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10.俺にまかせとけ

 ソリティオ様が連れ帰ってくれた王宮の1室で、私は頬を冷やしてもらっていた。


「助けに行くのが遅くなってしまって済まない。王宮を出て、ソリティオ様に来てもらうように頼みに行って帰るまで時間がかかってしまった。1晩一人で牢獄にいて辛かっただろう?」


 ナッソスさんは私に詫びながら「ココを牢獄に入れるなんてあの聖女はなんてことをしやがるんだ。俺は絶対に許せねえ」と怒りが静まらない。


「ソリティオ様、あの女はココを魔王の子呼ばわりしてお尋ね者に仕立て上げ、遠くの神殿に閉じ込めるつもりだったんですよ。そしてまたこの腕輪!」


 ナッソスさんがさっき私の腕から魔道具を使って外してくれた腕輪を放り出して見せた。


「あの女は、またココから力を盗むつもりだ。どうしてこんな横暴がまかり通るんです。今こそこの腕輪の秘密を王様の前で明らかにして、偽聖女のアナタシア王女を懲らしめましょう!」


 ソリティオ様は眉間を寄せ、苦し気な顔をしてしばらく黙っていた。

「実はもう、兄である王にはアナタシアの虚偽を話してある……」


 静かに語り出したソリティオ様に、私とナッソスさんは驚いて口をつぐんだ。

「いくら進言しても、兄は聞く耳を持たぬのだ。兄にとってアナタシアは、いつまでも幼く頼りない可愛い子供で、傷ついた者たちを慈悲の心で救う天使のような存在なのだ。他人から聖女の力を魔法で奪っているなど、到底信じることができぬのだ」


「だったら、皆の前で証明すればいい。王様の目の前で、ココが聖女の力を見せたら誰の目にも真実が明らかになる」


 ソリティオ様はため息をつくと、私に視線を合わせて悲しく微笑んだ。

「ココ殿はそれをしたいかな?」


 問われて私はすぐに返事ができなかった。王様に謁見した時、それを申し出ることもできたけれど私はしなかった。


「旅の終わりに、ゼノス殿とそのことを話し合ったのだが、アナタシアがココ殿の力を盗んでいることが明るみになれば、彼女を罰することはできるやもしれぬ。だがその後ココ殿はどうなるか?」


 聞かれてナッソスさんは考える顔をしてからすぐに答えた。

「ココは聖女として生きていくことになる」

 ソリティオ様とナッソスさんのが問うように私を見ている。私はすぐに首を左右に振った。


 神殿に私の味方は居なかった、今でもアナタシア様に怒鳴られると足がすくんで逆らえない。きっと私の意思など無いものとして扱われるのだ。強い癒しの力があれば、どんな風に利用されるかと思うと怖いと思った。


「ココ殿を解放してやりたいと、ゼノス殿は言っていた。彼は騎士団にいたから、怪我をして聖女に治療してもらう騎士たちを大勢見てきた。当然のように他の騎士と同じように聖女を尊敬していた。だから真実を知り、衝撃も大きかったそうだ。自分たちが恩恵を受ける影で、ココ殿は力を盗まれてやせ細り、孤独に働かされていたのだ。そして魔王討伐に捨てるように差し出された。どうしてここまでココ殿が虐げられなければならぬのかと……彼は憤っていた。でも怒りのままに真実を明るみにすれば、ココ殿はまた利用されてしまうだろうと……」


 ソリティオ様が語る言葉に、ゼノスさんがそんな風に私のことを思っていてくれたのだと、胸が熱くなった。

「ココは充分国のために尽くした、だから自由になるべきだと、ゼノス殿はそう願っているのだ」


「だからゼノスは王都から遠い故郷にココを連れて行くことにしたのか…… そこでココを守りながら暮らすつもりで……うう、ゼノスいいやつだなあ」


「私は兄に失望している。ゼノス殿がアナタシアとの結婚を望んでいないことを、公の場であれほどはっきりと明言したにもかかわらず、それを許さなかった。しかもココ殿に対するアナタシアの信じられない無礼にも気づかず、彼女の虚言に惑わされて言いなりになっている。娘を甘やかすだけの馬鹿な父親に成り下がってしまった」

 ソリティオ様はまた深くため息をついた。


「だがな、兄を何度も(いさ)めてみたが何も届かぬ。それどころか、兄は私を王都から遠ざけ、うるさいことをもう言えぬようにしたいようだ」

 ソリティオ様は王都から5日はかかる遠い神殿に行くことが決まったと告げた。


「私は王族を離れた身ゆえ権力をもたぬ。そなたを守ってやりたいが王都を離れてしまえば何もできないだろう。だから王都から離れて、アナタシアから身を隠しなさいとしか私には言えない。ココ殿、力になれず済まぬ」


 今回はソリティオ様が助けてくださったから牢獄から出られた。でも、もうソリティオ様は遠くへ行ってしまう。次に捕らえられたら私はきっとどこかに閉じ込められてしまうだろう。


「まったく、ココがこんな危ない目にあっているのに、ゼノスはどこにいるんだよう」

 ナッソスさんが天井を見上げて泣くように叫んだ。


「面会をいくら申し入れても通らない……考えたくないがゼノス殿は監禁されているのではないか?」

「俺もそう思う。ゼノスがあの女と結婚したがっているとは思えない」


 ゼノスさんが監禁されている?

 今までゼノスさんが聖女様との結婚を望むから姿を見せないのだと自分に言い聞かせていた。

 でももしも、彼が意に沿わないことを強いられて傷つけられているとしたら?


「私ゼノスさんを探しに行く!」

 いてもたってもいられず、思わず口にしていた。ナッソスさんが私の頭をポンポンと叩いた。

「隠されたものを見つけ出すのは、道案内のナッソス様の専門だ」


 ナッソスさんはゼノスさんを見つけ出し、村に連れて行くと約束してくれた。


「ココは俺の村に帰って待っててくれよ。あの女に見つからないように王都から早く離れた方がいい。ココは村で結婚式の準備よろしく。ゼノスをびっくりさせてやりたいからな結婚式のことはあいつにナイショにしとく。」


「あのナッソスさん、それはちょっと……ゼノスさんが私と結婚したいかどうか確かめてからにしないと……」


「あーも―ココはまだうじうじ言ってるのか。心配するなって。なんでゼノスはプロポーズしてないかなぁ、のんびりすぎるんだよまったく」


「のんびりなんじゃなくて、私と結婚する気がないのかもしれないです。ゼノスさんはお家に住んでもいいと言っただけで、一緒に住むとは言って無くて……」


「だーかーら、大丈夫だって、俺に任せとけ」


 魔王討伐で命の危機に陥った時、ナッソスさんが「俺に任せとけ」と言って裏切られたことは一度もない。彼は必ず逃げ道を見つけ出し私達を救った。だから『道案内ナッソス』が示す道を進む、それがゼノス勇者パーティーの決まりだった。


 だけど…… 戦闘以外の日常ではこの「俺に任せとけ」に何度裏切られたか……思い付きでいい加減なことばっかり言うのだこの人は……


 今回はどちらの「任せとけ」なのだろう。私は不安を覚えつつも、ソリティオ様の助けを借りて村に帰ることにした。


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