退避ぃぃぃぃッ!!
――――ゲルトside
「ガァァァァァァァァァァァッ――!!」
「下がれ下がれッ!奴の体力を出来るだけ削るんだッ!」
「あっぶね!?くっそ、この巨体で動き早すぎんだろ!!」
「ぐぅッ!?」
ビッググリズリーと会敵し、アーデリア達馬車組を逃がして数分程。何とか大きな怪我もする事なく戦線を維持できている。
ビッググリズリーのヘイトを逃げた馬車に向けさせない様にヒット&アウェイを繰り返し、極力時間稼ぎに重きを置いた作戦のおかげで、俺達3人じゃまず勝ち目のない相手に今も殺されずに済んでいる。
「……我ながら、良くもっている方だな…」
先程、アーデリア達にリードが言った『以前にも【ビッググリズリー】を討伐した事がある』という発言はある意味嘘ではない。
嘘ではないが、詳しく言うなら『俺達3人以外に数パーティと合同でレイドを組んだ時の話』なのだ。
流石の俺達3人だけでは、ビッググリズリーを倒しきるだけの火力も足りないし、ヘイトを分散させるタンクの数も少なすぎる。
……ハッキリ言って、俺達がこのビッググリズリーを討伐するのはまず無理。リードもそれはわかっていて、アーデリア達を安心させる為の嘘なのは顔を見なくても理解出来た。
……俺達は恐らく、後数分も経たずに全滅する。
―――だが、俺達3人の犠牲で護衛対象のおやっさんと未来ある若い子達……それに、ザラードクの子供。ルイを守る事が出来る。
ザラードクはパーティの金に手を出して喧嘩別れになったと言っても、心の底から嫌う程嫌な奴じゃなかった。
同じ冒険者パーティーで組んでいた時に危ない所を助けられた事だって何回もあるんだ。……まぁそれ以上に俺達が助けた事も多いが…。
そんな奴の子を助けて死んだって思えば、天国にいるザラードクへの土産話にもなるってもんだよな。
『てめぇが守り切れなかった大事な娘を俺達が守ってやったぜ』ってな。
「……奴なら“サンキュー!儲けたぜ!”とか言いそうだな…ぐあッ!」
「グアァァァァァァァァッ!!」
「「ゲルト!」」
ほんの一瞬気を抜いた所為で、ビッググリズリーの攻撃を躱しきる事が出来ず、薙ぎ払われるように俺の身体が遠く後ろへと吹き飛ばされる。
「がっはッ…!……なんつー腕力だよ…足に力が入んねぇ…」
躱しきる事は出来なかったが、剣を盾代わりにしつつ、後ろへ威力を殺したおかげで致命傷には至らない。だが、吹き飛ばされた時に折れたのか、足に力が入らない。
「……潮時か……リード!ポート!お前らは俺を置いて逃げろッ!もう馬車もかなり遠くまで逃げれたはずだ!お前達が合流して街まで送ってやれ!」
「何言ってんだ!お前を置いていける訳ねぇだろッ!!」
「……リードディヒの言う通り。お前を置いて行く位なら3人で死んだ方がまだマシだ……それに、俺達が逃げた所であいつの足を振り切れる訳もないんだ。潔く3人で散ろう」
「おまえら……」
リードもポートも俺の言葉に全く聞く耳を持たず、俺に止めを刺そうと動き出すビッググリズリーの前に立ち塞がる。
「…………すまないな」
「いいさ、今度ギルドで売ってるくそ高いブランデー買ってくれよ」
「なら俺は亜竜のステーキを奢ってくれ」
「ははッ!どっちも俺を破産させる気か……だが、そうだな……」
――俺達が奇跡的に生き延びたら……破産してでもお前らに奢らせてもらうさ…
――――――ボォォォォォンッッッ!!!!
「―――グアァァァァァァァァッ!?」
「「「なッ…!?」」」
瞬間、ビッググリズリーの顔面が盛大な轟音と共に爆炎が広がり、大きな巨体が後ろに倒れる。
「――皆さんッ!一旦こちらに来てください!!」
「コ、コナー君!?何故君がここに……って、それは…?」
声の方へ視線を向ければ、とっくに馬車で遠くに逃げたはずのコナー君が俺達3人を手招きしており、よくよく目を凝らせば、コナー君の隣に薄い空間の揺らぎの様な物が目に映る。
「――グアァァァァァァァァッ!!!!」
「くッ!?よくわかんねぇが…ゲルト!」
先程の爆発で怒りの咆哮を上げるビッググリズリーを見て、いち早く正気に戻ったのはリードだったようで、すぐに足の動かない俺を掴み、藁にも縋る気持ちでコナー君の方へ駆け出すが、俺達が動き出したのをビッググリズリーが見逃すはずが無く、後ろからズシンッ!という音をを立てて近寄ってくるのがわかる。
「もう起き上がるとか、どんだけ……なら――」
「コナー君……え、は!?」
俺は後ろのビッググリズリーを警戒しつつ、コナー君のいる正面に目を向けると、先程の揺らいでいる空間が見える場所からニョキっと腕だけが生えてくる。
「くらえッ!“おてて魔法”」
――――ボォォォォォンッ!!!
「――ってそれはフォルンの魔法……という事はその腕はフォルンのか!?」
空中に浮かぶ生首ならぬ、生腕首……その正体はなんだかんだ樹海に入ってからずっと寝ていた所為で存在を忘れていたフォルンのモノだった。
………いや、どういう事だ…?
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
――――コナーside
「よかった……3人とも無事で何よりです」
「あ、あぁ助かった……っていや、何だその腕!?まさかフォルンの腕を斬り落として持ってきたのか!?そもそも斬り落とした腕で魔法が使えるのか!?」
「え?あいや、別に腕を斬り落とした訳では……って、それも含めて説明しますから、今は早くこの“ゲート”の中に!」
流石に腕を斬り落として、そのまま魔法を発動など出来ないのは冷静になればわかるはずだが、ゲルト達は今窮地に一生の危機に面しているような物、冷静になれと言う方が酷だろう。
俺はまず、冷静になってもらう為にも、怪我をしたゲルトの治療の為にも安全な【アイテムボックス】内に入ってもらうべく、後ろから迫るビッググリズリーの気迫にビビりながら、3人をゲートに押し込む。
「ガァァァァァァァァァァァッッ!!!』
―――ダァァァンッ!!
「―――あっぶない……危機一髪」
3人を押し込み、俺も【アイテムボックス】内の異空間へ避難すると同時に、ゲートのある場所に魔物の極太な腕が振り下ろされ、ゲートの向こうから地面が爆発したような爆音が耳に入ってくる。
……かなりギリギリだったな…。これは俺の提案をすぐに飲んでくれた御者のおっさんに感謝だね。
もしも危ない時は俺が【アイテムボックス】で匿えばいいと高を括っていた所為でゲルトには怪我をさせてしまったが、命に別状がなくてよかった。
「い、一体これはどういう…?」
「――皆さん!大丈夫ですか!?怪我は!?」
「アーデリア…?それに他のみんなも?」
「どうなってんだ…?いきなりコナーに押されて変な真っ白い空間に入っちまうし…」
「……ビッググリズリーも、何故かこの空間には入って来れないようだな……」
ゲルト達は未だ混乱から抜け出せずに居て、きょろきょろと辺りを見渡し状況の確認をしている。
一足先に【アイテムボックス】の中で待機していたアーデリアとおっさん、それにルイは俺から色々と先に説明を受けていたおかげか、素直にゲルト達が無事な事に安堵の表情を浮かべる。
「すいません、いきなりこんな所に連れ込んで……先に言っておきますが、ここは俺のスキル【アイテムボックス】の中にある数ある異空間の一つです……あ、俺が入出の管理をしてるんで、魔物は入って来れないのでご安心を」
「「「ア、アイテムボックス…?」」」
俺はゲルト達に落ち着いてもらう時間と、ゲルトの足の治療をする為の時間を捻出する為、自身のスキル【アイテムボックス】がどんなスキルかを簡単に説明する事にする。
……それと、何故最初にこのスキルを持っている事を黙っていたのかも説明し、無駄に危険な目に合わせた事も謝ったが、スキルの説明中にある程度ゲルト達も落ち着いて来ていたのか『人は誰しも秘密にしたい事など沢山ある…それに見ず知らずの他人に己の情報を開示させるのはマナー違反なのだし、気にしなくていい』と3人とも許してくれた。
もしもの世界戦であれば、3人の内誰か死んでいたかもしれないというのに……申し訳なさが胸を締め付ける…。
「……なるほど……ちなみにこの【アイテムボックス】のゲートを王都に直接開く事は出来ないんだよな?」
「はい…俺がゲートに入ったらその場所からゲートの位置を動かせないので、少なくとも俺が外に出て王都まで移動しなきゃいけないのは変わらないです」
「なら、ビッググリズリーが居なくなるのを待ってから再出発……それが安全という訳か」
その言葉に、全員が後ろで白い空間に開いているゲートに視線を向ければ、未だ俺達の存在を探し、近くで居座っているビッググリズリーの姿が見受けられる。
一応補足だが、ゲートの向こう側からこちら側の様子はわからないはずだが、空間が揺らいでいるような場所は見えてしまう。
なのでビッググリズリーがその“揺らぎ”を俺達の出てくる出入り口だと理解している場合、しばらくはあの魔物はこの場に居座る可能性が高い。
もちろん、それほどの知能があるのかは俺にはわからないが、最悪あの魔物がこの場に居座った場合は、臨時の野営をして1日を過ごすしかない。
「……居なくなってくれるといいんですけど……」
俺の呟きに、皆が神妙な表情になる中、部屋の端で未だに眠りこけるフォルンのイビキだけが大きく聞こえるのだった。
「ふがッ………にゃむにゃむ……すぴー……」




