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ラッキーオーナーブリーダー2  作者: 秋山如雪
第6章 ドラゴンロードとわがまま女王
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第30話 香港で輝く宮村龍

 4歳にして、短距離GⅠのトップレース、スプリンターズステークスを制したミヤムラドラゴン。


 陣営は、次のレースに思いきった選択をしてきた。


 香港遠征だった。


 2020年、2021年と所有馬のアスカチャンでこれに挑みながら、いずれも勝つことができなかった、子安ファームにとっては三度目の挑戦となる。


 しかし、この香港でのレース、香港スプリントが鬼門でもあった。


 このレース、世界中から短距離のエースが集まり、一説には「凱旋門賞より勝つのが難しい」とも言われるレースだった。


 ちなみに、日本調教馬が善戦を続ける、いわゆる香港国際競争(香港ヴァーズ、香港カップ、香港マイル、香港スプリント)の中で、唯一、日本馬がまだ勝っていないレースが、香港スプリントだった。


 だが、この時、騎乗を依頼された、ベテラン騎手の伊勢康政は「もし、この馬で勝てなければ、来年も、再来年も日本のスプリンターが勝つことは難しいだろう」と言っていた。


 そのことを、たまたまネットの記事で読んで、圭介に伝えに来たのが、牧場長の真尋だった。


「どうよ、オーちゃん。このミヤムラドラゴンの強さ」

「何でお前がドヤ顔なんだ?」


「そんなのどうでもいいでしょ。絶対、勝つわ、これは。ってことで私を香港に連れて行くこと」

「私も!」

 何故か便乗して、勢いよく手を上げた明日香に、嘆息しつつ、圭介は、


「はあ。仕方がないな。じゃ、今回はお前ら二人で行くか。相馬は悪いけど、留守番を頼む」

「はい。わかりました」

 相馬美織があっさり頷き、香港遠征は決まる。


 2023年12月10日(日) 香港・沙田シャティン競馬場 5R 香港スプリント(GⅠ)(芝・右・1200m)、天気:晴れ、馬場:良


 3回目の挑戦となる、香港国際競争のスプリントレース。

 今回は、強力なライバルがいた。


 世界的なスプリンターとして有名で、昨年の香港スプリントの優勝者、そしてここ香港ですでに9勝も挙げている、アイルランドの競走馬、アキュラシー。

 これが単勝3.5倍の1番人気だった。


 一方、ミヤムラドラゴンは。

「宮村龍?」

 香港、沙田競馬場のパドックから、電光掲示板を見ていた明日香が首を傾げていた。


 それを彼女のことを可愛がっていた、結城真尋が優しい声で告げていた。

「香港は、一応、中国の一部。こことマカオ、台湾だけ繫体字はんたいじを使うけど、ミヤムラドラゴンをそのまま漢字にしたんだね」

「なるほど!」


 などと話していると。

Bonjour(ボンジュール),Ça() va(ヴァ)?」

 聞き覚えのある、朗らかな声音と共に、スタイル抜群の彼女が現れた。


「あ、アニエスさん! Ça va(ヴァ) bien(ビヤン).」

 いつの間にか、フランス語の挨拶の返しまで覚えていた明日香が反応していた。


「よう、アニエス。ミヤムラドラゴンはどうだ?」

「いいね。控え目に言っても、彼は輝いている」


「輝いている?」

「そう。つやのある馬体、適切な馬体重、おまけにかかってない。調子は良さそうだね」


「でしょ、でしょ。あ、私は子安ファームの牧場長、結城真尋。この仔は産まれた時からすごかったんだ」

「ほう。それは興味深いね」

 初対面ながらも、あっさりと意気投合したアニエスと真尋は、元々二人とも性格的に外向的で明るく、協調性が高いからだろう。


 あっという間に、二人の間で、ミヤムラドラゴンの談議に発展していた。


 そうこうしているうちに、レース前のベット(賭け)停止の時間となり、いよいよ馬たちがゲートに並ぶ。


 ここ香港は、イギリスから中国に返還されたとはいえ、まだまだイギリス時代の名残が強く、この香港スプリントも英語で実況中継がされる。


 その英語のセリフを聞きながら、圭介たちは今回、馬主席ではなく、あえて近くで見れる一般席へ座って観戦した。


 レースはもちろん、日本のようにファンファーレは鳴らずに唐突にスタート。

 ミヤムラドラゴンは、最初のスタートからつまずくことなく、比較的好スタートを切ることに成功。


 3番手に位置を取って競馬を進める。


 よく見ると、大きなモニターに映し出された競走馬の順番でちゃんと「宮村龍」と書かれてあった。


 1200mはあっという間だ。最後の直線で、ミヤムラドラゴンは好位から抜け出して真ん中辺りを疾走。逆に1番人気のアキュラシーは馬群の中に沈んでいた。


 そして、最終的に、

「Miyamura Dragon! The first to win the Hong Kong Sprint in Japan.」

 英語での実況も興奮気味にそう伝え、彼は1着で押し切り、2着の10番人気の馬に同レースで歴代2位の着差となる2馬身半差を付けて完勝していた。


 同時にこれは、G1連勝を飾るとともに日本調教馬による同競走初の制覇でもあった。


「よっしゃ! さすがミヤムラドラゴン!」

 大袈裟に、男の子のように叫ぶ真尋。

「おめでとう!」

「やったね!」

 アニエスと明日香もまた喜色を浮かべて応じていた。


 こうして、圭介たち子安ファームにとって、「三度目の正直」で初の香港スプリントを制覇。

 同時に、これが彼ら子安ファームにとって、記念すべき初海外GⅠ制覇でもあった。


 今まで、何度も海外GⅠに挑戦してきた彼らだが、凱旋門賞2着のエルドールを最高成績とし、GⅡ1着を達成したが、実はGⅠ制覇は未達成だった。


 子安ファームにとって、新たな歴史の1ページが刻まれることになった。

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