私の身体はガラスだけれど
初学園モノです。
──春。
体の調子が僅かに良くなって来る季節。
肺が痛む事もなく、暖かい空気を思い切り吸い込む事が出来る。
「行って来ます」
「今日は午前で終わりだから」
「お昼はどうするの?」
「ファミレスで食べて来る」
「それかコンビニ」
母親と何気ない朝の会話をする私の名前は佐山京子。
歳は17。
来年は受験を控えてる花の女子高校生だ。
でも、体は弱い。そして細い。
特に肺が弱い。直ぐ穴が空くくらい。
「さ、坂がきつい……」
「ま、間に合わない……」
私の最初の鬼門はバス停だ。
バス停が坂の上にあり、家はなんと坂の下にある。
何度も歩いてるハズなのに、私の肺と心臓は悲鳴を上げる。
「ギリギリになるけど……」
「次のを待とう──」
「キョーコ!遅刻しちゃうよ!」
「坂がキツイのなら、私が抱えてあげるから!」
京子は突然後ろから抱えられる。
「あ、アルナ……!」
彼女は抱えられながら、その人物の顔を見上げる。
眼は琥珀色で肌は褐色。
背は高くて、髪は金色。
「おら~~!」
「アルナエンジン全開!!」
アルナは途轍もない馬力で原付すら追い越し、バス停へ滑り込む。
「ふぅ……!」
「間に合ったね!」
「あ、ありがと……」
「京子ももう少し体力つけなよ!」
「じゃ!」
バスが到着すると同時に、アルナは学校の方向へ向かって走り始めた。
朝は学校まで走って登校するのが、彼女の日課だった。
(私も……あんな風になれたらな……)
私は乗り込んだバスから笑顔で走るアルナを眺め、写真に撮った。
~学校~
「……ごめん!」
「今度も抱えて走ってあげるからさ!ね?」
「いや、アルナならいいよ」
「数学の問題、これ写しておけば当てられてもなんとかなるから」
「Obrigado!(ありがとう!)」
アルナは京子からノートを受け取る。
京子は彼女から目を逸らしながら言う。
「……昨日も稽古だったの?」
「うん!」
「昨日はプロのMMA選手がジムに来てくれて、つい熱中しちゃった!」
「あの肩固め……キレイだったなぁ~~……」
アルナは家の近所に住む日系ブラジル人2世だ。
父親は工場で働きながらブラジリアン柔術のコーチをしている。
アルナも年少ながら数々の大会で実績を残している。
他のスポーツでも飛び抜けた成績を残してはいるが、勉強の方はお通夜状態だった。
「毎日そんな体を酷使して……大丈夫なの?」
「私が心配する事じゃないと思うけど……」
「鍛えてるからぜーんぜん平気!」
「それより京子もやってみない!?柔術!」
「わ、私は……」
「か、体が弱いから……」
「あまり動き過ぎると肺に穴が開くかもしれないし……」
アルナは残念そうな顔をする。
「そっかぁー……」
「楽しいのになぁ~……」
金色の髪が掛かった彼女の横顔は、何処か寂しげだった。
私はその寂しげな顔に対し、作った愛想笑いを向ける事しか出来なかった。
~放課後~
「……今日はガストで良いかな」
私は周囲の誰にも聞こえないよう呟く。
ハッキリ言って、私はクラスでも孤立している。
身体はガラスだけど、口はキレたガラス片だからかもしれない。
けど、アルナは敢えて空気を読まず、私へ構ってくる。
ラテンの血恐るべし。
「私だってこんな体じゃなきゃ……」
当のアルナはクラスでのアレコレなどお構いなしだ。
彼女にとっての『生活』は放課後にあり、学校には無い。
それは誰の目にも一目瞭然だった。
そんな事を考えてると、大きな褐色の手が細い私の肩を軽く叩く。
「じゃあね!京子!」
「また明日!」
「……うん」
「また明日」
眩しいなぁ。
でもこの笑顔が本当に好き。
私だけに向けられるモノじゃないけど。
「今日は和風ハンバーグにしようかな……」
「……一体何を食べたらアルナみたいな体になるんだろう……」
京子は席を立ち、教室を出ていく。
「やっと帰ったよ、《ガラス玉》」
「居るだけでメンドクサイんだよね、アイツ」
背後から彼女に陰口が飛んで来た。
無視。
彼女は迷わず歩を進める。
「やっぱり半ドン最高~……」
校門を出て、京子は色づき始めた木々を眺める。
「今日は家でヤンマガ読もうかな……」
「彼○島に出て来るクリーチャーの模写でもしよう」
「私もアキラさんみたいに頑丈になりたい……」
アキラさんは流石に無理だろ、と頭の奥から反論が帰ってきた。
~中心街~
学校は市の中心街からあまり離れていない。
だからこうやって帰りはファミレスなどで時間が潰せる。
《和風ハンバーグお待たせ致しましたニャ~ン!》
謎の猫語を使う配膳ロボットが席までやって来る。
人類はロボットではなく、猫に支配されていると実感する。
私は犬派だけど。
でも今日は気分良いから、もう一品頼むか。
無論、選ぶのはポテトフライだ。
そして、私はフォークとナイフを取り、ハンバーグへ刃を入れ始める。
「たまらない……」
「今度アルナを誘って……いや、でも……」
心が決まらない。
決断力まで脆いのか私は。
私は気を紛らわす為、肉片を頬張りながらふと外を見る。
「……このまま私の青春終わっちゃうのかな」
「部活にも入らず、塾にも行かず、友達が居なくて独りで……」
その時、一人の金髪褐色の女性が走って通り過ぎる。
女性はスポーツウェアに身を包み、その引き締まったナイスバディが街路を舞っていた。
「すっご……ってあれアルナじゃん!」
「ここ、いつものランニングコースなのかな……」
「……」
彼女の食べるペースが少し早くなる。
何かに引きずられていくように。
京子は食事を終え会計を済ませると、アルナの走って行った方向へ歩き出した。
~ジムの周辺~
「……『ゴーグル』によると確か柔術のジムってここら辺……」
京子はジムの近辺をウロチョロし始める。
「な、なんでここまで来ちゃったんだろう、私……」
「も、もしアルナに出会ったら……」
京子は後ろから肩を叩かれる。
「ひゃぁっ!!?」
「だ、だれ!?」
彼女は驚き振り返るが、思わず足がもつれてしまった。
しかし、暖かい褐色の手が彼女の腰へ回る。
「私を追い掛けて来てくれたの!?キョーコ!!」
「お、追い付けるワケないじゃない……!」
「スマホで探したのよ……!」
「探してくれたんだ?❤️」
「あっ……」
アルナは京子を抱き上げる。
「この時を待ってたんだよ!キョーコ!」
「自分から私の所へ来てくれるのを!」
「む、胸で息が……!」
「ていうか色々潰れそう……!」
彼女はハッとし、京子を放す。
「見学……してみる?(ニコニコ)」
笑顔とは本来攻撃的な物。
圧倒的弱者である私には『はい』という以外、選択肢が無かった。
やられた。
私は猛獣の前のウサギちゃんだった。
~ジム~
「おー!アルナ!」
「その子は?」
アルナの父親が二人へ近づいて来る。
「私の同級生!」
「近所に住んでて、良く一緒に登校してるの!」
「見学してみたいんだって!」
ちょっと待て。
そこまで言ってないんだが。
「折角だから体験していくか?」
「アルナ!昔の柔術着が家にあっただろ?」
アルナはロッカーに行き、自分より小さいサイズの柔術着を持ってくる。
「お父さん!」
「いつも持ってるから!」
「ホラ!」
ちきしょう。
計画犯だわコレ。
息合いすぎですね、親子で。
「さ!着替えよ!着替えよ!」
「ちょっ、ちょっ……!」
京子はアルナに手を引かれていく。
~10分後~
「おー似合ってる!」
「似合ってるよ!キョーコ!」
京子は鏡の前に立つ。
「そ、そうかなぁ~?」
柔術着に身を包んだ自分……
案外悪くないかも……!
「よし!次は準備運動だね!」
何?準備運動?
私はラジオ体操でも息が上がるぞ。
任せとけ!
~更に10分後~
「はひっ……はひっ……!」
倒立なんて出来ないんだが??
受け身も無理なんだが??
つーか心臓と肺が張り裂けそうなんだが??
「つーか……これが限界……!」
アルナは首を傾げる。
「まだこれからが本番だよ?」
しぬぅ……!
もうちょい手加減して……!
「アルナ。その子はまだ初心者中の初心者だろう」
「動きの少ない技から教えたらどうだ?」
「それにペースもちょっと早すぎるようだ」
「あ。ごめんお父さん」
「いつものペースでやってたよ」
おいおい……
通りで初心者お断りコースに感じました。
「じゃあ……キョーコ!」
「アキレス腱固めやってみよーよ!」
「アキレス腱固め?」
「うん」
「こーやって……」
アルナは京子のくるぶしを肋骨に当てる。
そして手首の骨を使い、京子の足首を軽く絞り上げた。
「ぁ痛ァ!」
「キョーコ、なんか痛風に遭ったおじさんみたいな……」
「やめて」
「もう限界なんです」
「そりゃおじさんみたいな反応します」
京子はマットレスをバンバンとタップする。
アルナは技を解き、キョーコはアルナの琥珀色の瞳を見つめる。
アルナはニコッと微笑む。
「どう?」
「楽しいでしょ?」
「寝技や関節技は特別な才能なんて必要ないって思ってる」
「え……?」
「どれだけ練習したか……」
「どれだけ研究したか…」
「そして……どれだけ愛せるか……」
「それらが重要だと思ってるの」
「……私なんかでも……大会で勝てるようになったりするの?」
「うん」
「やってる内に最低限の体力は付くと思う」
「あとは努力と気持ち次第だよ!」
そう言うアルナの顔は私には輝いて見えた。
手や足の震えが止まらない。
人生で初めて味わう興奮。
泥のように微睡む日常に、いきなりサンバカーニバルがやって来た。
「……ちょっとずつ……教えてくれる?」
「ほら私……あんまり運動とか自信ないし……」
「うん!いいよ!」
「Obrigado!(ありがとう!)」
そう言ってアルナは私を思いきり抱き締めた。
私は色んな意味で昇天しかけた。
「こ、これも技……!?」
「ううん❤️」
「キョーコが大好きなだけ❤️」
「……私に技、かけてみる?」
「え!?」
「良いの!?」
「アキレス腱固めなら動かなくても出来るし……」
「多分キョーコ向きじゃないかなぁ」
「わ、わかった……!」
「やってみる……!」
京子はアルナの足首を脇に挟もうとした。
アルナは首を横に振る。
「脇じゃなくて肋骨」
「肋骨に相手のくるぶしを押し当てて、手首の骨を相手のアキレス腱に当てるの」
「う、うん」
「わかった!こう?」
「そうそう!」
「そして肘を下げて、手首をぐぃ~っと上げる!」
手首にアルナのアキレス腱が食い込んでいく。
「んんんん~~!」
京子は顔を真っ赤にして、アルナの鋼材のようなアキレス腱を極めようとする。
アルナは笑いながら言う。
「筋力もこれから付いて行くから!」
「一緒に鍛えよ!」
「んんぃぃぃ~~!」
~数日後~
~学校・放課後~
「キョーコ!」
「行こ!ジム!」
「う、うん!」
ダメだ。
尻の穴に力を入れないと返事すら出来ない。
私……
体力無さすぎでしょ。
あと全身がもうバッキバキのバッキンガム宮殿。
「キョーコ、疲れてる?」
「う、うん」
「ちょっとだけど……」
「でも……最近ぐっすり眠れるんだよね」
「それは身体が適応し始めた証拠だよ」
「良い流れに乗ってるよ!キョーコ!」
京子にある一つの考えが脳裏を掠める。
彼女はアルナの表情を伺いながら口を開く。
「な、ならさ……」
「れ、練習終わった後ファミレス行かない?」
「次の日休みだし……」
「いいよ!」
「私もそういうのに憧れてたんだよね!」
「キョーコとファミレス行くの、楽しみ!」
「じゃ!私先にジム行ってるね!」
アルナはいつも通り走り去って行った。
「じゃ、私もゆったり行きますか……」
京子が荷物を纏めようとした、その時だった。
「運動なんてロクに出来ないクセに……」
「どうせまた割れるのがオチでしょ」
「割れる?」
「なんかやらかしたの?アイツ……」
「やらかしたっていうか……」
「高1の時1600m走で肺に穴が開いて、酸欠起こして倒れたのよ」
「で、救急車が来る大騒ぎ」
「そんな弱いクセして、キレ易くて口だけは攻撃的」
「それで付いたあだ名が《ガラス玉》ってワケ」
京子は我慢して女子生徒達のあからさまな陰口を無視する。
所詮、こいつ等が自分の身体の問題を解決してくれるワケじゃないし、倒れた私をバカにしていたのを知ってるから。
「……」
京子は荷物を纏め終え、ジムに向かう為に教室を出ていこうとする。
しかし、目の前に女子生徒達が立ち塞がり、扉をむっちりした足で塞ぐ。
「……なにその太い足は」
「オークの遺伝子でも持って生まれて来たの?」
「私は人間以外相手にしない」
次の瞬間、京子は後ろからカバンで殴られる。
「……!」
「手が早すぎるでしょ……!」
京子はジムでアルナから教わった投げ技を試そうとする。
だが、上手く相手を崩す事が出来なかった。
「だから無駄だって!」
彼女は横から突き飛ばされ、床に倒れる。
その後は蹴りやら椅子やらもう酷い有様だった。
何か固いモノが私の顎に当たり、私の意識は途絶えた。
~夕方~
~ジム~
「ど、どうしたの!?キョーコ!!」
「身体中アザだらけで顔が腫れてるよ!」
ボロボロになって現れた京子に、アルナとアルナの父親が駆け寄る。
「……ひゃられた」
「まひゃ全然ダメいひゃい」
「筋力も体力も体幹も技術もひゃにもひゃも……」
「わひゃひ……ひょわい……」
アルナの顔色が変わる。
それはキョーコが普段見た事の無い程に、獰猛さを感じさせた。
彼女にはアルナが怒れる大型の肉食獣に見えた。
「お父さん」
「ちょっとランニングに行って来ます」
「……なるべく相手に手を出すなよ」
えっ。
まさかアルナが……私の為に……
ここまで……
「じゃお父さん」
「キョーコの手当お願い」
「……分かった」
アルナはジムから出て行こうとする。
私は何故だか分からないけど、彼女の褐色の指を掴んでいた。
「……待って」
「アルナ」
「……キョーコ」
「この喧嘩は私に売られたモノ」
「だから私が勝って、売値の倍で返すの」
「それに……」
京子はアルナの父親を一瞥する。
「アルナなら何人が相手でも絶対に勝つ」
「勝って相手を再起不能にしちゃう……」
「でもアルナとお父さんは最悪日本には居られなくなる」
「……それは嫌だから」
「キョーコ……」
「だから……私を強く……」
「いや、一緒に強くなりたい」
「──!」
アルナは部屋に戻り、キョーコを柔らかく抱き締める。
琥珀色の瞳から透明な涙が流れ落ち、京子の首筋に落ちる。
「一緒に……一緒に強くなろうね……!」
「絶対に……キョーコなら……!」
「うん……!」
~練習後~
~ジムが入ってるビルの屋上~
「……さっきは私の為に怒ってくれてありがとう」
「でも……一つだけ気になる事があるの」
「……なぁに?」
「何故私だけにこんなにも優しく……」
京子の問いに、アルナは月明かりに照らされながら微笑む。
「……私ね」
「兄妹とお母さんをファベーラ(※1)で殺されてるの」
「相手はファベーラを支配するギャング……」
「その時から、友達も居なくなった」
「……!」
「だから私はお父さんと相談して……日本に来たの」
「向こうにはもう私達の居場所が無かったから」
「10歳の時だったかな……」
アルナは手摺りに腰掛け、スポーツドリンクのボトルを開ける。
「こっちに来れば友達が出来ると思ってた」
「前の生活を取り戻せると思った」
「でも……」
「……馴染めなかったのよね」
「……うん」
「だけど、貴方はいつも私の相手をしてくれた」
「私を嫌がらないで居てくれた」
「だから……京子……アナタの事が……」
彼女はドリンクを一気飲みし、恥ずかしそうに京子から目を逸らす。
「……ううん!」
「何でも無い!忘れて!」
「え~~っ……!?」
「ここまで言って……?」
「ま、ま、また今度ね!」
「ファミレス行った時話すから!」
そう言って、アルナは全速力で階段を駆け下りて行った。
京子は傷とアザだらけの自分の手を見る。
「……強くならないと」
「アルナに寂しい思いをさせない為にも」
彼女はゆっくりと階段を降りていった。
~2ヶ月後~
~学校・放課後~
私とアルナは目配せをし、アルナは一足先に教室を出て行く。
私は自分の机を見下ろす。
まるで刃牙ハウス並に落書き塗れだ。
「机……汚くなったなぁ……」
京子は自分の机と、イジメグループの一人の机とを交換しようとする。
無論、即座に待ったが掛かる。
「ちょっと、自分の机を使いなさいよ」
「人のモノを……」
構わず京子は机を引っ張り出し、交換していく。
グループの一人が京子に掴みかかる。
「お前《ガラス玉》!調子に……!」
京子は素早く相手の首に右手を回し、下から自分の右手を掴んだ。
そして、右肩を落として左腕を引き上げた。
ギロチンチョーク、デブ女和えの完成だ。
「き、決まった……!」
京子はすんなり技が決まり、相手が苦しみ始めた事に自分でも驚いた。
「ぎ、ぎ、ぎ……!」
「は、離せこの……!」
「やなこった」
「そのまま落ちろ」
「青木真也なら絶対に技を解かない」
周りは一瞬動揺していたが、京子を引き剥がそうと掴みかかってくる。
しかし、ギロチンチョークは極まり続け、遂にデブ女は意識が飛んで崩れ落ちた。
「……次、私とやってみる?」
「無様な姿を晒す事になると思うけど」
掛かってくる奴は居なかった。
どうやら主犯をとっちめる事に成功したらしい。
「……もうこれに懲りたら二度と私達に関わらないで」
「アルナだったら、この程度じゃ済まないよ」
京子は勝利宣言を放ち、荷物を纏めて教室を出て行く。
彼女の身体は歓喜に打ち震えていた。
「やったぁ~~!」
「やってやった!」
「私もやれる!やれるんだ!」
校門の前ではアルナがストレッチしながら待っていた。
「その顔……勝ったんだね!」
「……ジムまで走る?キョーコ」
「うん」
「けど軽めでお願いね」
「まだやっと完走出来てきたって感じだから」
「りょーかい!」
「さ!行こ!」
私達は学校を置き去りにし、街中を走り抜けて行った。
~夜~
~ファミレス~
京子とアルナはテーブル席で肉料理を味わっていた。
「……で」
「アルナ」
「あの事なんだけど……」
「え~っと……」
「何だっけ?」
「もう忘れたの?」
「ほら、2ヶ月前屋上で……」
「あーあー、あ~~~……」
アルナは頬を紅く染め、琥珀色の目を逸らす。
金色の毛先を弄りまくり、やたら私の事をチラチラと見てくる。
「きょっ、キョーコの事はね……」
「……」
「大切な友達というか、相棒というか……パートナーというか……」
「……」
京子の沈黙にアルナは耐え切れなくなって来る。
アルナは立ち上がり、京子に迫って言う。
「キョーコの事が大好きなの!!!」
愛の告白がファミレスへ響き渡る。
しかし、京子は動揺せずにアルナの手を握って言う。
「私も大好きだよ、アルナの事」
「だから今日はもっと色々話したいな」
「……キョーコ!」
アルナは思い切り京子へ抱き着いた。
~15分後~
「アルナはさぁー」
「格闘技選手の中で1番誰が好き?」
「現役限定で」
「現役限定で?」
「う~~ん……あっ!」
「アレックス・ペレイラ!」
「私と同じファベーラ育ちだし!」
「京子は?」
「私はパディ・ピンブレット」
「あのパフォーマンスと口の悪さが好き」
「ショーン・ストリックランドと迷ったけど、私寝技師の方が好きだし」
京子とアルナは顔を突き合わす。
そして互いに大笑いした。
「確かに京子好みだよね~!」
「ストリックランドと迷う所がもう、トラッシュトーク好きなの分かっちゃう!」
「私もアルナがペレイラ好きそうって思ってた!」
二人は互いに笑い合い、そしてあっという間に時間が過ぎ去っていった。
~翌日~
「行って来ま~す!」
「今日はジムに行って遅くなるから!」
「夕ご飯はどうするの?」
「友達連れて来るから用意お願い!」
京子は母親を振り返る事無く、家を飛び出して行く。
家の前には既にアルナが待っていた。
「早く!もうバスに間に合わないよ!京子!」
「バスには乗らない!」
「アルナと一緒に行く!」
アルナはその言葉を聞き、京子へ手を差し出す。
京子はその手をしっかりと握った。
彼女は走りながら呟く。
「Obrigado、アルナ」
私の身体はガラスだけれど、好きで強くなってる──
~終~
※1 ブラジルの大都市にあるスラム。かなり巨大で、人種の坩堝。各種インフラはカスレベル。
見ての通り京子は人間不信かつ、人好きしない性格です。
固く閉ざされていた彼女の心の扉を、アルナが無理やりこじ開けてくれました。
女子高生の相思相愛、やはり美しい。
治安が悪いのは筆者の作風です。
それでもハッピーエンドが好きです。
アルナと京子のモデルは作中にヒントがあります。
以上です。
「面白かった」「感動した」「良い」「好き」と思って頂けましたら、評価とリアクション、感想をお願い致します。