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とある竜の恋の詩  作者: 桜寝子
第2章
34/41

第33話 お待ちかね

 結局夜になっても考えは纏まらなかった。

 当然アリーシャに話すべきなんだけど、まずは自分の中でしっかり纏めないとまともに話せる気がしない。

 こんなの無駄に混乱させるだけだ。


 そもそも奴の言っていた事が全て真実だとも決まっていない。

 しかし嘘を付く必要があるのかと言うと、それも無さそうなのが困る。


 どっちにしろ、全く信用ならない上に何をしでかすかも分からない危険な奴ってのは確かだろう。



 そして、そんな事は関係無しに時間は進むものだ。

 明日はついに剣の受け取りになる。こんな気分じゃ、せっかくの楽しみが台無しだ。

 だから一旦、奴の事は置いておこう。

 早々に奴が動いたとしても対応は出来る。最低限アリーシャから離れなければ大丈夫だろう。


 そう考えてその日は早々に眠りに付いた。色々疲れたよ……


 しかし、剣を受け取るのが楽しみ過ぎてさっさと寝る、という風に見えたらしくアリーシャに笑われた。

 うん、もうそういう事にしておこう。


 やっぱりまだ話さなくて良かった。普段通りでいてくれるから癒される。






 そして翌日、オックスの爺さんを訊ねて鍛冶屋へ。


「来たぞー、出来てるかー?」


 中に入るなり声を張って呼び掛ける。

 とりあえず支払い用に持ってきた金貨の山はその辺にポイ。


「ふん……こっちにある。確認しろ」


 すると待っていたのか、オックスはすぐに顔を出した。

 そして私達を一瞥すると、そのまま奥へと歩いて行く。


 勿論それに続いて私達も歩く。

 さてさて……どんな剣かな。



「これだ。抜いてみろ」


 抜けと言いながら、2本の内短い方を私に。長い方をアリーシャへ渡す。

 受け取って柄を握った瞬間、思った。


 これはヤバイ。


 吸い付く様だ。まるで体の一部の様に感じる。

 いや、そういえば本当に身体の一部だったわ。


「「う……わぁ……」」


 そして同時に抜いた。感嘆の声も同時だった。


 私の剣は片刃。若干の湾曲があり、一般的な剣より短い。

 恐らくは体格に合わせたのだろう。成長を見越したのかそれでも私にはちょっとだけ大きい。

 ちゃんと考えてくれたのはありがたいけど……私の成長は遅いから、多分あまり意味は無い。残念。


 真っ白に輝く剣身は柄と一体になっている。

 まるで牙からそのまま削り出したかの様だ。


 ガードらしい物は殆ど無く、全体的に簡素なデザインに見える。

 しかしよく見てみれば装飾も入っているし、綺麗に纏まっている。



 対しアリーシャの剣は両刃。真っ直ぐ伸びた剣身は黄金。こっちは爪だな。

 極一般的な長さだけど、今まで使っていたのと比べると一回り細くなった。


 こちらも同じ様な構造の柄になっていて、ガードもやはり小さい。

 ただし流石に派手だと考えたのか、黄金に輝くのは剣身だけだ。



 どっちも一目見ただけで、とんでもない剣だと分かってしまう様な逸品。業物。

 全く、惚れ惚れするな。最高だ。


 しかし私達に合わせた剣とは言っていたけど、イメージまで合わせたのか。

 そのまま髪の色でもあるし、それ自体は全然良いんだけど……あの小っ恥ずかしい二つ名を思い出してしまう。ムズムズするなぁ、もう。




「どうだ、アリーシャ。感想は?」


「すごい」


 隣へと声を掛けてみれば、たった一言呆けた声が返ってきた。

 そこそこ良い程度の剣から、いきなりこんなとんでもない剣に変わればそうもなるか。


 後は使用感だけど……それは追々だな。

 というか、振るまでもなく良いと分かる。


「はっ……子供らしい顔も出来るじゃないか」


 オックスが私を見てそんな事を呟いた。

 え、どんな顔してたんだ私。


 そう思ってペタリと顔に触れるが分からない。

 いやまぁ、笑ってたんだろうけどな。仕方ないじゃん。


「説明する事は特に無い。そう簡単には壊れんだろうから、好きに使え」


 さいですか。

 まぁ精々が魔力に馴染んで使いやすくなるぞって事くらいか。

 それは既に聞いてるしな。


 というか多分私には関係無い。だってこれ私自身だし。


「さて、じゃあ金額だが……」


 早いな。もうちょっと浸らせてくれても良いのに。

 一応、ルークに50万投げただけで手付かずにしてある賞金700万コールをそのまま持ってきた。

 これだけあればまず足りないなんて事は――


「合計で800万コールだ」


「「ふぁっ!?」」


 足りねぇ!? そんな馬鹿な!?

 賞金は取っとけとか言ってたじゃん! 賞金以上じゃん!

 確かに以下とは言ってないけど!


「え、ちょっ、えっ? そんなに……?」


 そんな大金になるなら先に参考価格くらいさぁ……

 どうしよう。一応残りの金を出せば足りるけど、そうすると路銀が……

 また稼げば良い話ではあるけど、出来れば早急に出発したいんだ。


「そんなに、だ。この訳の分からん素材の加工がどれ程大変だったか。殆どの道具が壊れた」


 えぇ……?

 私の爪と牙、硬過ぎ……?


「とんでもない労力と、無駄に壊れた道具の補填。その分は請求させてもらう」


「うぅ……仕方ない。それだけの価値があるって事だ、払おう」


「ほへぇ……」


 アリーシャが呆けたまま帰って来ない。魂抜けてるか?

 でも分かるぞ。あれだけ必死に働いたんだもんな。

 その分まで一気に減るとなるとショックではある。


 追加であと1日、何かして稼ごう。

 何かしらの討伐依頼とかをサクッとやったらなんとかなるかもしれない。



「くくっ……冗談だ。流石に旅人相手にそこまで払わせない」


「え、冗談?」


 アリーシャはひとまず置いといて、私が覚悟を決めた所でオックスが笑った。

 おい。冗談なんて言う奴だったか、お前?

 分かりづらいんだよ。


「労力と道具の分は請求する。しかし見た事も無い素材を加工させてもらった事と、それで最高傑作を更新出来た事。そうして楽しませてもらった分を引いて600万コールだ」


 おぉ……結局最初の予想通りの金額になった。

 ありがたい。


「いいんですか? 200万コールも引いちゃって……」


 あ、アリーシャが帰ってきた。

 嬉しいけど申し訳無い、って思ってるのが顔に出てるな。


 大丈夫だよ、コイツはそういう奴だから。

 何よりも自分が満足出来る一振りを鍛え上げる。それが一番の目的で、販売はついでとか言う奴だ。

 勿論それに見合った価格を付けるからこそ、滅茶苦茶高い武器ばかりなんだけど。


「構わん。この歳でこんな剣を二振りも贈れたんだ、良い幕引きになった。礼を言いたいくらいだ」


「え、もう引退?」


「ああ。精々あと数年で終わりだ。まだまだやれるつもりではあるが、今の内に託していかなきゃならん」


 幕引きなんて言うから驚いてしまった。

 本当に、それだけの時間が経ったんだな……


 私はエルヴァンとして何か託せたんだろうか。

 ある意味アリーシャに託したと言えなくもない……か?


「そうか……こんな凄い剣を打てる人が引退ってのは、なんだか寂しいな」


「時代も職人も変わるもんだ。そんな事はいいから、さっさと600万置いてけ」


 なんにせよ寂しい話だ。もう世話になる事も無いんだろう。

 せっかくだからもう少し話を、と思ったけど打ち切られた。


 あのさ、もうちょっとこう会話しようとか無いのか?

 アンタの性格は変わらないな。


「はいはい……」


 苦笑しながら、お金を用意する為に店の入口へ戻る。

 そうして賞金から100万抜いて、600万コールを残した袋をそのまま机にドン。



「――よし、ピッタリだな」


 相変わらず世間話さえ無く、淡々と確認して終わり。


「さて、用が済んだらさっさと帰れ。俺は休む。この10日間、とんでもない大仕事だったんでな」


 客を追い出すどころか、嫌味を言うってどうなんだ……?

 本当に変わらないジジイだな。


 ていうか丸々10日掛かったのか。そりゃまぁ……お疲れ。



「分かったよ……あ、そうだ」


 言われるがまま店を出ようとしたが、大切な事を忘れていた。

 これだけは言っておかないとな。


「エルヴァンから伝言だ。アンタの剣は役目を終えた。長く助けてくれた最高の剣だった。ありがとう」


「……ふん」


 本気で申し訳無く思う。あれほどの剣を失ったのは惜しい。

 だけど伝えるのは礼だけで良いだろう。


 言葉は返ってこず、ただ鼻を鳴らしただけだった。

 けど私には見えた。


「あと、私達からも。ありがとう。コイツも本当に最高の剣だ」


「当然だ。精々大事にする事だな」


「それこそ、当然」


 ついでで言うべき軽い言葉ではないけど、これも言わないとな。

 本当にありがとう。


 やっぱり余計な言葉が返ってきた。

 でもやっぱり、その口元は笑っていた。

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