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ラッキーオーナーブリーダー2  作者: 秋山如雪
第4章 凱旋門賞の走り
22/45

第22話 アスカチャンの帰還

 2021年。

 高松宮記念を制し、春秋スプリント制覇を達成した、「スプリント女王」のアスカチャン。


 しかし、続く秋のスプリンターズステークスの前哨戦である、セントウルステークス(GⅡ)では4着、さらに本戦のスプリンターズステークス(GⅠ)では2着と振るわず。


 陣営は、12月に再度、香港に挑むことを決定。


 しかし、圭介は同時に、預けていた厩舎からこう告げられてもいた。

「次の香港スプリントで勝てなかったら引退させたいと思います」

 と。


 圭介は頷くしかなかった。

 もちろん、理由としては明確で、調教師たちは「もう上がりはない」と見ていたからだ。


 競走馬は競技寿命が非常に短い。

 通常、2~3歳でデビュー。

 晩成型なら7、8歳まで活躍することも可能だが、陣営はアスカチャンを早熟型と見ているらしい。


 事実、今年の高松宮記念を最後に、勝利していない。

 衰えが早い馬なら、3、4歳で引退もおかしくはないし、アスカチャンは5歳になっていた。


 圭介たちは、香港へ飛んだ。


 今回は、アスカチャンの見納めになるかもしれない、と言うことで、結局は前回と同じ取り合わせだが、圭介、美織、明日香の三人で香港へ向かった。


Bonjour(ボンジュール). Vous() allez(ザレ) bien(ビヤン)?」

 当然のごとく、現れたのは、フランス生まれのハーフ馬主秘書、アニエス・大原だった。


「アニエス、久しぶり」

「凱旋門賞以来ね」

 二言三言、言葉を交わした後、彼女はレースの展開を予想してきた。


「アスカチャンは26.0倍の7番人気。まあ、前回よりも厳しいかもね」

 率直で、遠慮のない意見だったが、圭介も同じように見ていた。


(アスカチャンは、もう十分活躍してくれた)

 と彼も見ていたし、今後の繫殖牝馬での活躍に期待をかけたいと、先のことを考えていた。


 ただ、もちろん、明日香自体は、

「アスカチャンは、まだまだ勝つよ」

 と自信に満ちた表情をしていた。


 明日香は、同じ名を持つアスカチャンにだけは、贔屓目ひいきめに見ていて、目が曇るのか、予測が甘いところがあった。


 2021年12月12日(日) 香港・沙田シャティン競馬場 5R 香港スプリント(GⅠ)(芝・右・1200m)、天気:晴れ、馬場:良


「スタートしました」

 しかし、


「おっとアスカチャンがつまずいたか。後ろに下がっていきます。最後方からアスカチャン」

 いきなりスタート直後につまずき、アスカチャンは最後方に下がっていた。


 その後、何とか持ち直して、中団まで持ち込むものの。


 最終コーナーを回った後の直線でも、切れがなく5、6番手を追走。

 そのまま、ゴールしたが、7着に終わった。


「アスカチャン……」

「残念だったね」

 露骨に落ち込んでいる明日香とそれを励ます美織。


 結局、アスカチャンの香港スプリント制覇はならないまま、帰国。

 年末には、引退が正式決定していた。


 翌年の1月には京都競馬場で引退式が行われた。


 話が少し進んで、2月、子安ファーム。


「アスカチャン!」

 細かい雪が散らつく、北海道、日高地方の2月。強烈な寒気の中、喜び勇んで、馬運車を出迎えたのは、明日香だった。


 牧場長の結城真尋、厩務員の結城亨、同じく相馬美織よりも早く、一目散に駆け寄って、彼女の首に抱き着いていた。


「お帰り!」

 明日香にとって、同じ名を持つこの馬は特別な存在になっていた。


 そして、アスカチャンにとっても、人間の言葉こそ話せないが、明日香はお気に入りのようにも圭介の目には見えたし、事実アスカチャンは、明日香に懐いていた。


 元々、人懐こく、大人しくて可愛らしい、さらに賢い、牧場にとって、アイドルホースのような存在だった、アスカチャン。ある意味、「手間のかからない馬」と言っていいから、厩務員にとっては楽な存在で、癒し効果すらあったのだ。


 アスカチャンは今季からは、正式にこの子安ファームで、第二の馬生を生きることになる。


 繁殖牝馬として、新たな競走馬を産み、この子安ファームに富をもたらす存在になるか。


 子安ファームのメンバー誰もが、このGⅠ2勝のスプリント女王に大いに期待をかけていたのだ。

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