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ラッキーオーナーブリーダー2  作者: 秋山如雪
第6章 ドラゴンロードとわがまま女王
34/45

第34話 王子のデビュー

 同年、9月。


 本格的な秋のGⅠ、秋のクラシック戦線が始まる前。


 明日香が、密かに期待している「彼」が意外なところからデビューする。


「岩手、ですか?」

「はい。彼の父、ミヤムラホープが岩手で活躍しましたから」

 圭介が預けていた調教師から聞いた情報によると、陣営はミヤムラホープの仔、ミヤムラプリンスを地方競馬の岩手でデビューさせたいという。


 正確には、岩手競馬場、水沢競馬場を中心に活躍させたいと。

「わかりました」

 電話を切ると、明日香が父の元に駆けてきた。


「お父さん。岩手なら近いでしょ。私も連れていって」

 そう言われると思っていた圭介は頷くも、


「近いって言っても、本州だから、そんなに近くはないけどな」

 と返していた。


 そう。ここは北海道、日高地方。

 都会に住んでいる人間には、わからない感覚だが、距離感がおかしい。

 周囲には、人家より牧場の方が多いと思われるくらいの広大な土地。


 そして、街から街への距離が異常に遠いのが北海道。


 そのため、車で行くにしても、一旦、函館まで行って、フェリーで青森に渡り、そこから岩手県に行く必要がある。

 飛行機で新千歳空港からいわて花巻空港か青森空港、あるいは仙台空港に行って、そこから車という手もあるが、結局、手間がかかるので、圭介は今回、自家用車で行くことにした。


 同乗するのは、明日香以外に今回は牧場長の真尋と、妻の美里もついて来た。

 美里は、まるで監視するように圭介に目を配ってきたが、圭介は最初から別に真尋に何かするつもりなど毛頭なかった。


 函館からフェリーを乗り継ぎ、青森からは奥州市にある水沢競馬場に向かった。

 奥州市は、岩手県でも南の方にあるので、途中で1泊し、翌日、その水沢競馬場に入る。


 2024年9月21日(土) 水沢競馬場 6R 新馬戦(ダート・右・850m)、天気:曇り、馬場:重


 水沢競馬場は、岩手県競馬組合が主催する競馬場で、地方競馬では一般的な規模の競馬場だ。

 1周の距離が1200mで、直線部がホームストレッチとバックストレッチの合計634m。コーナー部が566mになり、各コーナーの長さは141.5m。サイズとしては南関東の浦和競馬場と同じようなサイズになる。


 ほぼ楕円形のフラットの競馬場だ。


 この特徴的な850mのコースは、出走地点が2コーナーの出口付近、スタートして3、4コーナーを通過し、直線に向かう、非常にシンプルなコース。


 短距離のため、最初の位置取りが非常に重要で、逃げ・先行馬が圧倒的に有利になる。ただし、3コーナーまでの直線距離は約320mと長め。


 そして、地方競馬と言えば、中央と違い、有力な騎手がいない、荒れにくい(人気上位の馬が勝ちやすい)とも言える。


 そんな中、地方の、それもマイナーな岩手県の水沢競馬場。

 一応、ミヤムラプリンスは1番人気ではあったが、正直、誰も注目などしていなかった。


 が、ミヤムラプリンスはそんな中、あっさりとこの新馬戦に勝利していた。2着には2馬身以上も突き放していた。

 結城真尋が、

「おお、意外にやるね」

 と、その走りに感心し、明日香が、


「だから言ったでしょ、真尋さん」

 と、勝ち誇ったように嬉しそうな声を上げていたが。


「えっ。屈腱炎ですか?」

 レース後、帰りの高速道路のパーキングエリアで。


 圭介は、預けている陣営から連絡を受け、一旦、車を停めてパーキングエリアで折り返し連絡。

 その中で、調教師が言うには、ミヤムラプリンスは左前脚の屈腱炎になり、長期休養に入るという。


 せっかく勝ったのに、いきなりの怪我と長期休養。

 バルクホルンとは違い、まだ全然結果を残していない中での、不安のスタートになった。


 だが、車中で明日香は、力強く宣言していた。

「大丈夫。きっとミヤムラプリンスは戻ってくるよ。バルクホルンがそうだったように」

 そう言われても、内心では圭介は、


(いや、バルクホルンは手術は成功したが、まだ戻ってきてはいないけどな)

 と思っていた。


 そう。一度は屈腱炎になり、回復したが、その後、またも怪我をして、長期休養に入り、手術すらしていたバルクホルン。


 彼は、手術こそ成功したが、レースの本格的な復帰はまだだったのだ。


 今はまだ、岩手県という地方競馬での小さな出来事、小さなデビューに過ぎなかった。

 それが後に、伝説となる存在になろうとはこの時、誰も思ってはいなかった。


 だが、間違いなく、この日が「王子の伝説」のスタートとなった。

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