1.あなたを待っていたの
ウエディングドレスを身に纏う鏡の中の自分を見た。
この花嫁は本当に私だろうか?
3日後の結婚式で、あの人は隣に立ってくれるだろうか?
なんて可愛らしいのかしらと、最後の衣装合わせをしてくれている村の婦人たちが、口々に褒めてくれる。
胸に手を置いて「大丈夫よココ」と己に語りかける。
だってゼノスさんの気持ちを、ナッソスさんがちゃんと確かめてくれたでしょう?
勇者ゼノス様は私との結婚を何よりも望んでいるって……
「ああ勇者様が来たぞ!」
階下が騒がしくなった。
「おめでとう」「間に合って良かったね」と村人が興奮して声をあげているのが聞こえる。
胸が大きな太鼓になったみたいに大きな音をたてて震え出す。あまりに激しくて胸が破れてしまいそう。
彼が来てくれた、私に会いに、そして私と結婚するために!
階段を登って来る足音がする。
「勇者様、駄目だよ花嫁姿はまだ見ちゃいけない」
誰かが大声で叫ぶのに、足音は止まらなかった。
2階の部屋の開かれていた戸口に彼の姿が現れた。
待ち焦がれた、私と3日後に結婚する大好きな人。
走ってきたのか、少し息をあげている。
深く青い藍色の瞳が私を見つけて……そして驚きに大きくなって時を止めた。
「綺麗だ」
その声が心を震わせて、ずっと抱えてきた重い気持ちをふわりと羽のように軽くした。
ゼノスさんは目をぎゅっと閉じた、そして開かれた瞳は怖いくらい優しくて……
ゆっくりこちらに近づいて来る。
ああ、その胸に飛び込んでしまいたい。
あなたを待っていたの。
彼は私の正面に立つと「とても綺麗だ」ともう一度言った。
「それでココは誰と結婚するの?」
ははっと歯を見せて彼は爽やかに笑った。
「ナッソスだよな。俺気づかなかったよ、ココとあいつがこんな仲になっていたなんて。祝福しなきゃな。おめでとうココ。ナッソスに幸せにしてもらうんだぞ」