第26話 変わる物と変わらない物
私の用事は終わった、という事で買い物の時間。
既にアリーシャの服の注文を済ませ、今は武器を見ようという流れだ。
何かしら新しく買い替えるってのは、いつだってワクワクするもの。
今回は自分の物じゃないけど、それでも楽しみがある。
「どのお店が良いかな?」
「んー……良い鍛冶屋を知ってるから、まずはそこに行こう」
そこらの店でも良い物は並んでるだろうけど、直接鍛冶屋に頼むのが一番だ。
個人の注文に合わせて作ってくれるから店売りとはまるで違う。
その分の金は掛かるけども、今は賞金があるから問題無い。
「お世話になってた、とか?」
「まぁな。別に仲が良かったとかでは無いけど、度々仕事を頼んでた。エルヴァンの剣を作ったのも奴だ」
私以上に偏屈で、仕事としてしか人と関わろうとしないおっさんだった。
最後に会ったのはエルヴァンとして旅に出るよりも更に前。20年くらい前になるのか。
生きてりゃもう爺さんだが……未だに仕事を続けてるのかも分からない。
とにかく行ってみるしかないな。
「へぇー……あれ? そういえばエルヴァンの装備ってどうなったの?」
「知らん。跡形も無く消し飛んだんじゃないか?」
今更な質問だな。
確認した訳じゃないけど、死体と一緒に装備は全て燃え尽きた筈だ。
エルヴァンの全力の障壁をぶち抜いて、一瞬で焼き殺した炎だからな。
剣だってあっという間に融解して形も残らず、今は大地に還っただろう。
というか、分かる様な何かが残ってたならエルヴァン死亡の噂が流れてる。
「えぇ……勿体無い……」
本当にな。
渾身の一振りが出来たって託されたんだが……悪い事をしたかもな。
恨むなら名前も分からんアイツを恨んでくれ。
「ここだ。やってる……みたいだな。音がする」
随分と寂びれた佇まいになってるが、仕事はしてるらしい。
「おーい、誰か居るー?」
とりあえず中へ入り声を掛ける。
が、反応無し。
まぁこれは予想通りだ。鍛冶屋のお約束だからな。
店番なんて態々立てないし、奥で作業してて聞こえちゃいないんだ。
「客だぞー! おーい!」
だから叫ぶ。呼び鈴かなんか置けば良いのに。
「ハイハイ、今行きますよー!」
そうして出てきたのは30代くらいの男。
彼に息子なんて居なかったし、弟子か?
「……って、君達が客? いや、今朝写真で見たな……揃ってお越しとは光栄です」
まぁ子供が居たら疑問だろうな。
すぐ誰なのか気付いたみたいだが。
しかし写真を見たのか……あの写真を……クソ、忘れろ。
「剣が欲しい。私達2人分な」
まぁそんな事はどうでもいい、仕事の依頼だ。
彼がどれ程の腕かは分からないが……あの偏屈な男が弟子にしたのなら期待外れにはならないだろう。
「あれ、エルちゃんも?」
「ああ。そろそろちゃんとした物を持とうかと思ってね」
実は私は今まで剣なんて持っていなかった。
旅だって精々ナイフがあれば良い。
最早武器さえ必要が無いと言えばそうなんだが、どうにもしっくりくる物が無かったのだ。
元々が大振りな剣を使っていた上、体は小さくなったのに力は昔以上に出せる状況だ。
色々試しはしたが、どれもこれも合わなかった。
「ふむ……どういった物がお望みで? 形状は勿論、素材から厳選して注文出来ますよ」
「えー……どうしよう。エルちゃん、オススメとかある?」
男はそう言って、大まかな形状と素材の一覧を載せた紙を置いた。
それをアリーシャと覗き込み考える。いや考えてるの私だけだな。
なに一瞬で放棄してるんだお前。
「自分で考えろ。自分の剣だぞ」
「うぅ……だって分かんない……」
突き放したらしょんぼりした。
でもまぁ、分からない物をいくら考えても仕方ないと言えばそうだな。
アリーシャに合った剣……うーん……?
「師匠だったら人を見ただけで、その人に合った物を作るんですけどね……僕はまだまだ……」
そうだな……彼はそうだった。
私の時も、お前はこれだ、と勝手に決めていた。
結果的にそれがピッタリ合ってたんだから驚きだ。
職人の中でも特に優れた奴ってのは、一体どんな目をしてるんだか不思議でならない。
「あ、ドラゴンの牙なんてのも素材なんだ」
「ええ。ドラゴンに限らず、魔法生物の素材は武器にすると中々面白いんですよ」
言われてちゃんと自分で考え始めたのか、一覧を見て首を傾げていたアリーシャが呟く。
それを聞いて男は説明を始めた。彼女が何も知らないと判断して助けてくれてるらしい。
「持ち主の魔力に馴染んでいくんです。すると一般的な武器よりも扱いやすく感じる上、纏う障壁も若干質が上がりますね。まぁ、それでも特別強いとまでは言えないんですけど……」
「はぇ~……」
結局鍛え上げた金属の方が……ってね。
とは言え、好んで選ぶ奴が居るくらいには実用的だ。
問題は素材にした魔法生物に依って、出来上がる武器の強さも変わる所で――
「あ……そうか。その手があったか!」
「わっ!? え、何?」
思い至った瞬間、つい大声を出してしまった。
全く、何故気付かなかったのか。
「なぁ、ここは素材の持ち込みも良かったよな?」
「え? ええ、勿論。何かお持ちで?」
「ちょっと時間をくれ、急いで持ってくる」
「え、ちょ……何処行くの!?」
「アリーシャはここで待ってろ」
驚くアリーシャも、ポカンとする男も置き去りにして私は歩き出した。
そして店を出るや否や、全速力で駆け出す。途中からは跳んだ。
人を避け、屋根を飛び越え、大急ぎで街の外へ向かう。
外壁なんて知った事か。
私の本気の速度なら、警備の隙を突いて越える事は造作も無い。
街を出てもしばらく走り続ける。
そろそろ良いかと止まれば、広範囲で魔力を感知し誰も居ない事を確認。
そうして私は変身、本来の姿へと戻る。
そして一切の躊躇いも無く、爪と牙を根本から砕き折った。
どうやってかって? 頑張ってだ。
どうせ勝手に治るけど、今は時間が惜しい。
元々の再生に治癒魔法を併用して、さっさと治す事にする。
ふむ……今思い付いたけど、金に困ったら体を売って稼いでも良いかもしれないな。
あっちの意味じゃなくて、文字通りの意味で。
いつも着ている服なんかは、体の一部と認識して変身した仮の物。
だから着ていなければそのうち消えてしまう。
しかしこれは本当の意味で体の一部だ。切り離しても消える事は無い。
生物の頂点であるドラゴンより更に格上の、生物の枠を超えた存在である私の爪と牙。
果たして加工が出来るのかという懸念はあるが……これで武器を作れたなら、それ即ち最強の武器となり得るだろう。
そう考えると気軽に流通させられないな。
体を売るのはやっぱり無しで。
「うぉらー! ただいま!」
ズバーンと扉を開けて戻ってきた。
ビクーンとアリーシャが跳ねたのが見えた。
流石に全速力で往復ってのは疲れるな。
結局30分は掛かったか……距離を考えたら常識外の早さだけど、待たせたのは変わらない。
「どんな戻り方……」
アリーシャが批難の目で見てくる。驚かせてすまんな。
急いでたから、その勢いのまま入ってきてしまった。
しかし私が持っている物を見て今度は目を丸くした。
何も言うなよ? 話がややこしくなるから。
「待たせたな。これを使ってくれ」
「こ……これはっ!?」
そして男へ爪と牙を差し出す。
ふふふっ……これ程の物は見た事が無いだろう。驚け驚け。
「これは……なんだ……?」
おい。
「――エルヴァンの娘子よ。随分ととんでもない物を持ってきたな……これは高く付くぞ」
無駄にボケてくれた男に突っ込んでやろうかと思ったが、もう1人の声で止められた。
奥からのそのそと爺さんが歩いて来る。
「あんたは……オックス、か?」
「そうとも。父親から聞いていたか? まぁ、だからここに来たんだろうが……」
一応確認はしてみれば、やはり本人。
あぁ……アンタも変わったな。
片や老いて、片や子供になっている。
別に仲良くしてた訳じゃないのに、何故か寂しさを感じた。
「こんな物、俺でも見た事が無い。何処でどうやって手に入れたのかは聞かんが……父親に似て厄介な物を持ち込みおって」
彼にはこれが普通の素材じゃないと分かるようだ。流石の経験だな。
しかし、そんな厄介と思われる事したか?
というかアンタもアンタで楽しんでただろう。
「ウード、こいつはお前にはまだ早い。俺がやろう。代わりに他の仕事は全てお前が終えろ」
「は、はい。言われずとも、僕の手に負えないって事くらいは分かります」
老いて尚現役……けど、それでも世代が変わろうとしている。
それだけの時間が経ったんだな……
さっき感じた寂しさはこれか。
置いていかれる様な感覚……いや、違うか。
むしろ私が遠くに行った様なものだな。
「ふん……何処までもそっくりだ。まるで本人だな」
じっと見つめてきたと思ったら、中々に鋭い事を。
やはり彼の目は不思議だ。本当に、一体何が見えてるんだろうな。
けど、この目は好きだった。
英雄とか肩書なんてどうでもよくて、ただ一個人を見る目だ。
お互い人付き合いが苦手だったけど、そうじゃなければ友人になれたのかもしれない。
「お前達にピッタリの剣をくれてやる。時間は掛かるが、待てるな?」
そしてアリーシャもその目で見つめ、やはり何かを見抜いた。
その証拠に、私達に合わせた剣を作ると宣言している。
前言撤回だ。アンタは変わってない。
いつまでも職人のままだ。
「勿論。宿を教えておいた方が良いか? 完成したら連絡とか……」
「要らん。そうだな……10日後にまた来い」
昔依頼した時の事を考えると、2本分としても10日は長い。それだけの大仕事、って訳か。
なるほど、厄介な物持ち込んですみませんねぇ……
まぁ、加工出来ないと突き返されるよりはよっぽどマシだ。
むしろ完成が楽しみで、不満なんて感じる訳が無い。
エルヴァンが信頼した腕を、今度は私達に振るってくれる。
時の流れは寂しい物だが、なんとも面白い物でもあるな。




