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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

私の身体はガラスだけれど

作者: 256進法

初学園モノです。


──春。

体の調子が僅かに良くなって来る季節。

肺が痛む事もなく、暖かい空気を思い切り吸い込む事が出来る。


「行って来ます」

「今日は午前で終わりだから」


「お昼はどうするの?」


「ファミレスで食べて来る」

「それかコンビニ」


母親と何気ない朝の会話をする私の名前は佐山京子。

歳は17。

来年は受験を控えてる花の女子高校生だ。

でも、体は弱い。そして細い。

特に肺が弱い。直ぐ穴が空くくらい。


「さ、坂がきつい……」

「ま、間に合わない……」


私の最初の鬼門はバス停だ。

バス停が坂の上にあり、家はなんと坂の下にある。

何度も歩いてるハズなのに、私の肺と心臓は悲鳴を上げる。


「ギリギリになるけど……」

「次のを待とう──」


「キョーコ!遅刻しちゃうよ!」

「坂がキツイのなら、私が抱えてあげるから!」


京子は突然後ろから抱えられる。


「あ、アルナ……!」


彼女は抱えられながら、その人物の顔を見上げる。

眼は琥珀色で肌は褐色。

背は高くて、髪は金色。


「おら~~!」

「アルナエンジン全開!!」


アルナは途轍もない馬力で原付すら追い越し、バス停へ滑り込む。


「ふぅ……!」

「間に合ったね!」


「あ、ありがと……」


「京子ももう少し体力つけなよ!」

「じゃ!」


バスが到着すると同時に、アルナは学校の方向へ向かって走り始めた。

朝は学校まで走って登校するのが、彼女の日課だった。


(私も……あんな風になれたらな……)


私は乗り込んだバスから笑顔で走るアルナを眺め、写真に撮った。


~学校~


「……ごめん!」

「今度も抱えて走ってあげるからさ!ね?」


「いや、アルナならいいよ」

「数学の問題、これ写しておけば当てられてもなんとかなるから」


Obrigado(オブリガード)!(ありがとう!)」


アルナは京子からノートを受け取る。

京子は彼女から目を逸らしながら言う。


「……昨日も稽古だったの?」


「うん!」

「昨日はプロのMMA選手がジムに来てくれて、つい熱中しちゃった!」

「あの肩固め……キレイだったなぁ~~……」


アルナは家の近所に住む日系ブラジル人2世だ。

父親は工場で働きながらブラジリアン柔術のコーチをしている。

アルナも年少ながら数々の大会で実績を残している。

他のスポーツでも飛び抜けた成績を残してはいるが、勉強の方はお通夜状態だった。


「毎日そんな体を酷使して……大丈夫なの?」

「私が心配する事じゃないと思うけど……」


「鍛えてるからぜーんぜん平気!」

「それより京子もやってみない!?柔術!」


「わ、私は……」

「か、体が弱いから……」

「あまり動き過ぎると肺に穴が開くかもしれないし……」


アルナは残念そうな顔をする。


「そっかぁー……」

「楽しいのになぁ~……」


金色の髪が掛かった彼女の横顔は、何処か寂しげだった。

私はその寂しげな顔に対し、作った愛想笑いを向ける事しか出来なかった。


~放課後~


「……今日はガストで良いかな」


私は周囲の誰にも聞こえないよう呟く。

ハッキリ言って、私はクラスでも孤立している。

身体はガラスだけど、口はキレたガラス片だからかもしれない。

けど、アルナは敢えて空気を読まず、私へ構ってくる。

ラテンの血恐るべし。


「私だってこんな体じゃなきゃ……」


当のアルナはクラスでのアレコレなどお構いなしだ。

彼女にとっての『生活』は放課後にあり、学校には無い。

それは誰の目にも一目瞭然だった。

そんな事を考えてると、大きな褐色の手が細い私の肩を軽く叩く。


「じゃあね!京子!」

「また明日!」


「……うん」

「また明日」


眩しいなぁ。

でもこの笑顔が本当に好き。

私だけに向けられるモノじゃないけど。


「今日は和風ハンバーグにしようかな……」

「……一体何を食べたらアルナみたいな体になるんだろう……」


京子は席を立ち、教室を出ていく。


「やっと帰ったよ、《ガラス玉》」

「居るだけでメンドクサイんだよね、アイツ」


背後から彼女に陰口が飛んで来た。

無視。

彼女は迷わず歩を進める。


「やっぱり半ドン最高~……」


校門を出て、京子は色づき始めた木々を眺める。


「今日は家でヤンマガ読もうかな……」

「彼○島に出て来るクリーチャーの模写でもしよう」

「私もアキラさんみたいに頑丈になりたい……」


アキラさんは流石に無理だろ、と頭の奥から反論が帰ってきた。


~中心街~


学校は市の中心街からあまり離れていない。

だからこうやって帰りはファミレスなどで時間が潰せる。


《和風ハンバーグお待たせ致しましたニャ~ン!》


謎の猫語を使う配膳ロボットが席までやって来る。

人類はロボットではなく、猫に支配されていると実感する。

私は犬派だけど。

でも今日は気分良いから、もう一品頼むか。

無論、選ぶのはポテトフライだ。

そして、私はフォークとナイフを取り、ハンバーグへ刃を入れ始める。


「たまらない……」

「今度アルナを誘って……いや、でも……」


心が決まらない。

決断力まで脆いのか私は。

私は気を紛らわす為、肉片を頬張りながらふと外を見る。


「……このまま私の青春終わっちゃうのかな」

「部活にも入らず、塾にも行かず、友達が居なくて独りで……」


その時、一人の金髪褐色の女性が走って通り過ぎる。

女性はスポーツウェアに身を包み、その引き締まったナイスバディが街路を舞っていた。


「すっご……ってあれアルナじゃん!」

「ここ、いつものランニングコースなのかな……」

「……」


彼女の食べるペースが少し早くなる。

何かに引きずられていくように。

京子は食事を終え会計を済ませると、アルナの走って行った方向へ歩き出した。


~ジムの周辺~


「……『ゴーグル』によると確か柔術のジムってここら辺……」


京子はジムの近辺をウロチョロし始める。


「な、なんでここまで来ちゃったんだろう、私……」

「も、もしアルナに出会ったら……」


京子は後ろから肩を叩かれる。


「ひゃぁっ!!?」

「だ、だれ!?」


彼女は驚き振り返るが、思わず足がもつれてしまった。

しかし、暖かい褐色の手が彼女の腰へ回る。


「私を追い掛けて来てくれたの!?キョーコ!!」


「お、追い付けるワケないじゃない……!」

「スマホで探したのよ……!」


「探してくれたんだ?❤️」


「あっ……」


アルナは京子を抱き上げる。


「この時を待ってたんだよ!キョーコ!」

「自分から私の所へ来てくれるのを!」


「む、胸で息が……!」

「ていうか色々潰れそう……!」


彼女はハッとし、京子を放す。


「見学……してみる?(ニコニコ)」


笑顔とは本来攻撃的な物。

圧倒的弱者である私には『はい』という以外、選択肢が無かった。

やられた。

私は猛獣の前のウサギちゃんだった。


~ジム~


「おー!アルナ!」

「その子は?」


アルナの父親が二人へ近づいて来る。


「私の同級生!」

「近所に住んでて、良く一緒に登校してるの!」

「見学してみたいんだって!」


ちょっと待て。

そこまで言ってないんだが。


「折角だから体験していくか?」

「アルナ!昔の柔術着が家にあっただろ?」


アルナはロッカーに行き、自分より小さいサイズの柔術着を持ってくる。


「お父さん!」

いつも(・・・)持ってるから!」

「ホラ!」


ちきしょう。

計画犯だわコレ。

息合いすぎですね、親子で。


「さ!着替えよ!着替えよ!」


「ちょっ、ちょっ……!」


京子はアルナに手を引かれていく。


~10分後~


「おー似合ってる!」


「似合ってるよ!キョーコ!」


京子は鏡の前に立つ。


「そ、そうかなぁ~?」


柔術着に身を包んだ自分……

案外悪くないかも……!


「よし!次は準備運動だね!」


何?準備運動?

私はラジオ体操でも息が上がるぞ。

任せとけ!


~更に10分後~


「はひっ……はひっ……!」


倒立なんて出来ないんだが??

受け身も無理なんだが??

つーか心臓と肺が張り裂けそうなんだが??


「つーか……これが限界……!」


アルナは首を傾げる。


「まだこれからが本番だよ?」


しぬぅ……!

もうちょい手加減して……!


「アルナ。その子はまだ初心者中の初心者だろう」

「動きの少ない技から教えたらどうだ?」

「それにペースもちょっと早すぎるようだ」


「あ。ごめんお父さん」

「いつものペースでやってたよ」


おいおい……

通りで初心者お断りコースに感じました。


「じゃあ……キョーコ!」

「アキレス腱固めやってみよーよ!」


「アキレス腱固め?」


「うん」

「こーやって……」


アルナは京子のくるぶしを肋骨に当てる。

そして手首の骨を使い、京子の足首を軽く絞り上げた。


「ぁ痛ァ!」


「キョーコ、なんか痛風に遭ったおじさんみたいな……」


「やめて」

「もう限界なんです」

「そりゃおじさんみたいな反応します」


京子はマットレスをバンバンとタップする。

アルナは技を解き、キョーコはアルナの琥珀色の瞳を見つめる。

アルナはニコッと微笑む。


「どう?」

「楽しいでしょ?」

「寝技や関節技は特別な才能なんて必要ないって思ってる」


「え……?」


「どれだけ練習したか……」

「どれだけ研究したか…」

「そして……どれだけ愛せるか……」

「それらが重要だと思ってるの」


「……私なんかでも……大会で勝てるようになったりするの?」


「うん」

「やってる内に最低限の体力は付くと思う」

「あとは努力と気持ち次第だよ!」


そう言うアルナの顔は私には輝いて見えた。

手や足の震えが止まらない。

人生で初めて味わう興奮。

泥のように微睡む日常に、いきなりサンバカーニバルがやって来た。


「……ちょっとずつ……教えてくれる?」

「ほら私……あんまり運動とか自信ないし……」


「うん!いいよ!」

Obrigado(オブリガード)!(ありがとう!)」


そう言ってアルナは私を思いきり(・・・・)抱き締めた。

私は色んな意味で昇天しかけた。


「こ、これも技……!?」


「ううん❤️」

「キョーコが大好きなだけ❤️」

「……私に技、かけてみる?」


「え!?」

「良いの!?」


「アキレス腱固めなら動かなくても出来るし……」

「多分キョーコ向きじゃないかなぁ」


「わ、わかった……!」

「やってみる……!」


京子はアルナの足首を脇に挟もうとした。

アルナは首を横に振る。


「脇じゃなくて肋骨」

「肋骨に相手のくるぶしを押し当てて、手首の骨を相手のアキレス腱に当てるの」


「う、うん」

「わかった!こう?」


「そうそう!」

「そして肘を下げて、手首をぐぃ~っと上げる!」


手首にアルナのアキレス腱が食い込んでいく。


「んんんん~~!」


京子は顔を真っ赤にして、アルナの鋼材のようなアキレス腱を極めようとする。

アルナは笑いながら言う。


「筋力もこれから付いて行くから!」

「一緒に鍛えよ!」


「んんぃぃぃ~~!」


~数日後~

~学校・放課後~


「キョーコ!」

「行こ!ジム!」


「う、うん!」


ダメだ。

尻の穴に力を入れないと返事すら出来ない。

私……

体力無さすぎでしょ。

あと全身がもうバッキバキのバッキンガム宮殿。


「キョーコ、疲れてる?」


「う、うん」

「ちょっとだけど……」

「でも……最近ぐっすり眠れるんだよね」


「それは身体が適応し始めた証拠だよ」

「良い流れに乗ってるよ!キョーコ!」


京子にある一つの考えが脳裏を掠める。

彼女はアルナの表情を伺いながら口を開く。


「な、ならさ……」

「れ、練習終わった後ファミレス行かない?」

「次の日休みだし……」


「いいよ!」

「私もそういうのに憧れてたんだよね!」

「キョーコとファミレス行くの、楽しみ!」

「じゃ!私先にジム行ってるね!」


アルナはいつも通り走り去って行った。


「じゃ、私もゆったり行きますか……」


京子が荷物を纏めようとした、その時だった。


「運動なんてロクに出来ないクセに……」

「どうせまた割れる(・・・)のがオチでしょ」


「割れる?」

「なんかやらかしたの?アイツ……」


「やらかしたっていうか……」

「高1の時1600m走で肺に穴が開いて、酸欠起こして倒れたのよ」

「で、救急車が来る大騒ぎ」

「そんな弱いクセして、キレ易くて口だけは攻撃的」

「それで付いたあだ名が《ガラス玉》ってワケ」


京子は我慢して女子生徒達のあからさまな陰口を無視する。

所詮、こいつ等が自分の身体の問題を解決してくれるワケじゃないし、倒れた私をバカにしていたのを知ってるから。


「……」


京子は荷物を纏め終え、ジムに向かう為に教室を出ていこうとする。

しかし、目の前に女子生徒達が立ち塞がり、扉をむっちりした足で塞ぐ。


「……なにその太い足は」

「オークの遺伝子でも持って生まれて来たの?」

「私は人間以外相手にしない」


次の瞬間、京子は後ろからカバンで殴られる。


「……!」

「手が早すぎるでしょ……!」


京子はジムでアルナから教わった投げ技を試そうとする。

だが、上手く相手を崩す事が出来なかった。


「だから無駄だって!」


彼女は横から突き飛ばされ、床に倒れる。

その後は蹴りやら椅子やらもう酷い有様だった。

何か固いモノが私の顎に当たり、私の意識は途絶えた。


~夕方~

~ジム~


「ど、どうしたの!?キョーコ!!」

「身体中アザだらけで顔が腫れてるよ!」


ボロボロになって現れた京子に、アルナとアルナの父親が駆け寄る。


「……ひゃられた」

「まひゃ全然ダメいひゃい」

「筋力も体力も体幹も技術もひゃにもひゃも……」

「わひゃひ……ひょわい……」


アルナの顔色が変わる。

それはキョーコが普段見た事の無い程に、獰猛さを感じさせた。

彼女にはアルナが怒れる大型の肉食獣に見えた。


「お父さん」

「ちょっとランニング(・・・・・)に行って来ます」


「……なるべく相手に手を出すなよ」


えっ。

まさかアルナが……私の為に……

ここまで……


「じゃお父さん」

「キョーコの手当お願い」


「……分かった」


アルナはジムから出て行こうとする。

私は何故だか分からないけど、彼女の褐色の指を掴んでいた。


「……待って」

「アルナ」


「……キョーコ」


「この喧嘩は私に売られたモノ」

「だから私が勝って、売値の倍で返すの」

「それに……」


京子はアルナの父親を一瞥する。


「アルナなら何人が相手でも絶対に勝つ」

「勝って相手を再起不能にしちゃう……」

「でもアルナとお父さんは最悪日本には居られなくなる」

「……それは嫌だから」


「キョーコ……」


「だから……私を強く……」

「いや、一緒に(・・・)強くなりたい」


「──!」


アルナは部屋に戻り、キョーコを柔らかく抱き締める。

琥珀色の瞳から透明な涙が流れ落ち、京子の首筋に落ちる。


「一緒に……一緒に強くなろうね……!」

「絶対に……キョーコなら……!」


「うん……!」


~練習後~

~ジムが入ってるビルの屋上~


「……さっきは私の為に怒ってくれてありがとう」

「でも……一つだけ気になる事があるの」


「……なぁに?」


「何故私だけにこんなにも優しく……」


京子の問いに、アルナは月明かりに照らされながら微笑む。


「……私ね」

「兄妹とお母さんをファベーラ(※1)で殺されてるの」

「相手はファベーラを支配するギャング……」

「その時から、友達も居なくなった」


「……!」


「だから私はお父さんと相談して……日本に来たの」

「向こうにはもう私達の居場所が無かったから」

「10歳の時だったかな……」


アルナは手摺りに腰掛け、スポーツドリンクのボトルを開ける。


「こっちに来れば友達が出来ると思ってた」

「前の生活を取り戻せると思った」

「でも……」


「……馴染めなかったのよね」


「……うん」

「だけど、貴方はいつも私の相手をしてくれた」

「私を嫌がらないで居てくれた」

「だから……京子……アナタの事が……」


彼女はドリンクを一気飲みし、恥ずかしそうに京子から目を逸らす。


「……ううん!」

「何でも無い!忘れて!」


「え~~っ……!?」

「ここまで言って……?」


「ま、ま、また今度ね!」

「ファミレス行った時話すから!」


そう言って、アルナは全速力で階段を駆け下りて行った。

京子は傷とアザだらけの自分の手を見る。


「……強くならないと」

「アルナに寂しい思いをさせない為にも」


彼女はゆっくりと階段を降りていった。


~2ヶ月後~

~学校・放課後~


私とアルナは目配せをし、アルナは一足先に教室を出て行く。

私は自分の机を見下ろす。

まるで刃牙ハウス並に落書き塗れだ。


「机……汚くなったなぁ……」


京子は自分の机と、イジメグループの一人の机とを交換しようとする。

無論、即座に待ったが掛かる。


「ちょっと、自分の机を使いなさいよ」

「人のモノを……」


構わず京子は机を引っ張り出し、交換していく。

グループの一人が京子に掴みかかる。


「お前《ガラス玉》!調子に……!」


京子は素早く相手の首に右手を回し、下から自分の右手を掴んだ。

そして、右肩を落として左腕を引き上げた。

ギロチンチョーク、デブ女和えの完成だ。


「き、決まった……!」


京子はすんなり技が決まり、相手が苦しみ始めた事に自分でも驚いた。


「ぎ、ぎ、ぎ……!」

「は、離せこの……!」


「やなこった」

「そのまま落ちろ」

「青木真也なら絶対に技を解かない」


周りは一瞬動揺していたが、京子を引き剥がそうと掴みかかってくる。

しかし、ギロチンチョークは極まり続け、遂にデブ女は意識が飛んで崩れ落ちた。


「……次、私とやってみる?」

「無様な姿を晒す事になると思うけど」


掛かってくる奴は居なかった。

どうやら主犯をとっちめる事に成功したらしい。


「……もうこれに懲りたら二度と私()に関わらないで」

「アルナだったら、この程度じゃ済まないよ」


京子は勝利宣言を放ち、荷物を纏めて教室を出て行く。

彼女の身体は歓喜に打ち震えていた。


「やったぁ~~!」

「やってやった!」

「私もやれる!やれるんだ!」


校門の前ではアルナがストレッチしながら待っていた。


「その顔……勝ったんだね!」

「……ジムまで走る?キョーコ」


「うん」

「けど軽めでお願いね」

「まだやっと完走出来てきたって感じだから」


「りょーかい!」

「さ!行こ!」


私達は学校を置き去りにし、街中を走り抜けて行った。


~夜~

~ファミレス~


京子とアルナはテーブル席で肉料理を味わっていた。


「……で」

「アルナ」

「あの事なんだけど……」


「え~っと……」

「何だっけ?」


「もう忘れたの?」

「ほら、2ヶ月前屋上で……」


「あーあー、あ~~~……」


アルナは頬を紅く染め、琥珀色の目を逸らす。

金色の毛先を弄りまくり、やたら私の事をチラチラと見てくる。


「きょっ、キョーコの事はね……」


「……」


「大切な友達というか、相棒というか……パートナーというか……」


「……」


京子の沈黙にアルナは耐え切れなくなって来る。

アルナは立ち上がり、京子に迫って言う。


「キョーコの事が大好きなの!!!」


愛の告白がファミレスへ響き渡る。

しかし、京子は動揺せずにアルナの手を握って言う。


「私も大好きだよ、アルナの事」

「だから今日はもっと色々話したいな」


「……キョーコ!」


アルナは思い切り京子へ抱き着いた。


~15分後~


「アルナはさぁー」

「格闘技選手の中で1番誰が好き?」

「現役限定で」


「現役限定で?」

「う~~ん……あっ!」

「アレックス・ペレイラ!」

「私と同じファベーラ育ちだし!」

「京子は?」


「私はパディ・ピンブレット」

「あのパフォーマンスと口の悪さが好き」

「ショーン・ストリックランドと迷ったけど、私寝技師の方が好きだし」


京子とアルナは顔を突き合わす。

そして互いに大笑いした。


「確かに京子好みだよね~!」

「ストリックランドと迷う所がもう、トラッシュトーク好きなの分かっちゃう!」


「私もアルナがペレイラ好きそうって思ってた!」


二人は互いに笑い合い、そしてあっという間に時間が過ぎ去っていった。


~翌日~


「行って来ま~す!」

「今日はジムに行って遅くなるから!」


「夕ご飯はどうするの?」


「友達連れて来るから用意お願い!」


京子は母親を振り返る事無く、家を飛び出して行く。

家の前には既にアルナが待っていた。


「早く!もうバスに間に合わないよ!京子!」


「バスには乗らない!」

「アルナと一緒に行く!」


アルナはその言葉を聞き、京子へ手を差し出す。

京子はその手をしっかりと握った。

彼女は走りながら呟く。


Obrigado(オブリガード)、アルナ」


私の身体はガラスだけれど、好きで強くなってる──



~終~



※1 ブラジルの大都市にあるスラム。かなり巨大で、人種の坩堝。各種インフラはカスレベル。


見ての通り京子は人間不信かつ、人好きしない性格です。

固く閉ざされていた彼女の心の扉を、アルナが無理やりこじ開けてくれました。

女子高生の相思相愛、やはり美しい。


治安が悪いのは筆者の作風です。

それでもハッピーエンドが好きです。

アルナと京子のモデルは作中にヒントがあります。


以上です。


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