世の中、知らない方が幸せな事もある。
正式にルイが俺の仲間になった後、俺は1日ぶりにメルメスの屋敷に帰還した。
俺が無断で外泊した事はすでに全員に周知されており、ペペットのような仲の良い使用人達や冒険者ギルドから帰って来ていたミント達には『大丈夫だったか?』と心配の声を掛けられ、心配をかけてしまい申し訳ない気持ちになる。
ただ、バルトファルトは俺のスキルが【アイテムボックス】な事もあって特に心配はしてなかったらしく、開口一番に『帰ったか、メルメス様が貴様に話があるとの事だ。さっさと行け』と言われたのには少しだけ笑ってしまった。
まぁバルトファルトの性格は知っているので嫌われている訳じゃないのはわかるので、変に心配をされるよりかは気が楽になるので助かるけど。
…で、メルメスについてなのだが…。
「むぅ~……」
「え、えっと……」
バルトファルトに言われ、何か話があるのであろうメルメスの元へ来たのだが、何故か顔を合わせてからずっとふくれっ面で如何にも不機嫌だと言わんばかりの視線で見つめられている。
…いや、正確には俺と一緒の“ルイ”を見てからずっと不機嫌、と言った方が適切だろうか。
「……王都に来てたったの二日で女の子を連れ込まれるなんて……コナー様は手が早すぎますわ」
「不名誉が過ぎる!?ち、違いますよ!この子はそういう関係じゃなくて、俺の運送業を手伝ってくれる仲間なんですって!」
どうやら、ルイの事を俺が連れ込んだ愛人とでも勘違いしていたようで、メルメスは俺達の事を風紀的な意味で心配をしていたらしい。……いや、流石に人様の家に女を連れ込むような非常識な訳がないし、それ以前にルイは子供……メルメスと同い年位の小さな子供なんだからすぐに勘違いと分かりそうなものなんだけどな。
「仲間ですか…?」
「ル、ルイです…よろしく……です?」
俺の言葉でルイの方に目線を向けたメルメスに当事者のルイは、生まれて初めて貴族の人間と会っているという事実に緊張をしているのか、敬語になりきれていない言葉遣いで何とか自己紹介を口にする。
「……まぁ元々運送業を始めるにあたって人手が必要になるのはわかっていましたし、人が増えるのはこちらとしても大歓迎ですけれど……手が早いのは計算外でしたわ」
「仕事が早いって意味ですよね?それ以外の意味とかじゃないですよね!?」
おかしい……メルメスの誤解を解いたはずなのに、まだ誤解されているような気がする。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
とまぁそんな一幕がありつつも、ルイが屋敷に滞在する許可はあっさりもらえ、部屋は俺が貸してもらっている客室の隣を用意してくれた。(俺の【アイテムボックス】を使う案もあったが、気がついたらメルメスが用意してくれていたのでありがたく使わせてもらう事にした)
「―――ってな感じで、ルイの【水魔法】で風呂や布団の洗濯も出来たらなぁって思ってるんだけど」
「…この魔法で洗濯も…。わかった!任せて!絶対役に立って見せるよ!」
そして、現在は俺の【アイテムボックス】を使った運送業……ガトラーについての話をする為、ルイを俺の部屋に呼んでいた。
「あんまり気負わないでね?まず出来る事を試していく段階だからさ」
「うん!でもご主人の【アイテムボックス】ってやっぱりすごくない?話を聞いただけで絶対成功するって思ったよ?」
「うぅ~ん…俺も失敗する可能性は少ないとは思ってるけど、商売に絶対はないからねぇ……まぁやれるだけの事はしておかないとね」
ルイに話したのは俺の【アイテムボックス】の仕様と今後どう扱っていくかの展望を簡単にまとめた話をし、俺が始めるガトラー業でルイにはやってもらいたい水場系のお仕事を割り振らせてもらった。
1つはルイの【水魔法】“バブル”を使ったお風呂場の液体石鹸の補充。
2つ目は客室の布団やシーツの洗濯係。
洗濯係についてはルイ本人が『炊事洗濯は親父が生きてた時も軽くやってた』と聞き、なら任せられるかなと仕事を任せてみる事にした。
もしかすれば“バブル”の魔法は洗濯にも使える可能性もあるので、その実験も兼ねての采配である。
1つ目の液体石鹼の補充は寧ろルイ以外には出来ないので説明不要だろう。
「明日から御者のおじさんの所でガトラー仮始動するつもりだけど、仕事をやってみて気が付いた所は遠慮せずに言ってね?俺も初めての事ばっかりだから一緒に頑張って行こう」
「う、うん」
俺はそう締めくくり、明日は午前中の早い時間に起きなけれなならないので、今日はこのまま寝る事にした。
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――翌日、俺とルイは約束通り朝早くの冒険者ギルドに訪れていた。
「…なんで2人ともいるの?」
「…寝てても仕事に……なる……護衛……すぴー……」
「私はこの子の付き添い出来ただけだから、すぐに帰るわよ。まぁちょっとコナーさんとはお話がありますけれど」
冒険者ギルドで俺達を出迎えたのは、昨日知り合ったばかりのフォルンとアーデリアの2人ペア。
フォルンは朝早くの為、殆ど寝ぼけていて話の内容がわからなかったが、アーデリア曰く『護衛の依頼を格安で受けてくれるなら護衛中は寝てていいという条件で御者のおじさんと契約したの』らしい。
恐らくおっさんは俺の【アイテムボックス】があれば護衛は必要ないと考えたが、どうしても魔物を一掃しなければならない場面に出くわした際の保険として【火魔法】の使えるフォルンを“寝ててもいい”と言う条件で格安で雇ったという事だろう。
……寝てていい護衛って何だろうなぁ……その部分だけ聞けば意味不明なワードだな。
そして、アーデリアはそんなフォルンの付き添いで来ただけらしく、午後から別の依頼で離れるそうなので、すぐに帰るとの事。
なお『お話』というワードに少しだけビクリッと肩を動かしてしまったのは決してやましい気持ちがある訳では無い。
「すぴぃ……」――カクッ……
「っとと!……もうこの子は……ごめんなさいコナーさん、早速で悪いけれどフォルンを【アイテムボックス】の中に入れておいてくれない?」
「あ、はい」
フォルンはいつもの如く、眠りに落ちたらしく、アーデリアの方にもたれかかる様に意識を飛ばしたので、アーデリアが呆れた表情でそう頼んできたので、俺は【アイテムボックス】にしまうのを手伝うのだった。
「で?昨日から1日が経つわけだけど……誰かに言ったりしました?」
「え、あいや…誰にも言ってないですね。ルイにも言ってないですよ」
フォルンを部屋に押し込んだ後、アーデリアが何故かはわからないがとてつもなく圧の感じる笑顔でこちらを見つめて来たので、そっと横にいたルイに『ちょ、ちょっと…アーデリアさんとお話があるから……』と断りを入れてからアーデリアと二人冒険者ギルドの隅に移動する。
「そう。最初にこれだけは言っておきますけど、私は別に女装趣味の変態とかじゃないですよ?恋愛対象も……多分女の子のはず」
「多分?」
「まだ人を好きになった事が無いんです!でもそこらの男と恋愛関係になるのを想像したら吐き気がするからノーマルのはずなんですよ」
なんだろう?恋愛対象が女性と決めつけるには理由が薄い気がするし、男と恋愛を想像したら吐き気がするとは言うが、普通の女性も『好きじゃない不特定多数の男性との恋愛』を想像するのは比較的嫌なものじゃないか?いや、不特定多数の“イケメン”なら話は変わるかもだが…。
アーデリアの話しぶり的に、恐らく『知り合いの男性との恋愛像』を浮かべている気がするので、俺の考えは間違っていない気がする。
「……えっと、ならどうして女装を?」
「……………たから……」
「え?」
俺の質問に何やら考え込みながら、顔を下に向けて何かを呟くアーデリア。
「む、昔…お父さんに『可愛い恰好も似合うな?可愛い』って褒められた……から?」
うぅーん……アウトッッ!!
「……なるほどですねー……」
うん。人の考え方や趣味趣向は自由だし、この国では別に同性愛が禁止されてる訳でもないんだ。
今はまだ自分の恋愛観に気が付かないアーデリアには悪いが、ここは静観するのが正解だろう。
……まぁ万が一が無いようにアーデリアとは適切な距離を保つべきだなと、俺は結論づけた。
「応援してますよ!」
「…?いきなりなんです…?」
俺の応援が何に対してなのかわからなかったアーデリアは疑問の表情を浮かべる。
「まぁいいです。ともかく、私としては色んな人に『女装趣味の変態野郎』と思われたくはないので、コナーさんの事を口封じしたい所ですが……流石にそこまでするような本当の外道に落ちる気はありません」
「え、あ、はぁ?」
あれ?昨日思いっきり首を絞められた気が…
「なのでコナーさんには私の秘密を口外しない様にしてくれれば構いません。…まぁ面白半分に噂を流されたら報復も辞さない覚悟はありますけれど」
「誰にも喋らないよう心に誓います…」
目がガチなんだよなぁ……恐らく誰かにこの情報を漏らしでもしたら本気で殺りに来そうである。
「ならいいです。それじゃ私は行くわね?フォルンの事をよろしくお願いするわ」
俺が秘密を守ると一応は信用してくれたのか、アーデリアは小さく微笑みながらそう言い、軽く手を振りながら、ギルドの外へ出て行く。
「……なんかドッと疲れた……不可抗力だったけど、今度から人の秘密を知っても心の内に秘めておこ…」
そう小さく呟き、ルイの待たせている場所へと戻るのだった。




