第28話 彼の決意
「せめて言わせてくれよ! 色々言わせてくれないなお前!」
「なんで態々連れて行かなきゃならないんだ、やだよ」
面白い奴だけど、それは出来ない。
そんなのは四六時中一緒に居る事になる。
まだ知り合ってばかりで何の親交も無い男と旅はな……アリーシャも居るし許さん。
いやまぁそれは3割くらい冗談だけど、私達には気軽に明かせない秘密がいくつもあるんだ。
どうやっても隠し続けるのは無理だろう。
そして理由が理由だけに、断るにも嘘を付かなきゃならない。
考えるのが面倒だから『やだ』と言い続けるけど。
「理由とかちょっとは聞いてくれ……」
「そんなに言いたいなら聞いてやろう。聞くだけな」
しょんぼりしているルークから、とりあえずそう考えた理由だけ聞いてやる事にする。
実際、急にそんな事を言い出すなんて思わなかったしな。
さてさて、何を考えたのやら……
「俺はお前らの試合を見てた。その……決勝の会話とかも、聞いてた」
「え、早々に連行されてっただろう。なんで見てるんだ?」
「それが、準決勝の前に団長さんに連れ戻されたんだ。本当のエルヴァンの子を見てみろ、って。丸坊主のまま……」
何してるんだ団長。
かなり近くじゃないと会話までは聞き取れないし、一般の観客席じゃないな。
しかしそんなに早く刈られてたのか……そういえば参加者の席に知らない坊主頭があった気がする。
「とにかく、まぁ……見てたんだ。それで色々考えてた」
早速私が口を挟んでしまったから話が少し逸れたな。
すまん、続けてくれ。
「俺だってあの人と同じ道を往きたい。その為に子供の頃から鍛えて、なんとか旅をしてるんだ。英雄なんて目指すものじゃないって言われちゃったけど……それで諦められる程軽い気持ちじゃない」
まぁ、な。きっとずっと努力してきたんだろうって事は流石に分かる。
レイナードに甚振られてたから実力はよく分からず仕舞いだったけど、それでも弱くは無いし。
ただ、私は諦めろとは言ってない。
英雄になる、エルヴァンの様に人を救う。それは似てる様で違う。
憧れが先に立って、認められたいと思ってしまっている……そう感じたから忠告したまでだ。
同じ道を往きたいなら往けば良い。
それは止めないし、なんなら応援してやるのも吝かではない。
だって私達も往くと決めたんだ。それをどうして否定出来ると言うのか。
「そりゃあ、あの人の真似じゃなくて、何処かで俺の答えを出さなきゃならないって分かってた。けど俺は……えっと……アリーシャちゃんみたいに、道の先とかなんて考えもしなかった」
「ちゃんって言うな」
「ごめん」
馴れ馴れしいぞ。ってまた思わず口を挟んじゃったじゃないか。
まぁいい、続けて。
「とにかく……悔しかった。実力も、意識も、何もかも……2人の足元にも及ばない。今まで俺は何をしてきたんだろうって思っちまった。けど、追い付きたいとも思った」
よくある絶望だ。そんな奴はいくらでも見てきた。
高すぎる壁を前にして、目が曇り、振り返った自分の道さえ見えなくなる。
けどコイツはそこで立ち止まらない。
進もうと足掻く強さがある。
「だから考えた。考えて、俺も道の先へ行きたいと思った。あの人が目指した道の先にある、俺だけのモノを見つけたい!」
自分だけのモノ、か。
そうだよな……決まった何かじゃない。人によって違うモノ、なんだろうな。
悔しいがその言葉だけは、ちょっとだけ私に響いたぞ。
「今の俺じゃ何も足りない……だけど止まりたくない。だから、同じ道を往くお前達と一緒なら、進める気がするんだ」
「なんだ、今度は私達の真似か? 道に迷ったからって、他人を勝手に道標にするな。とんでもない所に迷い込むぞ」
少し、意地悪をしたくなった。
揶揄うとかじゃない、ただ確かめてみたい。
だからわざと厳しい事を言う。
気付いたら地獄に居る……そんな可能性が無い訳じゃないんだ。
「違う……とは言えない。けどそれがなんだ! 思い知ったからって、迷ったからって、立ち止まってちゃ……俺を救ってくれたあの人に顔向け出来ねぇ!」
今まさに向けてるけど……良い顔してるじゃないか。
必死に悩んでそれでも進もうとしてる奴を軽蔑なんてしないぞ。
「まぁ……よく分かんないけど、熱意は分かった。ちょっとお前が気に入ったよ」
見てみたい。あくまで人間の範疇の彼が、どこまでその道を往けるのか。
飛び抜けた力を持たず、どうやって往くのか。
なんら異常でもない、普通の人間だったらどう変わるのか。
きっと苦しいなんてもんじゃないだろう。だけど……コイツは挫けない。
折れても、潰れても、それでもいつか何かを道標に走り出す。そんな気がする。
それでももしかしたら、道半ばで途絶えるかもしれない。
だけど、そうして歩いてきた道はきっと素晴らしい物になる。
「っ……じゃあ!?」
「でもそれはそれ、やっぱりヤダ」
「なっ……なんでだ!?」
私が好意的な言葉を返したからか、ルークはパッと顔を明るくした。
でも悪いけど、結局お断りだ。
だって秘密を明かせなきゃ無理だもの。
「そもそも、こんな美少女2人の旅に混ぜろって……ちょっとなぁ」
「それはっ……確かに問題無いとは言えないけど……」
大有りだろうがよ。
そういう面で警戒される事は考えなかったのか?
せめて滞在期間で親交を深めてから、とか考えなかったのか?
元男の私はともかく、アリーシャの身に余計な危険は近づかせないぞ。
「わぉ、美少女って言われちゃった」
お前はお前で何喜んでるんだ。
どう見たってお前も充分可愛い方で――いやそんな事はどうでもいいんだ。
「コホンッ……別に一緒じゃなくてもいいだろ。私達の後ろをお前なりに歩いて来い。それでいつか、私達に並べる様になれたら……そしたら誘ってやるよ」
私が秘密を明かしていいと思えるだけの信頼を得たら良いよ。それまでは1人で頑張れ。
という様な事を、自然と笑顔で伝えた。
コイツがどう歩いて行くのか、楽しみだ。
「っ……言ったな! 追い掛けるからな! 見てろよチクショー!」
すると悔しそうな、嬉しそうな、決意した様な、感情ごちゃ混ぜの顔で騒がしく走って行った。
頑張れ頑張れ。具体的に何をどう見るのかなんて考えてないけどな。
なんなら認める基準も、ましてや答えも無い。
それでも足掻いて足掻いて、直向きに進むんだろうよ。
というか、結局本当に聞くだけだったな。もっと色々言ってやった方が良かったのかもしれないが……
口出ししまくるのもなんか違う気がする。
それに、アイツなら自分で考えて行けるだろう。エルヴァンを理解しようとしたように、な。
しかし美少女2人を追い掛ける宣言か……アレはアレでアウトだろ。




