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とある竜の恋の詩  作者: 桜寝子
第2章
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第31話 忍ぶ影 1

 女は買い物が長い。そんな言葉は私も聞いた事がある。

 実際長い。アリーシャも例に漏れず長い。


 彼女はまだ色々と服を眺めている。今度は私じゃなく自分の、だそうだ。

 買うのかどうかはともかく、それが楽しいらしい。


 散々着せ替え人形にされて辟易した私は、申し訳無いけど店の外で待たせて貰う事にした。

 流石王都と言うべきか、品揃えが良い。その分とんでもない数を試着させられて本当に疲れた。

 楽しかったけども、それはそれ。


 というか店からしたらかなり迷惑なんじゃなかろうか。良いのか?

 何も言われなかったし、なんなら笑顔の店員に遠くから見守られていたけど。仕事しろ。





「――っ、なんだ……?」


 店先でボケーっと草臥れていると、嫌な感覚が身体を襲った。

 チリチリと焼ける様な……そして粘着く様な殺気。


 これだけ目立てば、そういう意味で狙う奴も現れるか。昔も散々居たしな。


 そう考えて、気配の元である傍の路地へ向かう。

 あからさまだから誘われてるんだろう。

 けどいくらでも対処出来るから構わない。


 むしろアリーシャの目が無い今の内に始末しておける……いや、流石にこんな所でそれは後が面倒か。

 手間だけど一旦捕らえて、情報を吐かせて、夜にでも街の外で――


「……居ない」


 そんな事を考えながら路地に入ったが、さっきまでの気配が嘘の様だ。

 誘い出して隠れて、私が焦れて戻ろうとした所を不意打ち……か?


 残念だけどそんなのは通用しない。

 私なら人外の感知能力で魔力を――



「随分と楽しそうだったじゃないか。エルヴァン」



「――っ!?」


 瞬間、背後から短剣が襲い来る。

 咄嗟に振り向き手で掴むが、掌に深く食い込み血が飛んだ。

 痛い。久方振りの痛みだ。


 魔力を感知する直前だったとは言え、それでも私が気付けなかった。

 更には、警戒して障壁を張っていたのに突破された。

 この魔力、この気配……間違いない。


 全身がゾワリと粟立つ。

 まさかこんな早く、しかも街中で同類と出逢えるとはな。

 いや、向こうから来てくれただけだが。


 しかし武器が無いのはマズイか……?

 そもそもこんな奴と街中で戦う事自体がマズイ。どうする……?


「誰だ」


「名乗る気は無いかな。いくら貴重な同類と言っても、秘密にしたい事はある」


 短剣を放さない様に力を籠めつつ訊ねる。

 真っ黒な外套を纏っていて顔も姿も分からないが、伸ばされた腕と背恰好、声からして若い男だ。


 私をエルヴァンと呼んだ事から、色々と知っていると見ていいだろう。

 けど楽しそうってなんだ。まさかずっと見てたのか?


「なら目的は」


「ただの挨拶さ。中々可愛らしい姿になったんだな、驚いたよ。ドレスも似合ってた」


 本当に見てたらしい。

 なんか違う意味で、もう一度全身が粟立った。


「なんだ変態か。女の子の着替えを覗くとはね……」


「待て。そこまで覗いてない、違うぞ。お前みたいなちんちくりんに興味なんて無い」


「それはそれで失礼な奴だな。本気で殴るぞ」


 どうしてくれようかと睨みつけると、男は若干慌てた様に口を開いた。

 ちんちくりんってなんだコラ。事実だけどムカつくから殴らせろ。


「それは受けたくないなぁ。殴られた所が弾け飛びそうだ」


 すると短剣から手を放してお道化た。

 私に傷を負わせるだけの力があって、一体何を言ってるんだか。


 ていうか武器を手放すのかよ。

 さっきの一瞬だけで、今はもう全く敵意が無い。なんなんだ。


「チッ……調子が狂うな」


 その癖、返してくれとばかりに手を差し出していたから軽く投げ返した。


 あの短剣……近衛の装備の1つだな。柄に王家の紋章があったし間違いないだろう。

 王家の紋章を刻んだ武器は近衛にしか持つ事を許されていないし、そこらに流通する物じゃない。

 何故そんな物を……普段は兵に紛れてるのか、はたまた――


 まぁ今はいいか。とにかくコイツが何をしたいのか、だ。


「で、迷惑な挨拶が済んだら次は何だ?」


「そりゃあ、世間話だろう。いやー……消息不明だったとは言え、まさか君が早々に生まれ変わってるとはね。何があった?」


 普通に会話を続けてきた。掴み所の無い奴だな。

 多分わざとそう振舞ってるんだろうけど、やりづらい。


「寝ぼけた先輩に焼き殺されたよ」


「酷い先輩も居たもんだな」


 笑い事じゃない。いや笑うしかないけどさ。


「あぁ、そうだ……そいつが変身を教えてくれたんだけど、他は名前さえ教えてくれなくてな。知ってるか? 千年くらい生きてるらしい、赤くてデカいドラゴンなんだけど……」


「――へぇ。なんだアイツだったのか、珍しい」


 言われた通りに世間話をしてやったが……なんだ、この反応。

 一瞬やたらと鋭い目になった。


「知ってるどころか、何か深い関わりがありそうだな」


「あるさ。同じ時代に生きて共に生まれ変わった仲だよ。大体1300年前ってとこかな」


「なんだと?」


 聞いてみればアッサリ答えてくれた。


「ついでに言うなら、君も使ってる変身……その魔法を作り上げたのは俺と彼だ」


「……待て待て、一気にデカい情報を言うな」


 しかも追加された。

 中々に衝撃的な事をポンポン言われても困る。


「まぁ詳しくはあんまり語ってあげないけどね。で、彼は元気だったかい?」


 勝手に話を進めていく。クソ、思考が追い付かない。

 とりあえず会話を続けるしかないか。


「元気……は元気だろうけど。無気力で寝てばかりだったぞ。5年も傍に居たのに、私になんて碌に興味も示さなかった」


「そうか……」


 私が見た限りの印象は、簡単に言えばそれだけだ。

 それを聞いた男は心配そうな声を洩らした。

 共に生まれ変わった、って……結局どんな関係なんだ?


「出来ればアイツは殺したくないんだけどな……」


 しかし一転、今度は残念そうにそんな物騒な事を呟いた。

 駄目だ、コイツはなんだか不安定でよく分からない。

 そもそも殺せるのか?


「私達って不死に近いんじゃ……」


「近いだけだ。生きてりゃいつか死ぬし、殺す方法だってあるさ」


 そんな私の疑問はサラリと答えられた。

 薄く笑ってこちらを見てくる目が酷く恐ろしい。


 首を刎ねても再生するくらいに死ねない、とアイツは言ってたが……それでも殺せる方法か。

 私にはすぐには思いつかない。


「早くに死ねて良かったな、エルヴァン。もし長く生きて、絶望して自害とかで生まれ変わってたら俺が殺してたかもよ?」


 さっきからどんどん話が進んでいくな。

 語りたくて仕方ないのか? お前も話下手か? そっちの意味でも同類だったのか。


 というかそれ、なんか同じ様な事を言われたぞ。


「お前が殺したのはつまりそういう奴らだった、って事か?」


「その通り。壊れたまま生まれ変わったり、ただ時間が経ったりして、理性も無く暴れるだけになった獣だ。そんなの何体も居たら世界が滅びかねない」


 なるほどね……じゃあアイツもそういう意味で言ってたのかもしれないな。

 世界が滅ぶ。凄い話だけど、確かに有り得る。伝わってる御伽噺がそうだしな。


 そもそもコイツはその御伽噺の当事者だろう。

 大体1300年とか言ってたから、確実に旧時代から生きてる。

 ていうかアイツは適当言い過ぎだろ。300年が誤差か。


「じゃあ、千年前の御伽噺のドラゴン達ってのはお前達が始末したのか」


「……あー、まぁそうだね。酷い戦いだった……いや、戦いとも呼べなかったかも。彼も一緒だった」


 聞けば話してくれるかも、と思って聞いてみると、やっぱり答えてくれた。


 アイツもコイツも、影で世界を護ってたのか。

 で、そんなアイツも壊れかけ……と。


 なんとも言えない。辛いとか悲しいとか、簡単に言える話じゃない。




「まぁでも、その前に人類を壊滅させる方が大変だったな。全てを壊すなんて俺達でも簡単じゃないんだよ」



「……は?」


 今なんて言った?

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