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ラッキーオーナーブリーダー2  作者: 秋山如雪
第6章 ドラゴンロードとわがまま女王
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第29話 わがまま女王のデビュー

 ミヤムラドラゴンの初の海外挑戦の前に、子安ファームで、ある意味、「期待の星」でもあったが、同時に問題児でもあった彼女が、デビューする。


 2023年10月21日(日) 京都競馬場 4R 新馬戦(芝・右・1400m)、天気:曇り、馬場:良


 もちろんミヤムラスイートだった。


 さすがに、まだ新馬戦、そして場所が京都ということで、圭介たちは駆け付けずに、自宅のパソコンからいつものようにHDMIケーブルをつなぎ、大きなモニターに映像を映して観戦。


 圭介、美里、明日香、麗衣、麻里の家族以外に、相馬美織と牧場長の結城真尋、その子の薫の姿もあった。


 なお、ミヤムラドラゴンは、美浦の鈴置すずおき歳朗としろう厩舎に預けており、彼もまた元・騎手から調教師になった人物だった。

 鞍上は、エルドールでも任せていた、岩永祐二騎手が務める。


 京都競馬場・芝1400mは右回りで、外回りコースを使用。3コーナーにある、高低差4.3mの坂が大きな特徴。


 向正面から上り、3コーナー途中から下り。基本、この下り坂で勢いをつけペースアップすることが多い。スタートから最初のコーナーまでの距離は長い。


 最後の直線は約400mとやや長めだが、坂が無く平坦。冬場を除けば芝質が軽い場合が多く高速決着になりやすい為、スピード・瞬発力が大きな武器になる。


 ミヤムラスイートは、単勝1.8倍の1番人気に推されていた。

 ただ、内心では、この「わがまま女王」が何かやらかさないか、と圭介始め関係者は冷や冷やしながら、レースを見守っていた。


 一応、枠入りはスムーズに行き、ミヤムラスイートは、難なくゲート入りを果たしていたから、圭介たちは一安心していた。

「スタートしました」

 そんな中、彼女はいきなりスタートから出遅れていた。


「ありゃ」

 変な声を上げて驚いていたのは、三女の麻里だった。


 ところが、ミヤムラスイートは3コーナーに入ると、一気に末脚を発揮。

 最後のコーナーを回って、危なげなく先頭に立つと、後は後続から追われることもないまま、スパートして、一気に突き放し、気が付けば後続に3馬身も差をつけて、圧勝していた。


「やるじゃない、わがまま女王」

「さすがね」

 明日香と、それに続いて美里も反応していたが、真尋の感想だけは違っていた。


「まあ、まだ最初だからね。これから色々とやらかす気がするんだよね」

 彼女の不気味な予言が、現実の物になるか誰もわからなかったが、不吉な予感がする圭介であった。


 ちなみに、勝利後のインタビューで、圭介も馴染みのある、岩永騎手は、

「モノが違うと思います。大きいところを狙える馬だと思います」

 と語っていた。


 それが、ただのリップサービスか、本心かはもちろん誰にもわからない。


 今、「わがまま女王」が競走馬の世界に解き放たれたのだ。

 

 馬、競走馬というのは、所詮は「生き物」だ。だからある意味では「予測がつかない」動きをすることがある。

 もちろん、穏やかな性格の馬もいるが、馬にも個性があるからだ。


 その中でも、ミヤムラスイートは、ひときわ個性が強い牝馬だった。


 一方、その頃。

 圭介たち子安ファームのメンバーは、基本的に「女所帯」だ。女性陣は美里、明日香、麗衣、麻里の家族の他に結城真尋、相馬美織と総勢6人。

 対して、男性陣は圭介、結城亨、そして薫と3人しかいない。

 当然、発言権というより、カースト的に女性の方が強くなってしまう。


 男性陣は肩身が狭くなる上に、元々無口で、あまり主張しない結城亨がいるから、なおさら女性優位だった。


 そんな中、唯一と言っていい、圭介が話しやすい同性が実は薫だった。

 結城薫。2008年産まれの15歳。


 この時、中学3年生。

 

 圭介と薫は、この肩身の狭い女性社会のファームの中で、よく話をする仲で、互いを「圭介さん」、「薫」と呼んでいた。


 その薫と、ある日、牧場の隅で話をする機会があった。

「薫」

「何、圭介さん?」

 薫少年は、背丈が162㎝程度と小さく、体重も少ない、痩せた男になっていた。


「お前、進路はどうするんだ?」

 たまに親代わりのように、進路の相談をされたこともある圭介は、彼の将来を案じていた一人でもある。


 すると、彼は意外なことを言い出したのだ。

「そうだね。僕は、来年高校には行かずに、騎手学校に行こうと思ってる」

「マジでか?」

 圭介の方が意外なほど驚いていた。

 彼がしっかりと将来のことを考えていたことに。しかもそれが騎手とは思わなかった。


「うん。僕は体格も小さいし、ある意味、騎手向きだと父からも言われた。僕自身、この子安ファームで育てられて、馬に接して、その思いを強くしたよ」

(まさか薫が騎手になろうとは)

 圭介自身は、この少年のことは、もちろん小さい頃から知っているし、気が優しくて、性格的にも穏やかな少年だったから、気にかけてはいた。


 それに、騎手になるには、体格的な問題の他に、実は視力が良くないとなれない、という問題がある。

 それについても、薫はクリアしており、裸眼で1.5はあるという抜群の視力を持っていた。


 ちなみに、おおむねだが、騎手になるには、身長が160㎝前後で、体重が50キロ前後(細かい条件は異なる)で、視力が矯正視力で両眼とも0.8以上、かつ各眼(片眼それぞれ)0.5以上(※従来は裸眼のみ、2022年から緩和)という条件がある。


 薫は、すでにそれらもクリアしていたのだ。

「そうか。しかし、騎手の学校はツラいぞ。何より減量がボクサーなみだと聞くしな」

 脅すつもりではなかったが、圭介は聞きかじった知識で、彼が本気かどうかを試すように語りかけたが、薫は笑顔で、


「知ってるよ」

 と返してきた。


「それでも、なりたいか?」

「うん。せっかくこの恵まれた条件をクリアしてるし。もしかしたら、僕が活躍すればこの子安ファームに富をもたらせるかもしれないよ」


「そうか。がんばれよ」

「うん。ありがとう、圭介さん」

 結城薫、15歳。

 翌年、本当に騎手学校に入学することになる。


 そして、彼の入学が、娘たちの進路にも影響してくることになるのだが、それは先の話になる。

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