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ラッキーオーナーブリーダー2  作者: 秋山如雪
第6章 ドラゴンロードとわがまま女王
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第28話 新たなる短距離王者

 令和5年(2023年)。


 この年の初頭、子安ファーム期待の1頭の牡馬がデビューする。

 ファイアフライ。


 2020年産まれで、3歳になった、この年の1月にやっとデビューという遅咲きのデビューながら、危なげなく1着を獲得。


 その後、初めての重賞となった、きさらぎ賞(GⅢ)では、いきなり3着に入るという素質の高さを見せ、続く若葉ステークス(オープン)では1着。


 そのままその年のクラシック戦線へと進み、子安ファームの期待を背負って走るものの。


 皐月賞ではまさかの14着。日本ダービーでは惜しくも2着、秋の菊花賞では7着。イマイチ勝ちきれなかった。


 ちなみに、この年の日本ダービーを制したのは、後に大種牡馬となる、ビシャンタという馬で、NHKマイルカップと日本ダービーを制するという、変則二冠をやってのけていた。


 その意味で、ファイアフライは全然目立たない存在だったが、彼の才能を見抜いていた人物が一人いた。

 それが、

「これからきっと伸びるよ」

 明日香だった。


 我が子ながら、稀有な才能を持つというより、不思議な子だと、もちろん未来がわからない圭介は、この時は漠然と思っていた。


 一方、この年の短距離戦線を賑わせていたのは、ある意味、「覚醒した」ドラゴン、ミヤムラドラゴンだった。


 彼は、デビューから強烈で、2着に6馬身も差をつけて圧勝していたが、そこから2着が2回、その後、条件で1着、葵ステークス(GⅢ)で初の重賞制覇。昨年の11月には、京阪杯(GⅢ)を制覇しており、順調に勝ち進んでいた。

 

 そして、この年。

 シルクロードステークス(GⅢ)を1着、春の短距離決戦、高松宮記念(GⅠ)では3着、夏の函館スプリントステークス(GⅢ)、セントウルステークス(GⅡ)を共に2着。


 そして、満を持して、秋のスプリンターズステークスに挑もうとしていた。

 驚くべきは、スプリンターズステークスのオッズでは惜しくも4.2倍の2番人気となったが、それ以外、彼はデビューから数えて、11戦。そのすべてで「1番人気」だったのだ。


 そして、実際に期待に応えるように、高松宮記念以外は、連対を外していなかった。


 そのスプリンターズステークスの少し前の9月。


 屈腱炎で長期離脱していた、バルクホルンが帰厩。復帰レースとなる、11月の武蔵野ステークス(GⅢ)を目指していたが。


「えっ。また屈腱炎ですか?」

「はい。残念ながら、今度は重く、手術が必要です」

 圭介は、気落ちしながらも、厩舎からの連絡を受けていた。


 学校から帰ってきた、明日香に説明をするのが怖いというより、気の毒に思えたからだ。


 そして、全員が揃う夕食時に、圭介は気が重いながらも、厩舎から連絡があって、バルクホルンが再度、屈腱炎になり、手術が必要なことを告げた。


 さすがに、明日香は一瞬、青ざめた表情をしていたが、彼女は精神的に成長していたのと同時に、馬を、バルクホルンを心の底から信じていたらしい。


「大丈夫。きっと上手くいく。お父さん、私またクラファンでお金を集めるね」

 そう言うや否や、すぐに行動し、彼女はかつて使った、子安ファームの公式サイトから、再びクラウドファンディングに近いドネーションを募集。


 実際に彼女の呼びかけに応える形で、全国から寄付金が集まったのだった。


 なお、バルクホルンの屈腱炎の手術は、再生治療のために幹細胞を損傷部に移植する手術で、これはステムセル移植と言われるものだ。

 バルクホルンは胸骨の骨髄液を右前脚の腱に移植するという。

 

 数日後、ひとまず手術が成功したという連絡が圭介の元に届き、それを明日香に伝えると、気丈な態度で彼女は、

「やっぱりね。バルクホルンはきっと復活してくれるよ。私は信じてる」

 そう祈るように呟くのだった。


 一方、10月に入ってすぐに、大一番がやって来た。


 2023年10月1日(日) 中山競馬場 11R スプリンターズステークス(GⅠ)(芝・右・1200m)、天気:曇り、馬場:良


 圭介たちは、この大一番に乗り込んだ。

 お供をするようについて来たのは、いつものように明日香と相馬美織。そして今度は珍しく結城真尋がいた。


 牧場長として日々、忙しく活動している彼女に圭介は、

「仕事は大丈夫なのか?」

 と尋ねるも、


「大丈夫。旦那に全部丸投げしてきたから」

 と、真尋はあっけらかんと言い放っていたが、丸投げされた夫の結城亨がむしろかわいそうだと圭介は同情するのだった。


 その真尋。

 彼、ミヤムラドラゴンが誕生した時、

「この仔はマジですごいよ。これで勝てなかったら、逆にヤバいと思うくらい」

 と言っていた張本人だった。


 真尋は、産まれた時から強心臓で、将来を期待されていた彼の走りを実際に見たいと思ったのだろう。


 このレースにおいて、ミヤムラドラゴンは2番人気だった。1番人気は長沢牧場所属のラムという名の牝馬だった。

 なお、ミヤムラドラゴンの鞍上は、伊勢いせ康政(やすまさ)という、ベテランジョッキーが務める。


「スタートしました」

 ミヤムラドラゴンは大外の16番枠だったことも影響しての2番人気だったが、レースでは中盤辺りの好位置を確保。


 先頭を行くのは、長沢牧場のラム。芦毛の馬体が映えており、目立っていた。

 しかし。


 4コーナーを回って、最後の直線。

 直線に向くと、一度は後退していたラムが再び先頭に立って、後続を引き離しにかかる。


 しかし、

「大外からミヤムラドラゴンだ!」

 あっという間に、いや猛然と追い込んできていた。その末脚がまさに「登り詰める竜」の如く炸裂する。


「ラムが先頭で粘っている。しかし、ミヤムラドラゴンだ!」

 そのままラムを交わして、一気に先頭に立つと、


「ミヤムラドラゴン、ゴールイン!」

 見事に先頭でゴール板を駆け抜けていた。


「おおっ!」

 観客から歓声とどよめきに近い声が上がったのは、電光掲示板に赤い文字で「レコード」と記されていたからだ。

 その下のタイムの欄には「1:06:06」という数字が光っていた。

 

 なおも歓声が上がる中、満足そうに馬場を見つめていたのは、結城真尋だった。

「やっぱりね。この仔はマジですごいよ」

「真尋さん。ドラゴンは世界でも活躍できると思う?」


「そうだね。香港スプリントとか面白いと思うよ」

「でも、香港スプリントって難易度高いんじゃ」

 明日香と真尋の会話を聞いていた圭介は思い出していた。


 そう。明日香の言うように、香港スプリントは、実は難易度が高い国際レースとして知られている。

 これは世界でも有名な短距離レース「ジ・エベレスト」の開催国、オーストラリアの血統を多く取り入れていることもあり、またヨーロッパ、オーストラリア、日本などから、毎年、超一流の短距離馬が参戦するからだ。


 だが、真尋は明日香に対し、きっぱりとこう答えたのだった。

「ミヤムラドラゴンならきっと行けるよ。この速さは本物だ。まさに『アスカチャンに変わる、新しい時代のスプリンター』だよ」


 そして、何の因果か、真尋の言うように、ミヤムラドラゴンの次のレースは、その香港スプリントに決まった。


 それはかつて、アスカチャンが2回挑み、2回とも負けたレースだった。

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