コナーの目指すガトラー
今回の旅は比較的安全で、魔物の出現もあまりない経路を通って目的地【ブラウの街】に向かう予定である。
王都から平原を抜け、大きな山を迂回しつつ、馬車で約6時間程走った先にあるのが森林に囲まれた自然豊かな【ブラウの街】。
まぁ魔物があまり出現しないと言っても数時間に一回のペースで遭遇するのは王都に向かって来た時と同じなので、本来なら護衛の存在は必要不可欠なのだが、そこは俺の【アイテムボックス】があるので、問題はない。
「あらあらまぁまぁー!これが【アイテムボックス】の中!?すっっっごく素敵じゃない!!」
「こりゃすげぇな…【時間停止】の機能がついてなくても人が入って移動出来るんなら色々な活用法があるぞ…」
「ほほぉ?大きさや規格のズレは素人の腕だが、デザインや所々に見える細かい処理が丁寧だな……」
王都を抜け、暫く平原を走らせた後、俺達は一旦【アイテムボックス】の中を紹介する為オレンスに馬車を停めてもらい、全員で【アイテムボックス】の中に入る。
いの一番に【アイテムボックス】に入っていったのは俺の事を色んな意味で信頼し始めているエルダ。
それに続いてバッカス、ニルドレン、そしてオレンスとルイ、俺が入る。
エルダは部屋を見て感激し、バッカスは俺のスキルの活用法を模索し始め、ニルドレンは配置された家具の出来を採点し始める。
「部屋はこれと同じ規模の物が幾つもありますので、1人1部屋で使ってください。一応トイレはどの部屋からでも行ける様に空間を繋げてますけど、一か所だけなので使用中の場合は順番に使ってください」
今紹介しているのは所謂≪シングル≫の部屋だ。
今回部屋を使用するのは同じ冒険者パーティーなどではないただの知り合いの3人なので、同じ部屋で寝泊まりするのは嫌だろうと配慮した。
ちなみに、オレンスとフォルンも≪シングル≫の部屋に割り振っているので、≪シングル≫の部屋は残り1部屋……≪シングル≫は8部屋中2部屋が≪トイレ≫と≪水場≫に使っているので少しだけ数が少なく感じるが、家具の数も限りがあるのだし、ひとまず今回はこのままでいこう。
「部屋を鑑賞するのもいいが、まずは自分の部屋を確認しろ。俺達はもう馬車を進ませるからあんまり騒いで坊主に迷惑は掛けるなよ」
「あはは……それじゃルイ?一応3人がわからない事もあるかもだから、一緒にここに残って案内してあげてくれるかな?する事が無くなったら俺達の部屋の≪自室≫で好きに過ごしてていいから」
「ん?わかった!けど、オレご主人と一緒に外に居たいんだけど…」
やっぱりルイはまだ外で遊びたい盛りの子供なのかな?部屋で籠ってるより外の空気が吸いたいって事だね。
「そう?ならちょくちょく【アイテムボックス】の中を覗くから大丈夫そうな時に外に出ておいで」
「うん!」
ルイの満面の笑顔を見て、微笑ましく思いながら、オレンスと一緒に【アイテムボックス】の外へ出る。
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「…さてと、オレンスのおじさん!もし交代が必要だったら言ってくださいね、俺も御者は出来るんで」
「ハッ、別にいらねぇよ。おめぇはゆっくりと休んでろっての」
馬車を走らせ始め、一応オレンスの事を気遣って声を掛けるが、無用な気遣いだったようだね。
「んー…って言っても眠くはないし、する事も無いんだよな……そういやステータスの確認してなかったっけ」
王都に到着してからは色々あった所為で確認出来ていなかったステータスの確認。
まだレベルは上がってはいないはずだが、万が一の為に確認するのは大事な事だ。
それに、念の為……本当に念の為に確認が必要な事もある。
「……ごくッ……いざッ…!」
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【名前】 コナー
【年齢】 15歳
【スキル】 アイテムボックス:Lv9
【SP】 22/26
★アイテムボックス★
【ルーム操作】
≪自室≫ 10×10:【その他▼】
≪メルメス≫ 10×10:【その他▼】
≪シングル≫ 5×5:【エルダ♂:興奮】【その他▼】
≪シングル≫ 5×5:【バッカス♂】【その他▼】
≪シングル≫ 5×5:【ニルドレン♂】【その他▼】
≪シングル≫ 5×5:【その他▼】
≪シングル≫ 5×5:空
≪シングル≫ 5×5:【フォルン♀:睡眠】【ルイ♀】【その他▼】
≪ダブル≫ 10×10:【その他▼】
≪ダブル≫ 10×10:空
≪ダブル≫ 10×10:空
≪ダブル≫ 10×10:【その他▼】
≪トイレ≫ 5×5:【その他▼】
≪水場≫ 5×5:【その他▼】
≪ゴミ箱≫ 10×10:【その他▼】
【装備】
≪頭≫ :無し
≪胴体≫ :普通のシャツ
≪腕≫ :無し
≪足≫ :普通のズボン
≪武器≫ :無し
≪アクセサリー≫:無し
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「……ふぅぅ……よかった…全員男だったか…」
全員の名前の横に見せる≪♂≫の字に心底安心する俺。
なんだかんだ己の目が信用できなくなってきていたのか、どう見ても男性にしか見えない3人にも『もしかしたら男装した女性だったり…?』と疑問が浮かんでしまっていたので、念の為の確認だった。
……いや、仮に男装の人がいたとしても困る訳じゃないが、こう……気になるだろ?
まぁ今回は変に考え込まなくてよかったと思えば、心労軽減の意味でステータスの確認を早めにしておいてよかった。
「……ルイは……フォルンの世話かな?」
特にフォルンに関しては言っていなかったが、ルイの事だしフォルンの事もお世話した方がいいかな?と気を使ってくれたのだろう。
根が優しい子だし、俺としても気が回らない所を気にかけてくれればとても助かるしな。
「ともあれ、ステータスの変化は無しだね。まぁ流石にそんなにすぐレベルが上がるとは思ってなかったししょうがないけど……っていうかエルダさんの【興奮】は何故…」
ちなみに、ステータス画面の部屋の位置が微妙に変わってはいるが、これは昨日の夜に俺が見やすいように整理しただけなので、勝手に変化した訳では無いとだけ伝えておく。
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王都を出発して約3時間。運のいい事に魔物の襲撃は今の所一度も無い。
今は馬車の馬を休めるべく、道の途中にあった川辺で小休止を取っており、【アイテムボックス】の中で寛いでいた人達も外の空気を吸いに外に出て来ている。(フォルンはもちろん寝てるが)
「すごいわぁすごいわぁぁ!!こんなの宿屋と変わらないじゃない!絶対私リピーターになるわ!」
「いやぁあまりの心地よさに少しだけ寛ぐつもりが、ぐっすりと寝てしまったよ」
「家具のレベルが後少し高ければ、爵位の低い貴族なら招くのも問題は無さそうだ。…冒険者や一般市民相手なら文句なく満点のサービスだろうな」
【アイテムボックス】から出て来た3人は、如何にこの3時間が快適だったかを熱弁し始め、俺はその勢いに圧せられる。
自分のスキルを褒められるのは素直に嬉しいし、3人の様子的に今後俺が独り立ちした場合でも何とかやっていけそうな感じはするので、手応えは十分。
もちろん、オレンスの紹介なので、ほんの少しの社交辞令はあるかもだが、余程問題があればきちんと言ってはくれる人達のはずだ。
「ねぇコナーちゃん。お部屋の数とかお部屋の種類って聞いても良いのかしら?」
「大丈夫ですよ。部屋は今の所全部でエルダさん達が使っている≪シングル≫が6部屋と≪シングル≫が4部屋合体した大きさの≪ダブル≫が4部屋です。……えと、一応トイレとかゴミ置きの部屋も全部入れるなら≪シングル≫8部屋と≪ダブル≫7部屋ですね」
≪自室≫や≪メルメス≫の部屋は必要に応じて変える場合はあるかもだが、≪トイレ≫と≪水場≫、それと≪ゴミ箱≫は不要になる事はないので変更する予定はない。
変更しないのならエルダに伝えなくともよかったかもしれないが、別に隠さなければいけない事でもないので特に気にせず話す事にした。
「なら基本的に客室として使えるのは10部屋だけなのね?それだけだと恐らく、3か月もしたら利用客の数の方が溢れそうねぇ…」
「…そんなに繁盛しますかね?」
「あったりまえじゃない!料金設定次第で変わるでしょうけど、王都を活動拠点にするならまず間違いなく大繁盛するわね。なんなら客室が後50部屋あったとしても足りないくらい」
50!?それは流石に盛っているとは思うが、隣で力強く『うんうん』と同調しているバッカスとニルドレンを見る限り、今の部屋数では本当に足りないという事なのだろう。
だからと言って、俺の部屋の総数はレベルによって決まっている為、『はいそうですか』と部屋を増やせるような物でもない。
精々今の俺に出来る事と言えば、≪ダブル≫の部屋を4分割し≪シングル≫の部屋を増設。
そしてその増やした≪シングル≫の部屋に出来るだけ1名利用では無く2,3名を押し込む形で販売する事によって数を誤魔化すぐらいしか出来ない。
まぁ≪シングル≫を増やすという事は部屋に置く為の家具もさらに必要になるという事なので、今すぐにどうこうは出来ないが…。
もしくは≪ダブル≫の部屋を雑魚寝の大部屋として数グループを一緒くたにするぐらいか?
……いや、それは個人的に嫌だな。前世の日本人の記憶が『倫理観ッ!』と叫んでいる。
「流石に一気に部屋数を増やすのは厳しいですかね……」
「なら、値段設定を上げて、利用客を制限するしかないかしら?ターゲットは豪商の商会長や男爵位や子爵位下位貴族って所ね」
「いやいや、貴族を相手にするとなると礼儀作法やマナーを身に付けねば面倒な貴族に目を付けられる可能性も高くなるぞ」
「何より、貴族を相手に商売するのなら家具の質が足りてねぇ。さっきも話したが今使ってる家具は一般の客向けだ。貴族用に家具を客室分誂えるってなると金貨数十枚は飛ぶと思っておいた方がいい」
き、金貨数十枚……盗賊を何人捕まえればいいのか…。
それにマナーや礼儀作法に関しても俺はド素人。
メルメスが寛容で居てくれるから問題にはなっていないが、本来メルメスも礼儀を払うべきお貴族様なのに、俺はかなり馴れ馴れしく話してしまっている。
もし他の貴族にも同じような態度を取れば、最悪『不敬罪だッ!』と言われ打ち首……は無いにしろ牢屋に入れられる可能性は無きにしも非ず。
「…すいません。貴族の相手もちょっと……少なくとも色々と貴族社会を勉強してからかなと…」
「ん~……なら、後出来るのは……ガトラーでも人気の無い長距離専門をするとかかしら?」
「…ガトラーって長距離の移動って人気無かったんですか?」
「ガトラーってそもそも近場を行き来する辻馬車の別称だからね。長距離移動する場合は個人で馬車や護衛を雇って向かうのが普通なの。寧ろ今日の【ブラウの街】行きだって、他のガトラー乗りはまず向かわない場所なのよ?オレンスのガトラーが行商と二足の草鞋だからこそ客が少なくても続けられる方法ね」
エルダの説明になるほどと納得する。
そもそもガトラーは前世で言うバスなのだ。
いつも使う店に買い物に行く為、彼氏彼女とデートをする為、仕事場に向かうのに楽をする為にガトラーを利用する。
しかし、今俺達が向かっている【ブラウの街】は近くのスーパーでも病院でもデートスポットでもない。
前世で例えるなら東京から大阪へ夜行バスで移動するような物。
夜行バスと都内を回るバス、単純にどちらが利用客が多いかと聞かれればもちろん後者だ。
それも魔物が蔓延るこの世界では余計に長距離移動への不人気が伺える事だろう。
……自分で例えを出しておいてなんだが、前世の日本には飛行機や新幹線などもあったのだし、夜行バスで例えたのは微妙に違ったかな?
まぁとにかく、この世界では安全な街中から魔物が蔓延る危険な外を経由して遠くの街まで旅行に行く人間はかなり少数。そしてオレンスはその少数の客の為に、行商と並行してガトラーをする事によって利益を出す事が出来ている人だという事だ。
「そんな不人気な長距離移動のガトラーなら、今のコナーちゃんの客室数でも捌ける程度の客しか集まらないだろうし、そこでレベルを上げて部屋数が増えてから王都内のガトラーもやってみたらいいんじゃないかしら?」
「そう…ですね。俺としても寧ろ故郷の【ブルスの街】と王都を行き来したり、遠くの街にオレンスさんみたく行商をしながらやっていきたいなって思ってたので」
近くの村や町を1日かけて数か所回るガトラーでは無く、1,2週間掛かる道程を安全に、そして快適に移動でき、様々な街を訪れる……それが俺の目指すガトラー。
漠然と運送業、辻馬車、ガトラーと適当に進めて来たが、ようやく俺の目指すべき物がはっきりしてきたような気がする。
「俺、旅するガトラー…やってみたいです」
「旅するガトラー……いいんじゃねぇか?まぁガトラーっぽくはねぇがな」
話を聞いていたオレンスに『がはは』と笑われながらも、俺の思いを尊重してくれるのか素直に思った事を言ってくれる。
「あらあらあら!良いじゃない良いじゃない!!安全に旅が出来るガトラーなんて聞いた事無いもの!私もお手伝いさせてほしいわ!」
「旅をする事、その物を商品として売り出すという事か…坊主の【アイテムボックス】あっての商売だな」
「…ある意味客は増えそうなコンセプトだがな」
最後のニルドレンの呟きに思わず『確かに…』と納得してしまい、またもや全員で“客室が足りない”と話の論点がループするのだった。




