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とある竜の恋の詩  作者: 桜寝子
第1章
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第9話 英雄という名の化け物

 全力の障壁ではなかったとは言え、それでも突破された事に違いは無い。


 剣に纏った魔力をより濃密に鋭くした。

 ただそれだけだが、とにかく予想以上だ。


「ニヤけてる場合じゃないな。アリーシャ、大丈――」


 声を掛けようとして気付いた。

 生前に嫌と言う程味わった、周囲からの視線に。


「……なんだ、その目は。やめろ……またその目で私を見るのか……」


 うわ言の様に声が漏れる。

 英雄と呼んで縋る癖に、化け物だと恐れる。あの目だ。


「私は化け物なんかじゃない……」


 嘘だ。自分が一番分かってる。

 むしろ生前どころか、今の方がよっぽど化け物だ。


「エルちゃん……?」


 周囲を見渡していると、背後からアリーシャの声がした。

 だけど怖くて振り向く事が出来なかった。


 立ち向かってくれたなんて、何を呑気に喜んでるんだ。


「……っ!」


 もし、彼女さえあの目で私を見ていたら……

 そう思ったら居ても立っても居られなくて、逃げる様に駆け出した。



 いくらでも予想出来た筈なのに、また繰り返した。


 目立つと分かっていて力を誇示しようとする。

 自分を押し付け、受け入れてもらおうとする。

 理解されないなんて勝手に見限って独りになろうとする。


 それが俺だった。

 生まれ変わっても変わらないなんて……情けない。






 そうしてどれくらい経ったのか。

 気付けば、住み慣れ始めた小さな家に居た。


 どの面下げてアリーシャを迎えるつもりだ。

 そんな心の声を無視して、ソファの上で膝を抱えて蹲っていた。


「エルちゃん……泣かないで、ね」


 彼女が帰ってきても、動く気にはならなかった。

 なのに優しく声を掛けて背を撫でてくる。


「誰が泣くか。涙なんて……とっくの昔に枯れ果てた」


「……そっか」


 反省も含め、色々と考えていただけだ。


 なのにこんな自虐を言ってどうする。

 どれだけ構って欲しいんだ私は。 


「えと……過去に何があったのかなんて知らないけどさ。エルちゃんは化け物なんかじゃないよ」


 相も変わらず、背を撫でながら優し気に。

 あのうわ言が聞こえてたんだろう。


「そりゃあ……どんな訓練だ、って思ったけど。でも、伝えたい事は分かった。だから全力で応えた……つもり」


「皆もさ、ただ驚いてただけだよ。剣を振り回して、厳しい事を言って。子供なのにそれだけの経験をしてきたのか、って」


「エルヴァンの娘って納得はしたみたいだけど、誰も化け物だなんて思ってない。私ちゃんと皆に聞いてきたから!」


 ゆっくりだけど、ひたすらに私を慰めようとしてくる。

 そうか……エルヴァンを見る目じゃなく、エルヴァンの娘を見る目だったか。


 驚いてあからさまになってただけ、それを同じ目だと思い込んでただけ。

 本当に馬鹿みたいだ。


「わざわざそんな確認を……?」


「だって凄く切なそうだったから……今だって」


 そう言って今度は頭を撫でようとするから、出来るだけ優しく手を払った。

 なんでちょくちょく頭を狙ってくるんだ。


「そんな事より、お前には謝らなきゃな。すまなかった……思わず熱くなってやり過ぎた」


「それはホントにそう。一瞬本当に殺されるかと思った」


 話を変えてようやく私が謝ると、大真面目に返された。

 怖かったよな……本当に申し訳無い。


「……ごめん」


「でもそれだけ私に期待してくれてるって事……だよね。なら頑張るよ!」


 しょんぼり項垂れてもう一度謝ると、アリーシャはわざとらしく明るく振舞う。

 謝る側が気を遣われるなんて……どうしようもないな。


 アリーシャがここまでしてくれてるんだ。私も気分を入れ替えよう。


「ふぅ……まぁ、長々と必死に慰めてくれたのに悪いけど……私は化け物だよ」


「なんで、だから違うって――」


「いいから聞け」


 ソファから降りて笑いながら言う。

 アリーシャが慌てて否定しようとしてくれるけど……今度は私が話す番だ。


「化け物だけど、化け物として見ないでくれる人が居る……それでいいんだ。そんな風に想ってくれて本当に嬉しいよ」


 少なくとも生まれ変わった今は、紛れもなく化け物だ。


 だけどアリーシャの様な人が居てくれれば、それだけで救われる。

 たったそれだけの事だけど、ようやく気付けた。


「そ、そっか……なんか照れちゃうな」


 なんで顔を赤くする。何故か凄く居た堪れない。

 もういい、この話は終わろう。


「で、だ。さっき考えてたんだけど……お前はエルヴァンと同類だ。私には分かる」


「はい?」


「きっとお前はいつか、人よりずっと強くなる。孤独になってしまうかもしれない。だからそうならない様に、ずっと私と居ろ」


「はぇ?」


 唐突且つ説明を端折った所為で上手く伝わらない。

 我ながら話すのが下手過ぎるな……


 とは言え今全てを語るのは良くない気がする。

 それはアリーシャがアリーシャらしく生きる事を妨げてしまいそうだ。


「そ、そんな愛の告白みたいに……」


「はぁ!? な、何を言ってるんだお前はっ!?」


 良い感じの説明を考えていると、さっきよりも赤い顔でとんでもない事を言い出した。

 上手く伝わらないどころか、変な風に伝わってるじゃないか。


 確かにそう言われるとなんだかそんな言葉に感じなくもない。

 ヤバイ、こっちまで凄く恥ずかしくなってきた。


「そういう意味じゃない! ただ孤独にならないよう、友人としてっ……」


「あはは、そうだよね。あーびっくりした……」


 慌てて訂正すると笑い飛ばされた。

 勝手に勘違いして勝手に冷静になるな。


「はぁ……気が削がれた。また今度にしよう」


「ちょっ、なんか大事そうな話だったのに!?」


 誰の所為だと思ってる……私か?

 まぁいい。機会はいくらでもある。

 というか真面目な空気に戻すのが面倒くさい。


「うるさい。もういい。寝る」


「えー……」


 呆れ声を聞き流してソファに戻り、シーツを頭まで被る。

 まだ恥ずかしくて顔を見られたくない。

 なんなんだ一体。意味が分からない。


 まだ昼過ぎだけど寝てしまおう。

 せっかく色々考えてたのに……全く。




 そう、アリーシャはいつか俺と同じ道を辿ってしまうかもしれない。

 杞憂とは言い切れない程に、充分可能性がある。

 人並外れた力を持つというのは、そういう事なんだ。


 だけど理解して並んでくれる誰かが居ればきっと大丈夫。

 なら私は、その誰かになりたい。

 

 最初は導く程度のつもりだったんだけどな……

 今はただ、隣に居たい。居て欲しい。

 そんな風に思える様になったんだ。

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