表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

29/35

29.弱いまま

 ゼノスさんが近衛兵士達に取り囲まれて姿が見えなくなると、私は立っていられなくなり冷たい石畳の上にへたり込んだ。


 村人達を取り囲んでいた兵士達が、号令とともに去って行く。

 甲冑の(かかと)で石を蹴る音が響く中、人々がが「ひどい」「あんまりだ」「勇者様」と泣き叫んでいる。私は呆然としたまま、ひたすらゼノスさんが連れて行かれた先を見ていた。


「ココ立て!」

 脇に手を入れられて、グイと引っ張られた。

「ぼんやりするな、走るぞ」

 ナッソスさんが痛いほどに腕を掴んで、私を強引に立たせると訳も言わずに走り出した。


 必死に走って、広場はすぐ遠くなり、村を外れて林の中に入った。それでもナッソスさんは走るのをやめない。暗がりの中を彼の背だけを頼りについて行くしかなかった。


「ナッソスさん何処に行くの? ゼノスさんが……」

「喋るな!」

 彼の鋭い声のすぐ後、緑色の光がほとばしって私達を包んだ。ナッソスさんが手に何か掲げるとその光はバンッと音をたてて霧散した。


捕縛(ほばく)の黒魔法だ。俺の魔道具では防げるのは1回きり、怖いけど、いっちょやってみるか! ココ飛び降りるぞ」


 彼はそう言うと私を抱えて、小路から外れて、沢の音がする暗がりに飛び込んだ。

 小さな崖になっていて、斜面を滑りながら私達の体は河原の石の上に落ちた。


 あまりの驚きに声も出ない。

「ぐっ」っと痛みに耐える声をナッソスさんが出した。すごい勢いで落ちたけれど、彼が守るように抱えてくれたので私に怪我はなかった。


「痛ぇココ。折れた……足の骨が……」

 私はすぐに癒しの力を彼の足に注ぎ始めた。


「痛い……けど……あー、治ってくのがわかる。さすが聖女様ありがとう。よし、逃げるぞ、奴らはすぐ追って来る」

 訳が分からない、私は言われるままにまた走り出した。


             ◇◇◇   ◇◇◇


 私とナッソスさんはダンジョンの中の石の小部屋に隠れた。村の外れの古いダンジョンは、迷宮のようになっている。彼にとっては幼い頃から出入りしている慣れた場所で道案内の仕事場でもある。

 走り過ぎてゼイゼイと乱れる息がやっと落ち着くと、ようやく何が起きているのかを説明してくれた。


「俺たちは黒魔法使いに追われてた、たぶん捕まれば最悪殺されたか、この前と同じ牢獄送りだった」

「でも、ゼノスさんは私の安全を近衛兵に約束させました」


 ナッソスさんは魔道具でぼんやりと小さな明りを灯した。揺らぐ影の中で彼の顔はひどく悲し気だった。

「アナタシアはゼノスを絶対に諦めないつもりだ……そしてあの女はココをゼノスの前から消したいんだろう。黒魔法使いがココを狙ってる。初めから約束を守る気なんてないんだ」


 恐ろしい言葉に現実味が湧かない。ついさっきまでゼノスさんと笑い合っていたはずなのに、あまりにあっけなく全ては壊れて、彼はは奪われてしまった。そして私も消されると……


「俺はゼノスに逃げ道を用意してくれと頼まれた。だから……あいつの最後の願いだ、ココを逃がす」


「……どこに……逃げるの?」

 他人事のような、力ない声でつぶやいた。


「どこか、田舎の人目に付きにくい村に……」


「そこで待っていれば、ゼノスさんは……来る?」


 ナッソスさんは何も答えなかった。私は自分で問うた答えを知っていた。

 闇の中で時間が過ぎていく。この場所でじっと待っていたらいつか夜は明けるだろう。

 明日は待ちわびた、私とゼノスさんの結婚式。


 でもこれから先、何度朝が来ても結婚式の日は永遠に来ないのだ。



 どうしてこんなことになってしまったのだろう?

 

 どこかで何かを間違えなければ、ゼノスさんを失わずに済んだのだろうか?


 私はずっとアナタシアに奪われてきた、居場所も、仲間も、癒しの力も……

 そして……愛する人も。


 私に取り返すことができるだろうか。

 凍るように恐ろしいアナタシアの目を思い出す。村人を皆殺しなんて残忍さを増している、聖女とは程遠い邪悪なものにさえ感じる。


 無理だと、即答する自分がいる。

 こんな弱くて、泣き虫で、力がない私に、アナタシアと対決する力などないのだ。

 きっと何をしたって、彼女のいいようにされてしまうに違いない。

 だって今までだってそうだった。

 こんな自分では勝てっこない。


 『ココはココのままで……』 

 ゼノスさんの藍色の瞳が優しく微笑む。


 ゼノスさんは勇者に選ばれた時、やっぱり勝てっこないと……

 きっと無理だと……


 でも彼は勇者の運命から逃げなかった。


「私、逃げない」

 

 今の自分で、弱いままで行くのだ。


「ナッソスさん、私は王都に行く」


「ココ本気なのか? 60メートルの魚よりもっと恐ろしい物が待ってるぞ」


 私は思わず笑ってしまった。

「何言ってるのナッソスさん、私達はこの世で1番恐ろしい魔王を倒したんだよ」


 そうだったと答えてナッソスさんも笑った。


「ソリティオ様が言っていたの、アナタシアは私にとって逃げてやり過ごす魔獣なのか、それとも倒すべき魔王なのかと。今分かった、アナタシアは魔王だわ。戦って倒さない限り、私の世界に平和は来ないの」


 私はぴょんっと1度大きく跳ねた。高く跳ぶのだけは誰にも負けない。

「私はゼノスさんを取り戻す」


「いいね、魔王討伐の旅にもう1度出発か!? そうとなれば、ゼノス勇者パーティーの再結成だ!」


 ナッソスさんが力強く答えた。これから強敵が待っていると言うのになんだか楽しそうだ。

 さっきまで絶対に無理だと思っていたのに、心を決めたら私もなんだか元気が出てきた。


 ゼノス勇者パーティーは、国中の人から無理だと思われたのにやり遂げたんだ!

 だからきっとできるはず。


「俺たちが1番最初にすることは……」


「ソリティオ様!」

 私とナッソスさんは同時に答えた。

 ゼノス勇者パーティーは全員が(そろ)わなくちゃ始まらない!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ