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とある竜の恋の詩  作者: 桜寝子
第2章
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第24話 お金と歴史と日常と

 ちょっとだけ人目を気にしながら賞金を受け取りに行ったが、だいぶ邪魔なので一旦宿へ戻る事にした。

 こんなに多いとは思わなかったんだ。


 大会の詳細なんて見てもいなかったけど……勝って当然の試合で500万コールとは美味しい。

 人を集める為に釣り上げたのか、賞金は昔より多くなってるようだ。

 しかもアリーシャが準優勝だから追加で250万、合計で750万コールだしな。かなりの額だ。


 ジャラジャラと大量のお金を担いでのんびり歩く。

 子供がこんな大金持って1人で歩いてたら即狙われるだろうが、流石に私の事は知られているから誰も狙ってこない。


 この大量の賞金をどう使うか……どうせこんなに持っていけないし、相当な贅沢が出来るな。

 消費するペースで出発する日を決めた方が良さそうだ。

 勿論全て使い切るつもりは無いが、それでも何日掛かるやら。



「そういえば、エルヴァンの遺産を私が受け継いでたかもしれないと考えると……ちょっとは残しておけば良かったかもな。こんな未来は想像もしなかったから仕方ないけど」


 王都を離れ旅に出る事を決めた時、莫大な資産は全て処分した。

 国中の孤児院に贈り付けてやったのだ。

 

 本当はギルドとか騎士団とかにもくれてやりたかったが……いくら莫大と言っても結局は個人の資産。

 その全てに漏れなく贈っては雀の涙で殆ど無意味だ。同じ立場なのに差があったら後が面倒だろうしな。


 そんな理由と、私自身が家族を失っているから……というのもあって孤児院に絞らせてもらった。


 だから多分、アリーシャは私の金で育ったと言えるだろう。面白い縁だ。




 ちなみに、通貨は世界共通だ。他国に持って行ってもそのまま使える。

 昔は国で違ったらしいから大変だったんだろうな……今は今で管理が大変なんだろうけど。


 通貨が世界共通の物になったのはもう300年以上も前の話だ。

 このセルフィアス王国が先頭に立ち世界を平定させ、共通の通貨を普及させた。

 世界征服でも目指したのかね。


 この共通の通貨こそ、国同士が繋がり平和を維持している証左とも言える。


 各国がどれだけ腹黒い事を隠していようと、表向きはずっと平和なのだ。

 少なくとも国と国の戦争は300年以上起きていない。最早戦争なんて誰も知らないくらいだ。


 ちなみに建国されたのが約500年前。

 その頃は逆に戦争が多く、魔物等の敵もあって世界全体が厳しい状態だったらしい。

 更にそれ以上昔になると、厳しいなんてものじゃない荒廃した世界だったんだとか。



 約千年前、数体のドラゴンに依って人類は壊滅、文明は崩壊。そうして立て直してきたのが今だ。

 そんな事が御伽噺として伝わっている程度で、当時の技術や思想なんかは殆ど残っていない。精々が遺跡から発掘される程度だ。


 そのドラゴン達の記録はかなり曖昧ではあるが、間違いなく私の同類なのだろう。

 今は何処でどうしてるのか……もしかしたら私を殺したアイツがその内の1体だったりして。




 ……遺産の話をしていたのに、随分と逸れたな。ここまで逸れる事があるか?


 なんて、取り留めのない事を考えながら歩いていれば宿に到着。

 まだアリーシャは起きられないだろうから、お金を置いてまたすぐに出ようか。


「って、起きてるじゃないか」


「あ……おはよ」


 部屋に入ると、まだ疲れていそうなアリーシャが迎えてくれた。

 もしもを考えて、一応置いといた朝食も食べてくれたらしい。

 充分でなくとも回復出来たなら良かった。


「もう歩けるのか?」


「うん、それくらいはね。ていうか何それ?」


 ふむ、本当にその程度ならって感じだな。

 笑顔を見せてくれたが、やはり疲労は隠し切れていない。


 そしてやはり気になるのか、私が担いでいる大きな袋を指差して訊ねてくる。

 ふふふ……驚くぞ。


「お金」


 ドガチャンと重い音を立てて袋を降ろし、中を見せてやる。

 眩い山盛りの金貨だ。


「うひゃあ!? 何この大金、エルちゃん何してきたの!?」


「おい……大会の賞金だよ。私とお前の2人分」


 想像通りの良い反応をしてくれたが、何か余計な言葉が付いてきたな。

 私を何だと思ってるんだか。


「あぁ、そっか。そういえば賞金があったんだっけ」


 アリーシャも賞金の存在を忘れていたらしい。

 端から賞金なんて気にもしていなかったんだろうな。

 無理矢理参加させられて気にするどころじゃなかったのかもしれないが。


「はぁー……こんなに沢山……どうしよう?」


「持っていける分を残して豪遊しようじゃないか。好きに使え」


 しゃがんで袋を覗き込み悩んでいる。

 見た事も無いだろう大金を目の前にして、思ったより冷静だ。

 割とこういう所はしっかりしてるんだよな……コイツ。


 使う以外に無いのだから、手当たり次第に欲を満たせばいい。

 だけど多分、そういうのも苦手なんだろうな。


「悩むならまず装備の新調で良いんじゃないか?」


 とりあえずパッと思い付くのは装備の新調。

 旅に出るに当たって、アリーシャは貯金を使ってそこそこ良い剣を買っている。

 しかし王都でこれだけの金があるなら、更に良い物が手に入るだろう。


 そして彼女のいつもの服は、厳しい試合を繰り返した所為でだいぶ痛んでしまった。

 少なくともこちらは確実に買い替えなければならない。


「そうだね。これから行く?」


「は? 休んでなくて良いのか?」


「別に買い物くらいは……」


 提案したものの、すぐに出かけるつもりになるとは思わなかった。

 でも出歩くくらいは大丈夫だと言うなら構わないか。1人より2人だ。


「そうか、じゃあせっかくだし行くか。先にちょっと私の用を済ませるけど」


「何するの?」


 私の用事に思い当たらないのか、アリーシャは首を傾げる。

 まぁ、用と言う程の事でも無いんだけど。


「騎士団にとっ捕まったルークを殴りに」


「あぁ……うん」


 納得した様な呆れた様な声が返ってきた。


 と言っても彼がまだ捕まっているのかは知らない。

 たかが虚偽で調子に乗ってただけの小物だ、取り調べにそう長く時間は掛けないだろうしな。


 ひとまず騎士団に向かって、団長なりに直接聞いてみよう。







 そうしてやたらと目を引く豪華な建物……騎士団本部へ到着。

 彼らの仕事は治安維持。見た目で権威を示せなければ話にならないのだから、まぁそんなもんである。


 入口で、団長は居るかー! と叫んでやればゾロゾロと騎士達が現れる。

 あれよあれよと中へ進むと、その団長が出迎えてくれた。


「その訪ね方はどうかと思うぞ……」


 ただし苦笑と共に、だったが。

 良いじゃないか、手っ取り早いだろう。


 今日のレイナードは当然仕事中。

 初対面の時は抜け出してきたからか恰好が違ったので初めて見る姿だ。


 そう、騎士には騎士の恰好がある。

 制服を着て、その上に軽そうな鎧を纏っているのだ。

 立場があるから彼は周囲の者より多少派手だが。


 どの国どの街でも、意匠の差はあれどこれが騎士の姿。

 建物と同じく見た目で分かりやすく示している訳だな。



 ちなみに、鎧を着るのは騎士だけだ。

 ハンターだの旅人だのは、動き易く丈夫な服を着る。

 精々が籠手だとかの極一部分になる。


 鎧なんてのは最早過去の産物。魔力障壁というもっと優秀な防御があるのだから当然だ。

 そもそも鎧を引き裂く様な敵も珍しくない。結局鎧の上に障壁を纏うなら、脱いだ方がマシという物。


 どれだけ動き易い鎧だろうと、着てない方がより動き易い。

 そして防御があるからと態々受けない。基本は回避だ。

 同じ理由で盾を使う人も少ないな。頑丈な籠手に障壁を纏って咄嗟の盾代わりにする場合はあるけど。


 まぁそれはさておくとしようか。



「私もそう思う」


 まるで自分は関係無いですとでも言う様に、アリーシャは一歩後ろで呆れ中。


 恰好と言えば……私はお馴染みの物だが、今日は彼女も私の様にワンピースを着ている。

 ボロくなった服を着て出かける訳も無く、予備の1枚だ。


 そもそもこの後に彼女の服を注文しに行く。

 これと同じ物を、と注文する事になるから着ていたら渡せない。



 戦いに身を置く者は、基本的にこれと決めた格好を続けるものだ。

 サイズ、伸縮性、小物の位置と諸々の条件を固定する為である。


 着慣れた服というのは感覚に直結する。微妙な違いでも動きづらいと気になってしまうからな。

 例えばポケットの位置や大きさが違うだけで結構面倒臭いんだ。


 まぁこれもさておくとしようか。

 さておいてばかりだな。



「で……用件は?」


 たった二言の間になんだか高速で思考していた気がするが、レイナードの声で戻ってきた。

 よし、話を進めよう。


「ルークってまだ捕まってる?」


「居るぞ。結局罰金程度で終わりだが、その分たっぷり説教しといた。今は反省中だ」


 自業自得とは言え、ほんの少しだけ不憫だな。

 なんせ1人旅なのに罰金なんて食らったら路銀を稼ぐのが大変だ。

 あんな大勢の前で暴露された訳だから、厄介者扱いで仕事もあまり請けられない可能性もあるし。


「じゃあ会わせてくれない? 1発ぶん殴る」


 けどそれはそれ。とにかく私は私でケジメを付けてやる。


「……その理由で通ると? まぁいいか」


 そう言われると確かに、勾留中の犯罪者に会う理由としてはふざけた理由だな。

 しかしレイナードは一瞬悩んだものの許可してくれた。ありがとさん。


「いいんかい」


 どうしたアリーシャ。

 あんなに畏まってた相手にそんな雑なツッコミを……成長したな。

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