表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

おとぎ話をモチーフにしたショートショート集

神通力を奪われ、奴隷にされた女神は復讐を遂げた後、勇者パーティーの討伐を受け流して、しばし休息を取ります

作者: 茜子

前作「神通力を奪われ奴隷にされた女神の怒りが頂点に達した時、女神は覚醒する~復讐はとろ火でじっくりと(改訂版)~」の解決版です。


 魔王となったわらわは、自分を嘲笑した村を焼き払い、王国全体を情け容赦なく壊滅させた。


 溜め込んでいた憎悪と欲望を一気に解放したわらわは、もうひとつの欲望を思い出した。

 仕方がない。わらわも健康な女の子だもの。一年間も禁欲してたら、それは溜まるものも溜まるわ。


 わらわは、以前、神秘の泉の女神として泉に人を寄せ付けず、毎週末、神々の集いで奔放に遊び歩いていた頃を思い出した。



 辺りは焼け野原。人っ子一人生き残っておらず、幸い見る者などおらぬ。

 溜まったものは、抜かないとね。

 わらわは泉の水に半身を浸し、じっくりと「一人遊び」を楽しむことにした。





 一方その頃、勇者パーティー「金翼の覇者」は魔王のもとに迫っていた。

 彼らは全員が自信に満ちた顔をしており、それぞれが世界を救う使命感に燃えている。


「いくら恐ろしい魔王と言えど、俺たちならきっと勝てる!」


 パーティーリーダーである勇者アルヴァが叫ぶ。


「その通りだ!」重戦士バルゴが力強くうなずく。


「皆で力を合わせれば怖いものなしよ!」紅一点の魔導士セリナが微笑む。



 全員が泉のほとりに到着し、魔王に向かって攻撃開始の雄叫びを上げた。


「こら!魔王!我々『金翼の覇者』が来たからには必ず討伐してみせるぞ!」


 だが、魔王はそれには応えなかった。泉の真ん中で背中を向けたままガン無視であった。


「あぅっ! んんっ! んんぅ……!」


 そして、なんとも動物的な叫びを返すだけだった。



「ゴルァ!女神!なめとんのか!返事くらい、せいやぁ!!」


勇者アルヴァが怒り狂って叫ぶ。だが、返ってくる返事は


「ぁぁ……んっ、あぁ……」

「んんっ……! んんんっ……!」


セリナが「私、なんとなく聞き覚えがある……」と少し顔を赤くした。




「なんということだ……魔王はもはや言葉を発することもない。

 理性を失い、完全に怪物と化してしまったか!」


 アルヴァが眉間にしわを寄せる。


「攻撃してこないなら、今が好機だな!」バルゴが剣を握りしめる。


「今こそ、全力を出す時だわ!」セリナの杖が輝きを増す。


 五人は魔王の背後にから、それぞれの必殺技を繰り出す準備を整えた。


「五人同時にいくぞ!ブレイジング・スラッシュ!」


 アルヴァの剣が赤い炎をまとい、魔王の背中に振り下ろされる。


「ドラゴニック・カタストロフ!」


 バルゴの大剣から巨大な竜の形をしたエネルギー波が放たれる。


「エターナル・ラグナロク!」


 セリナの杖から放たれた光が、魔王を包み込むように降り注ぐ。


「シャドウ・レクイエム!」


 僧侶ルイスが闇の中から跳び出し、魔王の足元を狙う。


「スカイエンド・デスペラード!」


 弓使いアインが空中で矢を放ち、矢は稲妻となって魔王を貫く。


 ものすごい斬撃音と轟音が辺りに響き渡った。


 その時、魔王は叫んだ。「ああぁぁあっ‼︎ だめっ! だめぇえええっ!」


「しめた!我々の攻撃が効いてるぞ!!」








 セルフプレジャーに耽る(ふける)女神――魔王である、わらわは、下の方でゴミがなんか言ってのが聞こえてきた。

 ふあぁぁああっ、時間をかけて坂を上り詰めて、もうチョットでクライマックスなのに……

 こっちは指を激しく動かして両手が塞がってるから、それどころじゃないわ。

 わらわは、手が離せないのじゃ。めんどくさい、あえて攻撃を受けるわ。


「五人同時にいくぞ!」って、こっちも、いくわよ。


 あっ!なんか、背中に感じる。丁度いいマッサージ。わぁ、全身に心地よいバイブレーションが沁みる……。



「ああぁぁあっ‼︎ だめっ! だめぇえええっ!」


 快感が波のように押し寄せ、わらわの身体を震わせる。


「ひぁぁあっ⁉︎」


 ぷしぃっ、わらわの泉が、勢いよく噴き出た。何度も何度も。



「あ」


 その瞬間、一線を越えた。


「んんんぁああああっ‼︎ ああぁぁぁぁぁああっ‼︎ はぁぁああうんんんぁぁああああああああああああっ‼︎」


 声にならない叫びをあげながら、わらわの身体は大きく跳ね、硬直した。

 全身が弓形に反り、ぶるぶると痙攣を繰り返し、ズブズブズブとそのまま泉に沈む。




 すべての欲望を吐き出したわらわは、気だるい眠りに誘われた。

 これから、泉の底に沈み、しばしのまどろみを楽しもう。







「金翼の覇者」のパーティメンバーたちは、倒れた魔王を見下ろしながら、勝利の余韻に浸っていた。

 全員が疲れ果てていたが、その顔には満足げな笑みが浮かんでいた。


「今回は相手から反撃を許さない、一方的な勝利だったな!」

 リーダーのアルヴァが笑いながら言った。大剣を肩に担ぎ、誇らしげに胸を張っている。


「オレたちの連携が完璧だったんだよ!あの魔王が手も足も出なかった!」

 バルゴの大剣を地面に突き刺し、勢いよく頷いた。


「そうそう、『だめ! だめ!』とか言って、最後は人間の言葉を取り戻したのかしら」

 魔導士のセリナが頬に付いた埃を拭いながら、笑顔で答えた。


「けど、最後の攻撃の後、水魔法か?、いきなり潮のような攻撃には肝を冷やしたぞ。

 見当違いの方向だからよかったが、まともに攻撃を受けたら危なかった」

 僧侶のルイスが冷静な声で注意を促す。だが、その声にも少しばかりの安堵が含まれていた。


「まあまあ、ルイス。魔王の最後の断末魔を聞かなかったのか?全身を苦しそうに振るわせて。

 あれなら二度と復活することはないさ!」

 弓使いのアインが空を見上げて深呼吸した。



青空が広がり、戦いの跡をかき消すかのような清々しい風が吹いていた。


「よし!!いつもの合言葉を唱えるぞ!」

リーダーのアルヴァが叫ぶ。


「「俺たち最強だ!

 『金翼』最高!」」



 その頃、泉の中では女神が遠のく意識の中、彼らの勝どきを聞いていた。


「禁欲、解放……」



もしも、少しでも「面白かった」「良かった」などと思ってくださいましたら


ブクマや評価頂けると励みになります……!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ