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ラッキーオーナーブリーダー2  作者: 秋山如雪
第6章 ドラゴンロードとわがまま女王
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第36話 覚醒したわがまま女王

 牡馬クラシックレースが始まる前の10月初旬。


 明日香が期待する、ダート王。そして屈腱炎で苦しんでいた、バルクホルンが帰厩した。

 去年、再び屈腱炎になり、手術を終えて実に1年1か月ぶりの帰厩だが、レース自体は2年以上も出走していないため、感覚が戻らず、一部の競馬関係者の間では、


「彼はもう勝てないだろう」

 とすら言われていた。


 そんな彼は、陣営の方針で、冬のダート決戦、チャンピオンズカップと東京大賞典を目指して調整に入った。


 一方、牡馬クラシックで、無敗三冠馬が誕生した翌週。


 2024年10月13日(日) 京都競馬場 11R 秋華賞(GⅠ)(芝・右・2000m)、天気:晴れ、馬場:良


 牝馬三冠はもちろん無理だが、それでもミヤムラスイートは桜花賞で5着、オークスで2着に入っている。


 暴れ馬だが、素質はあると見られていて、このレースにおいても、彼女の人気は高かった。

 単勝5.2倍の2番人気。6枠12番に入る。鞍上は、エルドールを扱っていた岩永騎手が務める。不思議な因縁というか、エルドールという「暴れ馬」に続いて、またも彼は暴れ馬の鞍上になっていた。


 ライバルは、単勝1.6倍の1番人気、春のオークスを制したマルゲリータで、彼女は夏にアメリカのGⅠで2着に入っており、勢いに乗っていた。1枠2番に入る。


 圭介たちは、先週と全く同じだが、またも北海道から京都競馬場に足を運んだ。


 お供をするのは、明日香と結城真尋だった。

 真尋は不思議な感覚というより、勘を持っているのか、

「このレースは面白そうだから行く」

 と、直前になって言い出し、半ば強引に夫の亨に仕事を押し付け、すでに行く準備をしていた相馬美織を説得して断念させて、ついて来ることになった。


(相変わらず自由人だな)

 と圭介は思いつつも、彼女には逆らえない雰囲気があるので、渋々了承していた。


 その京都競馬場のパドックの様子を見て、真尋は顔をしかめていた。

「何だ、どうした?」

 と、圭介が問うと、


「うーん。やっぱりわがまま女王は変わらないな。私の勘違いだったかもなあ」

 と、上の空というか、勝手に落ち込んだような表情を見せていた。


 一方で、同じく勘が鋭い明日香は、

「真尋さん。そんなことないですよ。スイートちゃん、今日は調子良さそうです」

 丁寧な口調で、彼女の発言をやんわりと否定していた。


 レース前の枠入りでは、ある意味、真尋の予感が当たっていた。

「おっと。ミヤムラスイート。ゲート入りを嫌がっています」

「ほら、まただ」

 彼女に指摘されるまでもなく、見るからにゲート入りを嫌がっている、ミヤムラスイートの姿がはっきりと見て取れた。


 他の馬は、いずれも大人しく誘導され、枠入りを順調に果たしているのに、彼女だけがゲート入りを激しく嫌がっていた。


 通常、競走馬はまずこの「ゲート入り」を勉強するのだが、彼女はいつまで経っても、このゲート入りを嫌がるのだ。


 しかも、今回はかなり難航しており、仕方がないと判断され、目隠しをされて、ゲートに誘導され、半ば騙された形で何とかゲート入りを果たしていた。

 ある意味、他の馬に散々迷惑をかけて、出走時間を遅らせていたのだ。


 そして、やっとレースが始まると。

「スタートしました。ほぼ揃いました」

 という実況の声。


 しかし、実際にはミヤムラスイートは、後方に下がっていた。


 レース自体は、平均ペースだったが、彼女は終始、後方を追走。18頭中16番手で最終コーナーを通過していた。


 そして、

「マルゲリータ、先頭!」

「リードは2馬身!」

 歓声に包まれながら、先頭を突っ切るのはマルゲリータ。


 誰もがオークスに続く、牝馬二冠なるか、と思っていた。


 そこへ。

 大外から、一頭の馬が物凄い勢いで突っ込んできた。

「外からミヤムラスイートだ!」

 その実況の声に合わせるように、急追したミヤムラスイートが、同じく伸びてきた5番人気の馬をゴール手前であっさりとかわすと、


「ミヤムラスイート、差し切った! リードを半馬身、1馬身くらいでゴールイン!」

「ミヤムラスイート、やりました!」

 まさかの事態、と言うべきか、圭介と真尋は驚いて声が出ない事態となっていた。


 唯一、明日香だけは、

「ほら、やっぱりスイートちゃんはすごいんだよ!」

 と大喜びで、はしゃいでいたが。


「明日香ちゃん。まあ、がんばったと思うけど、あのゲート入りの癖だけはどうしようもないね」

「だな。何と言うか、先が思いやられるな。この先、どんな暴れっぷりを見せてくれるのか、心配だな」

 真尋と圭介、二人して否定的な見解を見せるのが不服だったのか、明日香は頬を小さく膨らませるようにして、珍しく怒ったように、指先を二人に向けた。


「もう、二人とも! スイートちゃんはがんばったんだから、そんなこと言わないの! 素直に祝福してあげて」

「ごめんなさい」

「わかった、わかった」

 明日香に強い口調で言われ、強気な真尋が珍しく謝っており、圭介も一応、反省していた。

 大人になると、つい様々な事情を考えて、素直になれなくなるが、明日香にはまだ純粋さが残っていた。


 こうして、牝馬クラシックの最後で、ミヤムラスイートが見事に秋華賞を制した。

 「わがまま女王」と呼ばれ、牧場でも警戒されていた彼女がようやくGⅠを制したのだった。

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