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ラッキーオーナーブリーダー2  作者: 秋山如雪
第5章 不屈の闘志
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第27話 有終の美

 長年戦ってきた、そして子安ファームにかつてないほどの「大きな富」をもたらしてくれた、言わば稼ぎがしらの「黄金の翼」にもついにその時が来た。


 アスリートにとって避けられない時、引退だ。


 沢城厩舎は、凱旋門賞が終わった後も、エルドールをじっくりと休養させてから帰国させた。


 そして、次の目標を、年末の有馬記念に定め、それを最後にターフを去ることを圭介にも告げた。

 圭介としては、これまで散々活躍してくれた上に、かつてのミヤムラシゲンキオーが果たせなかったクラシック三冠を達成してくれただけでも十分だった上に、凱旋門賞で2着を2回も達成してくれただけで、十分おつりが来るほどだったから、素直に了承した。


 もっとも、そのことを家族に告げると、明日香は、

「もったいない! エルドールはまだまだ全然戦えるよ!」

 と反対していたが。


 ただ、圭介は首を縦には振らなかった。娘には、

「余力を残して引退。これはアスリートにとって、とても名誉なことで、何よりもカッコいい最後なんだ」

 と説得するように言うと、彼女は、


「わかった。なら、最後まで応援する」

 と、一応は納得してくれるのだった。


 その時は、来た。


 2022年12月25日(日) 中山11R 有馬記念(GⅠ)(芝・右・2500m)、天気:晴れ、馬場:良


 昨年の有馬記念は出場していなかった、エルドールにとって、2年ぶりの有馬記念。

 2年前は優勝していた。


 この年の有馬記念は、前年がGⅠ馬7頭も出走したのに、GⅠの参加がエルドールも含めて3頭と少し寂しいものだった。


 だが、エルドールの最後の雄姿を一目見ようと、当日の中山競馬場に駆け付けた観客が、なんと12万人を超えていた。


 それだけエルドールは人気が高い馬で、単勝もオッズが1.4倍と飛び抜けた1番人気だった。

 2番人気の馬は、エルドールと同じような「暴れ馬」で、芦毛のフォートレスという馬で、4.2倍だったので、人気ではエルドールの独走状態と言っていい。


 おまけに、人気投票でも圧倒的に1番人気だった。


 圭介はもちろん、いつものように明日香と美織を連れて、千葉県の成田空港経由で、中山競馬場に足を運んだ。

 そして、実はこの短い旅には、さらに二人の娘、次女の麗衣と三女の麻里も連れて行くことにした。

 13歳、11歳、9歳の三人の娘の面倒を見るのは億劫ではあったが、宿などではすべて美織が面倒を見てくれたし、明日香は長女として、すでに一番大人びていて、手がかからない存在になっていた。


 その中山競馬場の馬主席では。

「やっほー。来たよ」

 やはりと言うべきか、競馬好きな坂本美雪が待っていた。


「美雪さんか」

「美雪さん。こんにちは」

 明日香が礼儀正しく頭を下げると、気分を良くした美雪が、


「はい、こんにちは」

 と言って、微笑みながら競馬新聞を広げた。


「で、予想は多分聞くまでもないと思いますが」

「そうだね。エルドールの圧勝だと思うよ。今回の有馬では、1頭だけ『格が違う』からね」

 美雪の答えに、明日香は、


「やっぱりもったいない」

 と、未だに愚痴っていたが、この時、珍しく無口な麗衣が、ボソっと呟いた。


「でも、強いまま引退なんてカッコいい」

 彼女は、父の圭介と同じような感想を抱いていた。


 三女の麻里は、無邪気に、

「わあ。初めて来たけど、すごいね。みんなカッコいい!」

 と馬場を見下ろしてはしゃいでいた。


 そして、パドックの様子を見てから、再び馬主席に戻り、観戦となる。


 ちなみに、エルドールの鞍上は、長年、彼に乗ってきたのに、凱旋門賞では乗れずに悔しい思いをしていた、岩永騎手だった。


 ファンファーレが鳴って、いよいよその年の競馬の総決算が始まる。

「スタートしました」

 いつものように実況の声が響くが、この年は例年以上に歓声がものすごかった。


 エルドールは、ライバル的な存在と言っていい、2番人気のフォートレスを追うように、後方から4番手を追走。


 レースは、淀みなく進み、3コーナーに入るまでは特に大きな変化はなかった。


 しかし、3コーナーを回る頃からエルドールが馬群の外をまくって徐々に上がっていき、4コーナーを回ったところで早くも先頭に立っていた。


 そこからは、まさに大歓声に包まれながらも、彼の「独壇場」となっていた。


「エルドールが先頭だ!」

「リードを2馬身、3馬身取る」

 絶え間ない大歓声に包まれながらも、エルドールの脚色は全然衰えなかった。


 そして、そのまま、

「強い、強い、エルドール。あっという間に抜け出して、追撃を許さない」

 見ると、その差はぐんぐん広がり、最終的に、


「エルドール、圧勝、ゴールイン!」

 と、実況が叫んでいた。


 ついた2着との着差は、なんと8馬身。


 ちなみに、2番人気のフォートレスは3着だった。

 中山競馬場に詰めかけた大観衆は、このまさに「有終の美」を飾ったエルドールに、惜しみない拍手と歓声を送った。


 なお、勝利後の騎手へのインタビューで、鞍上の岩永は、

「僕はエルドールが世界一強いと思います」

 と力強く宣言するように、晴れ晴れとした表情で語っていた。


 そして、このレースは、娘たちにとっても、記憶に残るようないい体験となっていた。


 その証拠に、

「エルドール、本当に強いね」

 明日香が、


「すごい。ウチの馬、こんなに強かったんだね」

 麗衣が、


「面白かった! 私も馬に乗りたい!」

 麻里が、それぞれ口々に感想を述べていた。


 この日の最終競走終了後に中山競馬場で、6万人以上の観客が残る中、関係者を集めて、エルドールの引退セレモニーが盛大に開かれた。


 エルドール(牡・5歳)。通算成績は21戦12勝、獲得賞金は約13億5000万円+220万ユーロ。全てを日本円に換算すると約15億7600万円だった。


 もちろん、そのすべてが、子安ファームに入るわけではないが、彼は子安ファームの歴史にも残る、「稼ぎ頭」だった。


 彼がターフを去ったことによって、時代は大きく変わる。

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