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とある竜の恋の詩  作者: 桜寝子
第2章
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第34話 出発

 ひとまず受け取った剣を置きに宿へと戻ってきた。

 別に持ち歩いても良いんだけど、推奨はされていないからな。

 必要が無いなら武器を持ち歩くな、というのが何処も暗黙の了解になっている。


 まぁ武器を引っ提げて歩いている奴がそこら中に居たら嫌だろう。

 犯罪者を咎めるのも難しくなるし、喧嘩なんかで武器を使い出すし、人が多ければ単純に邪魔で危ない。


 それに厳密に取り締まるまではせずとも、騎士個人の裁量次第で取り調べは可能だ。

 そんなのはお互いに余計な手間になる。


 だから一旦戻る必要があったし、ついでに昨日の件をアリーシャに話すつもりだ。

 一晩経てば私も落ち着いて考えられたからな。


「うへへ……」


 うん。剣を眺めてる場合じゃないんだけど……もうちょっと堪能させてくれ。

 今ここにはアリーシャしか居ない。つまりさっきより顔を緩ませても気にしなくていいのだ。


 あぁ……本当に素晴らしい剣だな……


「……恍惚としてる」


 呆れと言うか困惑に近いツッコミを頂いた。

 逆になんでお前は普段通りなんだ。充分使い慣れた頃ならともかく、手に入れた直後だぞ。

 そんな黄金に輝く剣を持っていて、どうして眺めないでいられるんだ。


 って、そうじゃない。気分を切り替えなければ。

 いつまでもうっとりしてたって駄目なのは分かってる。



「コホンッ……さて、じゃあちょっと話したい事があるから聞いてくれ。真面目な話だ」


「温度差」


 咳払いをして、キリッと真剣な顔に変えて向き直った。

 真面目な話と言っただろう、もうツッコミは要らないぞ。


 という事で、昨日の奴に関する話を伝える。



 唐突に現れた私の同類。

 とにかく意味不明で、何をしてくるか読めない危険な奴。

 どうやらこの国の王家、もしくはそれに近い所に潜んでいるらしい。

 それは建国当時からかもしれない。

 何故か私達を敵視しているっぽいが、同時に見ていたくもあり、手を出すのを我慢している。

 それでも気分で襲ってきそうな程に不安定。

 曰く、さっさと国を出て行け。

 国に執着があって離れる気が無いのか、他国までは手が届かないらしい。

 遥か昔の御伽噺、勇者と魔王の物語の勇者かもしれない。

 私を殺したドラゴンはその魔王。


 羅列するならこんな感じか。




「――私が居ない間に、そんな事があったんだね」


 これはあくまで私なりに纏めた事。

 結局の所は推測が多いけど、それでもこれで情報の共有は出来ただろう。

 ともかく急な出発に納得してもらわなければ。


「あぁ。今日これから準備を済ませれば、明日には出発出来る。それで良いか?」


「うん、流石にエルちゃんが本気で警戒する程の人じゃ仕方ないよ」


 若干の申し訳無さがあったけど、アリーシャは快諾してくれた。

 良かった、それならこのまま話を進めよう。



「よし。じゃあ今後の予定だけど、隣のウィンダム王国へ渡ろうと思う。元から次の目的地はクローゼ港だったから船を変えるだけで良い」


 本来は王都の更に北へ向かう筈だった。

 ただし陸路は大きな山脈で阻まれている為、東の港から海に出てグルリと迂回するという予定だったのだ。


 あそこは相当な準備が必要になる険しい山で、整備も進んでいないから敵も多い。

 アリーシャの実力じゃ越えるのはかなり厳しいと考えていたからな。

 一気に成長した今の彼女なら多分大丈夫かもしれないけど。


「うんうん。私はそれで全然構わないよ。何か特別な準備って必要?」


「いや、無いかな。半日もあれば海を渡れるし、ウィンダムはこっちと環境は大して変わらないから」


 港までは街道を進むだけだし、本当に大した準備は要らない。

 船旅と言う程の距離でも無いし、食料だって港で買える。


「りょーかい。じゃあ最低限の買い出しで大丈夫なんだね」


「そういう事だ」


 行こうと思えばすぐにでも出発出来る。

 万が一何かが起きたとしても逃げられたからこそ、奴の事を一旦忘れてしまえたのだ。

 剣が楽しみだっただけじゃないんだからな。






 明日出発すると宿に伝え、そのまま買い出しに。

 そして、それが終わっても時間が余ったので騎士団本部に来てみた。


「だーんーちょー!」


 そして叫んだ。

 すると何時ぞやの様にゾロゾロと騎士が出てくる。

 なんか面白いなこれ。


 そしてやっぱり中へ通され、レイナードが迎えてくれた。


「普通に訪ねろ……」


 ただし今度は苦笑ではなく、頭を抱えていた。

 いやぁ、悪いね。


 前回同様、彼は仕事中だったらしい。

 ここに居てくれるだけ良かった。何処かに出ていたら会えず仕舞いで出発していただろう。



「全く……で、急にどうした?」


「挨拶しておこうかと思って。明日出発するんだ」


 とりあえず理由の説明を。

 あれだけの試合をした仲だし、時間があるなら挨拶くらいはな。


「なんだ、そうだったのか。残念だな、お前達とはゆっくり話したかったんだが……」


「それはまぁ……またいつか機会があったらね」


 社交辞令とかじゃなく、本当にそうしたくて言ってたんだな。

 私も彼を気に入ってるし、そんな機会があるなら全然構わないんだけど……


 いつこの国に戻って来れるのかも分からないのが残念だ。

 まぁもしその時が来たなら、それまでの旅の話も交えて楽しめるだろう。


「次は何処に行くんだ?」


「ウィンダムに渡ろうと思ってる」


「ほう、良いじゃないか。確かに近いもんな。楽しんでこいよ」


 ――と、そんな当たり障りのない会話を少しだけして、私達は本部を後にした。

 向こうは仕事中だからな。ただの挨拶で時間を取らせるのも悪いだろう。



 そして会話をしていてふと思った。

 彼はあの男――恐らくエリウスだろうあのクソ野郎を知っているのか?

 どちらにせよ治安維持という点で見れば、あんな危険な奴については警告しておくべきなのでは?


 しかし思っただけで、言う事はしなかった。

 やはり余計な混乱を招くだけで終わるだろうからな。

 そもそも対処出来る相手じゃないし。


 なにより、私個人としては敵だけど国としては守護者の様な物……という可能性がある。

 なんせ推測通りなら、奴が居た事で結果的に今の長い平和があるって事になるんだ。

 下手に騒ぎ立てるのは良くないかもしれない。

 全く持って厄介な奴だ。



 しかし……本部を出る時になんか見覚えのある赤い頭が見えたんだけど……

 アイツは一体何をしているんだ……?






 とまぁ、そうして1日が終わり翌日。出発の朝。

 何故か宿の人達に見送られ、王都の東門へ。


 さてさて、私達の馬は何処だ?

 来た時に馬を預けたのは南門だったから、先んじてこの東門に移動してもらっている。


 門から門への移動だって、個人が勝手に街中を走らせていい訳じゃないのだ。

 同じ門から出るか、もしくはこうして移動してもらう必要がある。



「お、居た居た。よし、さっさと荷物を載せようか」


「うん」


 揃って馬に荷物を載せ始めるが……なんか随分増えたな。

 何をそんなに買ったんだっけ。覚えが無い。


「アリーシャ、私の荷物が増えてるぞ」


「えー知らなーい」


 こっそり何を増やしたんだ。

 元が最低限過ぎる荷物だったから増えた所で問題は無いけども。

 載せてようやく気付いた私が間抜けだったな。



「まぁいい、行こうか」


 増えた荷物はとりあえず後にしよう。出発だ。


 と、王都を背に私達は揃って駆け出した。


 そこまで長期間じゃなかったんだけど、流石王都ってくらいに色々あったな。

 でも街だけじゃない。山も森も海も、行けば何かがある。

 それが旅だ。

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