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とある竜の恋の詩  作者: 桜寝子
第3章
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第40話 開戦

 そうして揃って甲板まで出てくると、数人の船員が集まっているのを見つけた。

 はてさて、一体何があったのやら。


「おーい、なんで船が止まってるんだ?」


 まぁ聞いてみない事には分からない。

 ひとまず抱えられたまま声を上げてみる。


「ん? ああ、それが――いやなんで人魚?」


「そっちこそどういう状況だ?」


「あー……事故だ。気にしないでくれ」


 すると私の姿に驚かれ話が移ってしまった。

 聞かれても語れる程の理由なんて無い。ふざけてただけだし……


「そうか……まぁいい。ついさっき、魔物の群れが通ったんだ」


「群れが通った? 襲撃とかじゃなく?」


 私が濁して答えると、船員は聞きたい事を飲み込んで説明をしてくれた。

 しかしなんだそれは。群れが通っただけ……?


「そうなんだよ。船なんて見向きもせずにな」


「それもいくつかの群れが立て続けに、だ」


 そりゃまたおかしな話だな。

 いくら大型の船だとしても、群れならほぼ確実に手を出してくる。いくつも通ったなら尚更だ。


「それ、何かがあって逃げて来たんじゃないの? ここで止まってるのはマズイと思うんだけど……」


 考えられるのは、船を襲っている場合じゃなかったという事。

 獲物を無視してでも逃げなければならなかった……つまりそれ程の敵が現れた。

 ただの憶測だけど、そうなるとこの船だって危険かもしれない。


「多分そうだろうな。しかしこのまま進んで、さっきの複数の群れと鉢合せたら終わりだ。悪いが引き返す事になる」


「しかも周辺の調査が終わらないと今後の船が出せないんだ。だからここで何人か、小舟で調査に出そうかって話してたんだよ」


「既に調査隊の要請はしたけど、それでも先行出来ていれば後が楽だからな。危険でもやる価値はある」


 私の言葉に船員達が同意……むしろそれ以上の考えまで語ってくれた。

 よく考えれば、私より彼らの方がよっぽど判断が出来る。余計な口出しだったか。


 多分これから乗客に事情を説明しにいく所だったんだろう。

 どうせ数える程度しか居ないから、後回しにして先に動いてたのかも。



「仕方ないとは言え、引き返すのは面倒だな……」


 戻ったら次の船はいつになるやら。結構困る。


 そもそも何故、隣国に渡るのに半日も船に乗るのか?

 それは危険な海域を避けて、南に大きく迂回する必要があるからだ。

 群れとやらは恐らくその海域の奴らだな。


 まぁ、だからこそ予定外の航路は無い。

 客を運ぶ仕事だから安全第一って訳だ。

 問題が起きたからと適当に進んだら、それこそ何が起きるか分からない。


 幸いにもまだ半分も進んでいないのだから、戻った方が良いのは確かだ。


「迷惑を掛けてすまない……だからこそ先んじて調査をしたいんだ。少しでも早く次の船が出せるように」


 アンタらが謝る事じゃない。

 むしろ危険を承知で今から海に出ようって言うんだから、賞賛されるべきだろう。


 そうとなれば、ここで私が採るべき行動は――


「調査……ね。ここに丁度良い奴が居るぞ。何故か人魚になってる奴が」


 私も協力しよう。これも縁というものだ。

 それに、後の事を考えるというなら手を貸した方が早い。

 じゃあ頑張ってね、と言える程に心を捨てた覚えも無いしな。


「何を言ってるんだ、子供をそんな危険な事になんて!」


「君の事は知ってる。けど実力があろうがなんだろうが、子供を送り出す訳が無いだろう!」


 しかし船員としては認めたくないらしい。

 いやまぁ、分かるよ。その意識に文句は言わないし、責める気も無い。

 でも、物事は合理的に決めるべきだ。緊急時は特にな。



「本人が良いって言ってるんだから――っ!?」



 食い下がろうとした瞬間、最悪な気配を察知してしまった。

 そういう事か……ちくしょう。

 よくよく感知してみれば、群れも向かって来てるようだ。本当に最悪だな。


「エルちゃん?」


「アリーシャ、今すぐ私を海に落とせ。――奴だ」


「――っ」


 私の反応が気になったのか、アリーシャが首を傾げる。

 説明は省略して、小声でただ一言伝えると彼女は顔を強張らせた。

 これだけで事態を理解してくれたようだ。


 気配を間違える筈も無い。エリウス……結局手を出してきたか。


 先の群れも奴の仕業だったんだろうな。

 しかし広い海に動く船。正確な誘導までは出来ず、素通りさせてしまった。

 だからもう一度、より船の近くまで追い立て中……って所か。お陰で気付けたけど。


 あの平野の戦いと同様、敵を追い立てて舞台を作ろうって訳だ。

 波乱が必要だ、みたいな事を言ってたからな。


 犠牲を厭わず舞台を作って見て楽しむ……か。

 全く理解出来ないけど、大した見送りをしてくれるじゃないか。



「待て、だからそんな事――」


「言ってる場合じゃなくなった。いいか、よく聞け!」


 海に落とせ、という言葉に反応したのか船員が声を荒げた。

 悪いな……問答してる場合じゃないんだ。


「もう一度群れが来るぞ。今度こそ襲撃されるだろう。けど見ての通り、私は船上じゃ戦えない……だから海で直接戦う。お前達は備えろ!」


 声を張り上げ、これから起こるであろう戦いを告げる。

 これはもう避けられないだろう。


 船から離れるのは心配だけど、そうする他に無い。

 むしろ率先して数を減らして船を護ろう。



「な、何を言って――」


 困惑していた船員の言葉を遮り、警鐘が響いた。

 ドタバタと一気に船が騒がしくなる。


「ドラゴンだっ!! 北に巨大な黒いドラゴン! しかも追い立てられるみたいにまた群れがこっちに来てる!」


 そして慌てた大声も届いた。

 なるほど確かに、揃って海の彼方を見てみればドラゴンが飛んでいる。

 そうか……奴は黒いドラゴンなのか。1つ情報が増えたな。


 というか見張りは相当遠くまで見てた筈……あんな目立つ奴、何故発見が遅れたんだ?

 まさか潜って……いや、水中の敵を誘導するならそうするしかないか。器用な奴だ。



 さて……説明の手間は省けたけど、代わりに大騒ぎになってしまったな。

 彼らはあのドラゴンが何なのか知らないんだから仕方ない話だけど。


 恐らく奴は直接襲ってこない。そんなの、いくら私が居たって船は沈んで殆どが死ぬ。

 それじゃ奴の望む舞台にならないだろうからな。


「分かっただろう? やるしかない」


「あぁ……すまない、頼む」


 傍に居た船員にそう言うと、彼は苦い顔をして深く頷いた。

 流石に危険が目前に迫っていれば悩む暇も無い、と判断してくれたようだ。


「アリーシャ、船は任せた。いいか、やり過ぎて船を壊すなよ?」


「わ、分かった。エルちゃんも頑張ってね」


 状況は分かったのか、アリーシャは私を落とすべく船の縁へ向かう。

 柵と言うか手摺りと言うか、そこに腰かけて剣を受け取りつつ、忠告を1つ。


 勢い余って船を攻撃してしまうのはよくある事だ。

 いくら抜けてる彼女でも船を燃やす事は無いだろうけど……まぁ上手くやってもらうしかない。


「お、おい! マジで言ってんのかよ!?」


 ずっと黙っていたルークがようやく口を開いた。

 唐突な緊急事態に焦りと困惑が見て取れる。


 しかしそれ以上に私への心配があるようだ。子供が街で1人歩いているだけで心配していた様な奴だ、見過ごせないのかもしれない。

 アリーシャが落ち着いているのは私をよく知っているからだろう。


「ルーク、お前も同じ道を往きたいって言うなら……この程度は戦ってみせろ。護れなければ死ぬぞ」


 私については安心させてやる術が無い。信じろとしか。

 だから、こっちの戦いの方で発破を掛けた。

 英雄になりたいなんて言うのならば、ここで頑張らないでどうする。


「……クソ! やってやろうじゃねぇか、チクショウ!」


 すると覚悟を決めるまで行けたらしい。

 それは良いけど、なんだか不安だ。もうちょっとだけ忠告してやろう。


「自棄になるな、冷静に迎え撃て。周りと息を合わせろ」


 船なんて限られた場所で戦うとなると、好き勝手に動いては邪魔になるだけだ。

 当然魔法を適当にぶっ放すなんて出来やしない。


 周囲を見て、息を合わせ、各個確実に打ち倒す。

 下手に焦っては良い事も無い。


「……ぐっ、それはまぁ、そうだろうけど……」


「まぁ、私がある程度減らしてやるからさ。そんなに大きな戦いにはならないよ」


「逆になんでお前はそんな……あぁクソ、いいさ。とにかくやってやる!」


 なんだか色々と思う所がありそうだけど、自棄になってたのが落ち着けたならそれで良い。

 実際そこまで戦わないだろうから焦る必要は無い。あくまで予想ではあるけど。


 敵は水棲、陸に上がれる奴は限られるからな。船に直接乗り込んでくるのは当然少なくなる。

 しかし逆に、手が出せない水中から船を攻撃されて沈む……なんて事が有り得る。


 今回は私が水中で迎撃出来るから、その少ないだろう乗り込んでくる奴を処理してくれればいい。

 ま、なんにせよ頑張れ。


「じゃあ、こっちは頼んだぞ。――行ってくる」


 忠告と激励はした、ならいつまでものんびりしていられない。

 私は言葉と共に後ろへと倒れ、海へと落ちていく。


 宙で体を捻り、頭から綺麗に着水。

 さぁ、開戦といこうか。

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