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とある竜の恋の詩  作者: 桜寝子
第1章
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第3話 成り行き任せの人生

 街へ向かう間、黙ってるのも気まずいから適当に会話中。


「あ、名前ってあるんですか?」


「エルヴァ……あー……エルヴァーナだ」


 ふと名前を聞かれて、思わず生前の名前を言う所だった。

 適当に誤魔化したけどもうこれでいいか。


「あのエルヴァンに因んだ名前だったりします?」


「ん……昔逢った時に名前を貰ってね」


 英雄とか呼ばれて広く知られているからか、やっぱり突っ込まれてしまった。

 まぁそれっぽい事を言っておけばいいだろう。


「やっぱり色んな事やってたんですねぇ、彼」


「そう、色んな所で色んな事してるんだよ、あいつ」


 今後も困ったらとりあえず理由に使おう。死んだ本人だから構わないし。


「でも10年くらい消息不明らしいですよ」


「安息の地でも見つけたんだろう。放っておいてやれ」


 目の前に居るけどね。

 深堀りするとボロが出そうだから、ひとまず打ち切るか。


「はぁ……?」


 よく分かってない様な声を洩らして、次は自己紹介を始めた。


 少女の名はアリーシャと言うらしい。

 腰程の綺麗な金髪をふわっと広げ、藍色の瞳はパチクリと子供らしさが残ってる。


「エルちゃんって呼んでいいですか?」


「……まぁいいけど」


 さっきビビってたドラゴンの姿を忘れたんだろうか。良くも悪くも距離の近い子だ。


「ところで、助けた代わりに少し頼みがある」


「はて。なんでしょう?」


 なんにせよこの子を利用させてもらおう。


「俺……私は人に紛れて、好き放題生きてみようと思ってね。人として保護して貰えないか?」


「保護。まぁ街に行けばどうにかなると思いますけど……」


「素性とかは適当にでっちあげるから。絶対に私がドラゴンだとか言わないように……言ったら食うよ」


「は、はい……頑張ります……」


 ほんと頼むよ。色々と。






 で、そのまま歩き続けて街へ到着。

 ここはルベールか……昔来た事があったな。大きな街だから紛れるには良いかもしれない。


 街の入口では結局多少の騒ぎが起きた。

 はぐれたお馬鹿なハンターが謎の子供を連れて戻ってきた訳だからな。


 事情を聴く為に揃って連れて行かれてしまったが、逆に話を通しやすいと前向きに捉えるか。



 連れて行かれた先はアリーシャの所属するハンターギルド。


 ハンターは外敵から街を護る者で、ギルドとは職業毎の集団の事だ。

 同じ職でもギルドはいくつか別れるけど、あくまでその街での物でしかない。例外は流通に関わるギルドくらいか。



 さておき、しばらく待っていると団長らしきおっさんが来た。


「説教は後回しだ。アリーシャ、まずは報告を」


 そうして厳めしい表情で口を開く。それだけで彼女はタジタジだ。


「は、ひゃいっ……えっと……隊からはぐれてしまって、戦ったり追われたりしてました」


「連絡用の魔道具も失くしてたな」


「でもオーガ3体は倒せたんですよ!」


「それで魔力が尽きて逃げ回ってた」


「で、でも結果的にこうして無傷で帰ってきました!」


「私が居なきゃ死んでたけどね」


「あの……ちょっと、エルちゃん?」


「なんだ。本当の事じゃないか」


 説明に補足を入れてあげてると不満そうに見てきた。

 こういうのは誤魔化しは無しだ。ちゃんと全部言いなさい。


「あー……この子についても聞きたいんだが?」


 おっさんが私を見る。

 さて、じゃあそれっぽい自己紹介といこうか。


「私はエルヴァーナ。アリーシャを助けて護衛してきた」


「……人を護るべきハンターでありながら、子供に護られたのか?」


 まず名乗るとおっさんは彼女に視線を戻した。随分と厳しい目だ。


「そこは彼女を責めないであげてほしいな。私はただの子供じゃないんでね」


「何? ……っ!?」


 人ですら無い私の所為で責められるのは可哀想だ。

 それに私自身もナメられたくは無い。


 団長ともなれば相応の実力はある。

 軽く魔力で威圧してやればよく分かってくれたらしい。


「っ……その力、只者じゃないな。君は一体……?」


 当然、異常だと察して警戒される事になる。

 けど使い勝手の良い理由があるから問題無い。


「私は10歳だけど、あのエルヴァンの……と言えば分かる?」


「まさか……娘が居たのか。消息を絶ったのも10年前……彼は今何処に?」


「さあ? だから私は放浪してるんだよ」


「もしや父親を追って……? なんてこった」


 それっぽい事を言っておけば勝手に納得してくれるから楽だ。

 髪と眼が生前と同じ色で助かったな。


「でもちょっとゆっくりしたくてさ。助けた代わりに保護してってアリーシャに頼んだんだ」


「なるほど……よし、必要な金は出そう。アリーシャ、この子と暮らせ」


「うぇっ!? 私ですか!?」


 いきなり話が進んだ。軽いな。

 勝手に決めていいのかな。


「孤児院の紹介とかじゃないんだ? 家族の承諾は?」


「コイツはその孤児院の出だ。女同士だし、多少でも面識のある者と居た方が楽だろう」


「そういう事ね。なら私は何も問題無いよ」


 ドラゴンだとかの秘密を知る彼女となら確かに気が楽だ。

 それに退屈しなさそうな性格だしね。


「私の問題は? あれ? もう決まり?」


 うん。

 団長命令だし仕方ない。受け入れてくれ。






 それから数十分後……

 後回しにされたお説教を横で聞いた後、アリーシャの家へ向かう事になった。

 今日はもう帰って私の面倒を見ろって事らしい。


 かなりこじんまりしてるけどちゃんとした家だ。

 孤児院出身って事でギルドが空いている家を用意してくれたんだとか。


 その家主は未だにぶつくさ言ってるけど、嫌とは言ってないから大丈夫だろう。


「くぁー……なんか疲れたな。もう寝ていい?」


「まだ夕方にもなってないですけど……」


「ドラゴンは寝るもんだよ」


 知らんけど。

 でもアイツもひたすら寝てばかりだったし、そんなもんだろう。


「はぁ……? まぁ良いですけど、ベッドの用意なんて無いですよ?」


「じゃあ借りようかな」


「え? いや、それ私のベッド……え?」


 んぉー……久々のベッドは気持ち良いなぁ……


「えぇー……私はどうすれば……?」


 困惑の声は聞き流す。

 まぁとにかく、これからよろしくね。

 おやすみー……

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