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ラッキーオーナーブリーダー2  作者: 秋山如雪
第7章 復活と逆襲
38/45

第38話 世界のドラゴン

 どんな競走馬にも決して避けられない運命の日。

 それが「引退」。


 短距離戦線で活躍し、ある意味、「歴史をつくった」、GⅠ5連勝中のミヤムラドラゴン。


 その最後は、国内ではなく、「香港」だった。


 2024年12月8日(日) 香港・沙田シャティン競馬場 5R 香港スプリント(GⅠ)(芝・右・1200m)、天気:晴れ、馬場:良


 ミヤムラドラゴンは、これまでの実績から、単勝1.8倍の圧倒的1番人気に推され、現地、香港でも人気と期待を集めていた。


 対するは、昨年の同じ香港スプリントで争った、世界的な名短距離馬、アキュラシー。

 香港を含む短距離GⅠ4勝を果たし、本年度のチェアマンズスプリントプライズでも勝っていた。

 しかし、その後精彩を欠いたことにより、単勝9.2倍の4番人気だった。


 引退レースということもあり、今回も圭介は、長女の明日香と、牧場長の結城真尋を連れて、香港の地へ降り立った。


Ça() fait(フェ) longtemps(ロンタン)

 今回も、彼女が現れた。


 モデルのようなスレンダーな体型に、お嬢様のような優雅なワンピースを着て、サングラスをかけて現れたのは、日系フランス人のアニエスだ。


「何て?」

「久しぶりって意味だな」

 娘に聞かれ、圭介が答える。


C'est() exact(ゼグザクト ). 」

 アニエスが満足そうに頷く。


 その彼女と、そして真尋の意見はほぼ一致していた。

「アキュラシーはもう落ち目。ミヤムラドラゴンは勝つよ」

 もはや確信に似たような、自信満々の声音こわねで、彼女たちは口々にミヤムラドラゴンの良いポイントを挙げた。


 曰く。

 馬体重が適性、距離も得意、去年と変わらない、などなど。


 この香港スプリントは、圭介にとって、アスカチャンで二度挑み、二度とも負けて帰国し、三度目の正直の昨年に、ミヤムラドラゴンで初めて海外GⅠで勝った思い出の地。


 そして、ここでミヤムラドラゴンが勝てば、連覇となる。


 海外でのレースは、当然ファンファーレなど鳴らない。

 何故かスタートと同時に鈴の音が聞こえたような気がした、圭介だったが、英語の実況をBGMにレースを眺めてみると。


 ミヤムラドラゴンは、スタートから好位につけていた。


 レースでは、比較的外に進路を取り、追走すると最終コーナーを回って、直線半ばで先頭に立っていた。


 そのまま後続との差をぐんぐん広げ続け、最終的に2着の馬に、6ハロン戦=1200mとしては異例とも言える、そして同レース史上最高着差となる5馬身差をつけて圧勝していた。


Incroyable(アンクロワイヤブル)!」

 アニエスが放った言葉は、フランス語で「すごい」の意味で、英語の「Incredible(インクレディブル)」に近い表現だ。


「さすがだね」

「まあ、これでエルドール同様に、『有終の美』を飾れたね」

 明日香と、真尋もまた喜びの声を上げていた。


 こうして、異国の香港の地で、歴史的な圧勝を遂げ、ミヤムラドラゴンは、静かにターフを去ることになる。


 彼は、日本馬として史上初の香港スプリント連覇を果たし、文字通りの有終の美を飾った。さらに、このレースのパフォーマンスが、ワールドベストレースホースランキングにおいて128ポンドとの高評価を受け、スプリント区分では世界2位の高評価となっていた。


 さらに、2024年度の最優秀短距離馬に満票で選出される。正式な引退式は、年明け1月13日に京都競馬場で行われることになった。


 ミヤムラドラゴン。

 生涯成績は、19戦13勝。主なGⅠ勝ち鞍は、香港スプリント、スプリンターズステークス、高松宮記念、安田記念の計6勝。


 GⅠ6勝は、同じく子安ファーム一の稼ぎ頭、エルドールの6勝と同じだった。

 これ以降、子安ファームから、強力な短距離馬がほぼ出なかったことを考えると、彼の成績は驚異的なものだった。

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