ」

 圭介とは9歳違い、今年38歳になる緒方だが、いまだに独身。しかも40歳近いとは思えない、若さと美貌を保っていたが、彼女は地方馬主として、そこそこ活躍していた。

 つまり、ある意味、男に頼らずとも、アイドル時代と馬主時代の稼ぎで全然一人で生きていけるのだ。


 その辺と元々の性格も含めて、相変わらず彼女は強気だった。


 ということで、仕方がないと思いつつも、彼女を伴って、馬主席に向かい、観戦することになる。


「あれぇ。お父さんの新しい彼女さん? 愛人さん?」

 などと、緒方と初対面の麻里が、空気を読まず、遠慮なく言葉を発したので、慌てたのは本人たちよりも、相馬美織だった。


 何とか、麻里に美織が説明して、事なきを得るが、その場に美里がいなくてよかったと、圭介は思うのだった。


 東京大賞典特有の、ファンファーレが鳴り、出走となる。全10頭によるレースだ。

「スタートしました。ちょっとグライエフのスタートがよくないか」

「ユーティライネンが2番手」

 馬主の緒方には、いきなり衝撃的な内容のスタートになり、グライエフがスタートから明らかに遅れていた。


「外からバルクホルン」

 一方で、バルクホルンは比較的好位につける。


「バルクホルンのインコースに入りました。ヴィッテルスバッハが4番手」

 実況の声と歓声がこだまする中、レースは続く。

 そのまま、最初のゴール前を通過していく。


 1コーナーから2コーナーに入る。

 先頭の逃げ馬に対し、ユーティライネンが2番手、バルクホルンが3番手につけていた。

 5番手には、ヴィッテルスバッハがつけていた。グライエフはさらに後方に控えていた。


 4コーナーを回ると、勝負は熾烈になる。

 先頭を奪ったのは、ユーティライネン。

 しかし、


「外からヴィッテルスバッハ! そして、バルクホルン!」

 バルクホルンとヴィッテルスバッハが抜け出して、ユーティライネンをかわす。先頭はわずかにバルクホルンにかわっていた。


 そして、

「この2頭が激しい追い比べ!」

「バルクホルン! ヴィッテルスバッハ! しかし、抜かせない、バルクホルン、ゴールイン!」

 最後まで抜かせることなく、まさに1対1のガチンコ勝負を演じたバルクホルン。ライバルとも言える同年齢のエース、ヴィッテルスバッハを抑えて、先頭でゴール板を駆け抜けていた。


 1着バルクホルン、2着ヴィッテルスバッハ、3着ユーティライネン、5着グライエフとなっていた。

 それぞれの馬主による、熾烈な争いを制したのは、圭介のバルクホルンだった。


「前走に続いて、ヴィッテルスバッハを退けました、バルクホルン!」

 大歓声に包まれる場内。


「やっぱり、明日香姉さんが言ったように、強いね、バルクホルン!」

「明日香から何か言われたのか?」


「うん。私の代わりに、バルクホルンの活躍を見てきてって」

「そっか」

 圭介の問いに麻里が答えたように、彼女は姉であり、バルクホルンの一番の理解者でもあった、長女の明日香から、自分の代わりにしっかりとバルクホルンの姿を見てきて報告して欲しいと言われたという。

 内心、明日香もついて行きたかったのかもしれない。


「5着か。しかし、こうなるとバルクホルンの強さは、フロックじゃないわね。怪我明けとは思えない走りだもの」

「フロッグ? カエルなの?」

 無邪気に問いかける麻里に、緒方は、首を振り、


「違うわ、おチビちゃん。フロッグじゃなくてフロック、つまりまぐれってことね。世間はこれでバルクホルンの完全復活を認識するでしょう。そして、これで最優秀ダートホースにも選ばれるでしょう」

 説明しつつ、バルクホルンのことを語っていた。


 その緒方マリヤの言う通り、バルクホルンは、この年、最優秀ダートホースに選出されたのだが、すごいのは2021年にも選ばれており、それから3年も経過してから再度この賞を受賞したことだった。


 かつて、そんな受賞の仕方をした馬は、いなかったのだ。


 バルクホルンは、ダート界の常識を打ち破り、同時に屈腱炎という、競走馬にとっては致命的な怪我から見事に復活して、再度、競馬界で輝く存在になっていた。


 こうして、2024年が終わり、翌年が訪れる。次の年は、色々な意味で「勝負の年」になるのだった。

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