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とある竜の恋の詩  作者: 桜寝子
第2章
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第27話 ひとまず日常へ

「エルちゃん、口開けて」


「は? あー……」


 鍛冶屋を後にして歩き始めると、アリーシャがそんなよく分からない事を言い出した。

 まぁ、分からないが開けろと言うなら開けてやろう。


「……生えてる」


 何が?


「私に口開けさせてどうしたいんだ……」


 なんで覗き込んだ。

 勿論綺麗にしてるつもりだけど、それでもちょっとだけ恥ずかしいぞ。


「いや……だってさっきの、牙でしょ?」


「そんなもんとっくに再生してるよ」


 その確認がしたかったのか。

 そもそも変身してる姿だし、歯の数も違うから確認にならないぞ。


「それなら良いけど……大丈夫? 痛くなかった?」


「心配するな。なんの問題も無いよ」


 爪と牙を折ってきたんだから仕方ないけど、心配されるってのはどうも慣れない。

 エルヴァンの時はしてくれる人が居なかったし、今はする必要が無い体だ。


 まぁそんな事は全く関係無く、いつまでも心配してくれるのがアリーシャなんだろうな。むず痒い。


「ていうか、もしかして外壁を越えたり……」


「したな。大丈夫だ、往復したけど見つかってない」


 何処で変身したのかと考え、何時ぞやに私が外壁を越えようとした事を思い出したんだろう。

 まぁ今回は実際に越えた訳だけど。


 だってほんのちょっとの用事だし、しかも急いでるんだ。

 それで態々門を通って手続きするのは面倒過ぎる。


「……こっそり素通りされる防壁ってなんだろう」


 そこはもう仕方ない。私だし。


 というか私じゃなくとも、技術があるなら可能だ。

 そうやって侵入する犯罪者だって居ない訳じゃない。それだって普通は夜だけどな。




「まぁまぁ……そんな事より、この10日間をどうするかだ」


「そうだねぇ……お金使えなくなっちゃったし」


 下手に話を続けると怒られそうな予感がしたから、ひとまず話を変える。


 賞金で豪遊するつもりだったけど、それが出来なくなってしまった。

 正しく言うなら、常識的な範囲に抑えなければならなくなった。


 と言うのも、さっき店から出る時オックスの爺さんに言われたのだ。


『こんな訳の分からん素材、金額は覚悟しておけよ。せっかくの賞金はとっておく事だな』


 と。こっちの考えを読んでいるのか忠告まで頂いた。

 言うだけ言って奥に戻ったが、どうせならある程度の金額を言ってくれんかね……?

 私が言えた事じゃないけど、相変わらず言葉が足りない奴だ。


 エルヴァンの剣が200万コールだったから、それ以上の剣となれば2本で500万コールは越えるだろう。

 あの言い方からして賞金以上の金額にはならないだろうから、高めに見て600万コールの予想だ。


 既にルークに50万投げ付けたし、滞在費と路銀の事も考えるとあまり使えない。

 その場の思いつきで爪と牙を持ち込んだ私の所為だけど……ちょっと出費がデカすぎたな。

 反省はしない。



「武器を作って貰うのって、そんなにお金が掛かるの?」


「いや、一般的には100万あれば結構良い物が手に入るよ。店売りならもっと安い。あそこが特別、質と価格が滅茶苦茶高いんだ」


 店売りでそこそこ良い物を買っただけのアリーシャにとっては信じられない価格だろう。


 けどあそこは昔からそうだった。

 ただ好きだから、最高の物を目指してのんびり楽しんでる。

 そう言っていたのを覚えている。


 どれだけ腕が良くても流行らないのは、価格の問題以上に知られていないからだ。

 あえて宣伝をしていなかったから、私は剣を何処で手に入れたのか誰にも語らなかった。


 エルヴァンの剣を打った、なんて知れたら騒がれるのは間違いない。

 それで挙って客が来るのは彼としても不本意だろうからな。



「じゃあ本当に凄い剣になるんだろうねぇ……エルちゃんが楽しみにしてるのも分かるかも」


 その通り。しかも今回は素材が素材だから、私でも見た事が無い業物になるのは間違いない。

 しかし……楽しみにしてるって私言ったっけ? 見抜かれてるのか。

 そう、私は武器を眺めているだけで時間を潰せるタイプだ。


「まぁ剣については10日後にしよう、今から語ってたら待ちきれなくなる。他の事に手が付かなくなっちゃうだろ」


「……意外と子供っぽいよね、エルちゃん」


「なんだとコラ」


 やっぱり色々と見抜かれてるな。


 子供っぽくなった自覚はある。中身おっさんだってのに……むしろ生きていたらもう60近いのに。

 そりゃあもう、どうしたものかと悩んだくらいには理解してるんだ。


 でもそれでいい。

 生まれ変わって子供として生きて、まさしく子供の様に改めて成長していく。

 それが新しい人生ってもんだろう。


 でもそれはそれとして、指摘されるのは恥ずかしい。

 それがまた更に子供っぽいと分かってはいてもな。






「――……い」


「ん?」


 とりあえず大通りに出よう、と歩いていると何か聞こえた。後ろか。

 アリーシャにも聞こえたらしく、揃って振り返る。


「おーい! やっと見つけた、待ってくれー!」


 ルークかよ。なんで私達を探してるんだか……ていうか釈放されたんだな。


「……逃げてみるのも面白そうだと思わないか?」


「やめたげて」


 走って来るのを眺めていると悪戯心が湧き上がってきた。

 残念ながらアリーシャに止められたから待ってやるけどな。感謝するがいい。



「……なんの用だ?」


 で、私達の前で足を止めたルークに用件を聞いてみる。

 まさかとは思うが、金を返そうとしたら今度こそ殴ってやろうか。

 あ、いや……返してくれるならちょっと余裕が出来るから喜んで受け取ろう。


「いや、だって金押し付けて勝手に帰るから……礼くらい言わせてくれよ」


 流石にここまできて返す事はしないようだ。良かったんだか良くなかったんだか……

 しかし礼の為に探してたとは律儀な奴だ。馬鹿な真似をしていたが、性根は良いんだな。


「そんなの要らないのに」


「それでも言わせてくれ。ありがとう……あと、勝手にエルヴァンの子を名乗ってすまなかった」


 神妙な顔をしたかと思えば頭を下げてきた。

 まだ謝るのか。


「土下座してただろう。もう畏まるな、気持ち悪いってば」


「そうだったな……」


 気持ちは分かってるし、私はもう許した。これ以上は要らないんだ。

 それにコイツはギャーギャー喚いてる方が似合う。


 私が軽く返すと、ルークは苦笑しながら頭を上げた。


「あと、さ……その、実はもう1つだけ話があるんだ」


「ほー?」


 礼と謝罪の為だけじゃなかったみたいだな。

 なにやら、どう切り出そうかと悩んでいる素振りをしている。


 しかしそれも数秒の後、ゴクリと唾を呑んで決心したようだ。



「頼む、俺を旅に連れて行っ――」


「やだ」


 即答。

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