【魔の森】攻略隊。(シャンプーを添えて)
―――正式に冒険者ギルドから“【ブラウの街】へ冒険者を搬送する依頼”を受諾した俺は、一旦ミント達と別れ、再び【ブラウの街】へ向かう際の準備をする。
「すいませんオレンスさん、明日には帰って来れるかどうか…」
「かまいやしねぇよ。俺だって【魔の森】は早く解決して欲しいと思ってんだから坊主が気に病む必要はねぇよ。色々と落ち着いたらまた戻ってこい」
「ありがとうございます!」
本来の予定なら明日もオレンスとのガトラー業があったはずなのだが、俺が【ブラウの街】へ急遽向かう事になった所為でオレンスは1人になってしまう。
元々1人でガトラーをやっていたオレンスにとっては別に痛手でもなんでもないのだろうが、俺としては約束していた事を2日目にしてブッチしたような感覚なのでとても申し訳なく思ってしまう。
オレンス的には『おめぇの事が有名になれば将来1人でガトラ―しても安泰だろう?顔を売る絶好の機会に変な遠慮してんじゃねぇよ』とガハハと笑い飛ばしてくれたので、本当に感謝の気持ちしかない。
それと、一応【魔の森】関係で冒険者ギルドの手伝いをしに行くとは伝えていたが、まさか再び【ブラウの街】に向かう事になるとは思っていなかったので、再度メルメスの屋敷へ戻り、ギルドでの事情を伝えて来た。
メルメスとバルトファルトはすでに【魔の森】関係で動き出していたようで屋敷には居なかったので、メイドのペペットに伝言をお願いしておいた。(ついでにかなりの量が必要になると思い、水のおかわりも多めに貰った)
――そんなこんなで、冒険者ギルドの指定した時刻が差し迫ってきたので、集合場所である王都の玄関口である門前広場へとやってきた。
「――ごーしゅーじーんー!!!」
「え…?あ、ルイ…――ごはッ!?」
門前広場に到着するや否や、チラリとホワイトタイガーの面々が見えたなと思ったら、そこから飛び出してくるフリフリの服を着た(着せられた?)小さな女の子。
『あ、そういえば迎えに行くの忘れてた』とギルドに置いて来てしまった事に気が付いた時には大粒の涙を浮かべたルイが俺のお腹にズシリッ!と突き刺さっていた。
「ひどいッ!ひどいよご主人!!オレ、助けてって言ったのに無視されて!そのまま忘れられて!あの後着せ替えごっこされて大変だったんだよぉ!!」
「ご…ごめんルイ……別にルイの事嫌いで無視した訳じゃないんだよ?ホントだよ?ただ、あの空間に入る勇気がなくてね?」
「うぅ……じゃ、オレを忘れてどっか行ったのは…?」
「………」
あ、ヤバイ…ルイの目がまたウルウルとしてきたッ!くッ!あの時少しでも勇気を出してルイを救いに行っていれば!!
「そう責めてやるなルイ?確かにコナーも悪いが緊急の依頼でバタバタしていたし、ルイの事を捕まえてたウチの女性陣の所為でもあるんだ。許してやってくれないか?」
「ミ、ミント…!」
流石に小さな女の子を泣かすのは心が痛いし、何より罪悪感が酷いのでどう謝ろうかと頭を悩ませて居たらなんとルイの後ろからついて来ていたミントが仲裁に入ってくれた!思わずその男気に惚れてしまいそうになったが、ミントは女性なのを思い出し、寸での所で心を自制する。
「……んぅ……ご主人、忙しかった…?」
「あ、えと…確かに忙しかったけど、それでもルイを助けるべきだったって反省してる!ゴメンルイ!今度からは絶対に忙しくてもルイを優先するから!」
そう誠心誠意頭を下げ、必死に許してもらおうと謝罪をする俺。
「………(オレを…優先してくれる…)なら……いいよ」
「!……ありがとうルイ!約束な?」
ルイが頬を染めつつも怒りを抑え、俺の事を許してくれたので、もう同じ失敗はしないようにしようと誓いを込め、笑顔で指切りを交わす。
……何やら最初の方にもにょもにょと喋っていたような気もするが…まぁそこはルイの独り言なのだろうし、聞き返すまでの事でもないだろう。
「よし!それじゃ早く冒険者達の集まってる所に行こうか。ルイには【アイテムボックス】内の事みんなに説明してもらう事になるし、お風呂関係も頑張ってもらうつもりだからね?」
「…うん!オレ頑張るよご主人!」
そう言って俺とルイは広場の中央に集まっている冒険者達の所へ足を進める。
…何故かルイが俺の手をそっと繋いできたが、恐らく今まで離れていた寂しさから来るものだろうと俺も反省しつつ、ルイの甘えを受け入れる形でギュッとルイの手を握り返すのだった。
「……あれ?オレ、忘れられてる?」
ルイとコナーに置いてかれたミントは、寂し気にそう呟き、哀愁漂う歩みでパーティーメンバーのいる所へと戻るのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
広場で集合している冒険者たちはミントの言っていた通り約30人前後。
ミント率いる【ホワイトタイガー】と、先程教えてもらった【龍の涙】はもちろん、その他俺が知らない冒険者パーティーが来ている。(ゲルト達もいるかな?と見渡してみたが、どうやら今回は不参加らしい)
俺は今回請け負った移動面についての説明と俺が持つ【アイテムボックス】についての説明含め、皆に自己紹介をする。
「―――という事で、今回は俺が皆さんを送り届けるコナーです。部屋は全員分ありますが、数がギリギリなので家具が足りてないとかあるかもしれませんけど、ご了承ください」
「いいよいいよ。元々私らが無理やりお願いした事だから気にしないで!寧ろごめんね?用事とかあったかもなのに」
「そうそ、それに普通ならガタガタ揺れる馬車での移動で辟易する所を、コナー君の【アイテムボックス】なら快適に過ごせるんでしょ?それで文句の言う冒険者なんていないよ。居たら私達がぶん殴るから」
気前よく朗らかに受け答えをしてくれたのは、先程までヘーニアやメメ達と一緒にルイの髪質について大はしゃぎしていた……確か【龍の涙】のメリラとリズだったかな?
先程までは美容関係にはしゃぐギャルの人達といった印象だったが、今は冷静になった様子で、頼れて優しく明るいお姉さんと言った雰囲気。
「――二人とも?いい人アピールをするのは構わないけど、今回ここに集まった冒険者の殆どが君達が無理やり『シャンプーとか言うのを試したい!』と言って集めたという事を忘れるなよ?寧ろ文句を言われるのは君達じゃないかな?」
「「うッ……」」
メリラとリズの後ろから、ほんの少し恨めしそうに2人に声を掛けるのは同じ【龍の涙】のパーティーメンバーのはずの先程受付に居た黒い鎧を着た男性だ。
その男性の後ろには同じく受付に居た褐色肌の長身女性が付いてきていたので、恐らくこの4人が【龍の涙】全員なのだろう。
「すまないねコナー殿、本来なら貴方に迷惑を掛けずとも冒険者ギルドが所有する馬車で向かう事も出来るのだが、どうも貴方のガトラーが妙な噂になっていてね?ウチのパーティーメンバーが無茶を言ったようなんだ」
「あ、いえ!俺も元々何か手伝える事はないかなって考えてましたし、将来自分のガトラーを始める時に顔が売れていた方が色々と助かりますので!」
「そう言ってくれると助かる……私はこの【龍の涙】でリーダーをしている“カルロス・ベン・ノッケイヤー”。こちらの女性は私のメイド兼護衛の“リャーナ”という」
「以後、お見知りおきを。コナー様」
……立ち振る舞いや言葉遣いから何となく察してたけど、名前がミドルネームでメイド付き…確実に貴族の人だよね?
「よ、よろしくお願いします……すいません、マナーとか色々わからないので失礼な事をしちゃうかも…」
「ははは。気にしないでいい。一応貴族の端くれだが、家は子爵で私自身は四男というほぼ市民と変わらないおまけ貴族。不敬など気にせず気安く”カルロス”と呼んでくれないか?」
「えと…ありがとうございます、カルロス…さん」
ほぼ市民と変わらない人にメイド兼護衛のリャーナを付けるのだろうか?と言う疑問は浮かんだが、あまり深追いしても失礼になるだろうと話をここで打ち切り、早速【ブラウの街】へ出発する為の準備を開始する。
「…えと、それじゃ今から≪ゲート≫を開いて各部屋に皆さんを案内しますね!【アイテムボックス】内の事はこのルイという子が説明してくれます!まずは――」
今回の【アイテムボックス】を利用するのは合計で30人の冒険者達のみ。
というのも実は、アレだけ帰りも乗る気だったリルットが王都の冒険者ギルドでお留守番する事になり、今回のガトラーには不参加なのだ。
理由は『一受付嬢が【魔の森】が発生した街に行っても邪魔になる』『今回の応援要請に当り、必要書類の作成が必要な為、残ってもらって仕事をしてください』といった如何にも現実的な理由だった。
その話を聞いたリルットはまるでこの世に絶望したような表情を浮かべていたので、流石に少し可哀そうに思い、『また王都に戻って来た時は俺が送りますから…』と慰めると涙と鼻水を垂らしながら『ごなぁざまぁぁぁッ!!』と縋り寄られた。…服がべちょべちょになり、少し後悔したけど。
まぁそんな訳で、今回は冒険者達のみの参加となる。
「ミント達が4人…【龍の涙】の人達も4人で一部屋でいいらしいけど、他のパーティがなぁ…」
「足りそうか?」
「あ、ミント…それが全パーティに一部屋ずつだと1部屋オーバーしちゃうんだよね……1人ソロの人がいるからその人だけどこかの部屋と相部屋になってもらう感じかなぁ?」
部屋割りは基本的に一パーティーで一部屋を使ってもらう形になるのだが、実はこの広場にいる参加パーティー数は全部で11パーティ。
4人パーティは【ホワイトタイガー】や【龍の涙】含めて3組。
3人パーティは3組で、2人パーティは4組もいる。
そして最後はソロで参加の女性が1人で、計30人という内訳だ。
…俺はてっきり、前世の記憶で冒険者パーティーとは大体4~6人ぐらいのパーティーを組むものだと思い込んでいたが、どうやらこの世界の冒険者は比較的少人数でパーティーを組む方が主流なのかもしれない?
まぁそれは置いて置き、流石にソロの女性の方に一部屋丸々使ってもらう訳にもいかないので、そのソロの女性は別のパーティと一緒に部屋を使ってもらう事によって計10部屋に収める事になった。
「…という事で、この部屋は3人で使って欲しいんですけど…」
「…私は構わない。別に中で仲良しこよしとしなくていいんだろう?私は部屋の隅に居させてくれるだけでいい」
「は、はぁ……私達も……別に大丈夫です…他のガトラーに乗れば相乗りは基本ですし…ね?ユイ」
「う、うん…お姉ちゃんと一緒だし、文句はないよ!」
ソロの女性を押し込むにあたり、流石に男性しか居ない部屋に割り振る訳には行かず、男女、もしくは女性だけの部屋に割り振るべきと考え、ちょうど2人パーティに姉妹で冒険者をやっている方達がいたので、相乗りを頼んでみれば、特に双方とも問題はない様子。
若干、ソロの女性が冷たい態度を取っているようにも感じるが、ソロで冒険者をしている理由だってあるのだろうし、あまり突っ込み過ぎるのも良くないと飲み込み、三人を割り当てた【アイテムボックス】の部屋の中へ送り出す。
「よし。これで最後…っと。あんなに人が居たのに独りぼっちになったら寂しいもんだね」
誰も居なくなった広場でそう呟くが、恐らく今俺の【アイテムボックス】の中は中々にカオスな状況になっている事を想像すれば、この寂しさも嘘のように感じる。
「……絶対、ヘーニアさん達女性陣が、ルイの所に突撃しに行ってるんだろうなぁ…」
ルイには今度、沢山いい物食べさせてあげようと俺は心の中で合掌するのだった。




