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ラッキーオーナーブリーダー2  作者: 秋山如雪
第7章 復活と逆襲
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第37話 奇跡の復活

 かつて、3歳にして、チャンピオンズカップをコースレコードで制し、最優秀ダートホースに選ばれた、明日香曰く「ダートの天才」、バルクホルン。


 しかし、二度に渡る屈腱炎、そして手術。


 彼は実戦から遠ざかっていた。

 人間のスポーツにも言えることだが、怪我などで長い間、実戦から遠ざかると、「感覚が鈍る」。つまり、「勝ちにくく」なる。しかも2年の空白期間を経て、彼はもう6歳になっていた。

 競走馬で6歳は、早熟なら引退してもおかしくはない。


 そして、1年1か月ぶりに帰厩して、11月に行われた、武蔵野ステークス(GⅢ)に出走した彼は、2番人気に推されながらも、9着と惨敗。

 このレースは、12月に行われるチャンピオンズカップ(GⅠ)の前哨戦と位置づけられている。


 ここでの成績が、チャンピオンズカップに影響してくると見られているだけに、競馬関係者の多くが、「バルクホルンはもう終わった」と見ていた。


 そして、その本戦がやって来る。


 2024年12月1日(日) 中京競馬場 11R チャンピオンズカップ(GⅠ)(ダート・左・1800m)、天気:晴れ、馬場:良


 彼にとって、3年ぶりのダートの冬の一大決戦。


 しかし、下馬評では彼の人気は、低かった。

 これまでの戦績を加味して、なんとか単勝10.0倍の4番人気。

 鞍上は、今まで乗っていたベテラン騎手が怪我をして離脱していたため、急きょ、外国人騎手のキール・オベール騎手が担当する。


 一方。

 明日香、相馬美織といういつものメンバーで、中京競馬場に乗り込んだ、圭介の元にやって来たのは。


「やはりウチのヴィッテルスバッハが一番人気か」

 自信満々の表情を浮かべた、山寺久志だった。


 彼が所有する、ヴィッテルスバッハ。バルクホルンと同じく6歳だが、バルクホルンが怪我をして、戦線離脱をしている間に、地方を中心に「勝ちまくって」いた。

 すでにJBCクラシック(JpnⅠ)を制し、ドバイにも遠征していたし、国内GⅠを6連勝もしていて、勢いに乗っていた。

 当然、この馬が単勝2.4倍で圧倒的な一番人気に推されていた。


 そして、

「あら、私のユーティライネンもお忘れなく」

 馬主席に、颯爽と現れたのは、いつものように妙に着飾った格好をした、長沢春子だった。


「長沢さん」

「明日香ちゃん。久しぶり」

 彼女は明日香に手を振って、笑顔を振りまいていた。

 そのユーティライネン。


 まだ3歳の雄だが、ジャパンダートクラシック(JpnⅠ、旧ジャパンダートダービー、2024年に改称)を勝って、つい先日には、JBCクラシック(JpnⅠ)でヴィッテルスバッハに続くクビ差の2着に入線していた。

 すでに強豪と認識されており、単勝4.6倍の2番人気だった。


 彼らとの戦いにおいて、実戦から遠ざかっている、バルクホルンが一番不利で、本戦前のテレビ解説で、解説者の元・調教師の男が、


「バルクホルンは、GⅠの実戦から2年以上も遠ざかってますからね。常識的に考えて、難しいでしょう」

 と、遠慮なく意見を述べていたが、実は圭介自身も、正直、彼には期待していなかった。


 内心では、

(無事に走り終えてくれ)

 怪我を気にして、それくらいにしか思っていなかったし、二度の屈腱炎により、実際に彼がGⅠを走ったのは、2年半も前の2022年6月の帝王賞だった。


 もっとも、ダートは芝のレースと違い、馬に対する、脚の負担自体が少ないと言われている。


 しかし、彼の隣に座る、娘の明日香は違っていた。

(きっと勝てる)

 と、彼女は信じていたし、熱い視線をバルクホルンに向けていた。


 相馬美織は、そんな明日香を、実の妹でも見るかのように、優しげな瞳で見守っていた。


 そして、圭介たち子安ファームのバルクホルン、山寺久志のヴィッテルスバッハ、長沢春子のユーティライネンという、かつてのライバル馬主同士が本気で、それぞれの所有馬を応援する、代理戦争のような、久しぶりのライバル対決が始まった。


 関西バージョンの派手なファンファーレが鳴り響く、中京競馬場。

 冬晴れの中京競馬場で、世紀の大決戦が行われる。


 実はこのレース、地方や中央のダート強豪馬が集っている、注目のレースだった。つまりここで勝つことは、本当の意味での「強豪」であると証明できる。


「さあ、スタート。さて、まずは何が来るか……」

 落ち着いた声の実況の元、レースが始まる。


 肝心のバルクホルンは。5枠10番。黄色の帽子をかぶった、キール騎手が操っていたが、比較的好位につけており、前目の競馬を行っていた。


 ユーティライネンが、先頭集団に入り、2番手辺りを好走。ヴィッテルスバッハは、バルクホルンを見るように、彼のすぐ後ろについていた。


 向正面に入ると、ユーティライネンがハナを奪って、先頭に立っていた。

 一方、バルクホルンもヴィッテルスバッハも、位置をほとんど変えずに、じっくりと脚を溜めていた。


「ヴィッテルスバッハが動いた」

 実況の声が示すように、早めに仕掛けたのは、一番人気のヴィッテルスバッハだった。

 徐々に前に動いて行く。

 バルクホルンは彼にかわされていたが、キール騎手はまだ鞭すら使っていなかった。


 しかし、4コーナーを回った辺り。

「内から来たのは、バルクホルン! 外からヴィッテルスバッハ!」

 この辺り、混戦になっており、どの馬がハナを奪うか、予測がつかない事態になっていたが、バルクホルンは確かに「末脚」を発揮していた。


 その後が、すごかった。

 内埒沿いから、ユーティライネンをかわし、先頭に立ったバルクホルンに対し、ヴィッテルスバッハを始め、少なくとも3、4頭の馬が、外から猛烈な勢いで迫る。


「ヴィッテルスバッハ迫る。追い込み勢が怒涛どとうの如く、押し寄せる!」

 実況の興奮したような声と、大歓声が重なり、中京競馬場はカオスと化す。


 そしてついに、

「バルクホルン! バルクホルン、1着!」

 大歓声に迎えられ、見事に先頭で入線したのは、まさかのバルクホルンだった。


「ヴィッテルスバッハ、敗れる。バルクホルン、奇跡の王座復活! 2年ぶりのGⅠを制しました!」

 なおも、ざわめいている中京競馬場。どよめきに似た戸惑いの声が響く中、


「大きな怪我、屈腱炎から見事に立ち直りました、バルクホルン」

 その大歓声を浴びて、目に薄っすらと涙を浮かべていた少女がいた。


「明日香……」

「良かった。本当に良かった、バルクホルン」

 彼女自身、最もバルクホルンを愛して、彼の怪我の復帰を願って、クラウドファンディングなどで懸命に支えてきた人物だった。


 感極まって、涙を流す明日香を、相馬美織が姉のように優しく背中を撫でていた。


 この復活劇は、ドラマチックで感動を呼んだため、翌日のスポーツ新聞には、

「2年ぶりのGⅠ勝利。不屈のダート王、奇跡の復活!」

 と、大々的に報じられた。


 もっとも、実はこのレースに騎乗した、キール騎手が、この前にエリザベス女王杯を別の馬で制していたり、厩舎がしっかりと調教を施し、万全な準備をしたことも、バルクホルンが勝ったことの原因でもあった。


 とにかく、一時はもう勝てず、引退すら囁かれていた、6歳のバルクホルン。

 彼は再び、ダート王の座を奪回した。


 なお、ヴィッテルスバッハは3着。ユーティライネンは8着に終わっていた。

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