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とある竜の恋の詩  作者: 桜寝子
第2章
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第23話 VSアリーシャ

 アリーシャの周囲に焔が立ち昇っていく。

 まるで彼女の気迫をそのまま表しているかの様だ。

 呼応する様に私も雷を散らして構えた。


「っ……はぁぁあああっ!」


 周囲の焔と共に……いや、剣にまで纏わせて一気に飛び込んで来た。


 見たまんま、文字通り彼女に爆発力があるのは試合を見ていて分かっている。

 生半可な防御で受けるべきじゃないだろうが、私なら問題無い。


 彼女もそれを分かっているからこそ、全力をぶつけると言ってるんだ。

 だから避ける選択肢なんて無い。ただ受け止めるだけだ。



 焔の剣が振り下ろされた瞬間、まるで爆発したかの様な音と衝撃が響く。

 レイナードの時より大きい……嘘偽り無く全力だと分かる。


「くっ……重っ……本当に成長したな。最高だよ」


 剣と同時に襲い掛かる爆炎は障壁でやり過ごし、心からの言葉を贈る。


 大会用に支給された武器はいくつもあるが、私達は同じ規格の剣だ。それでも重い。

 人並み以上の魔力に依る身体強化の賜物だな。

 そしてそれに耐え得る丈夫な肉体……根本的に違うと言うのはこういう事だ。


 先の試合同様、今の私はエルヴァンより少し劣る程度の力にしているが……もうちょっと出力を上げてもいいかもしれないな。

 もう少し様子を見て――


「まだまだっ!」


「何っ!?」


 そんな一瞬の逡巡の間を狙い、更に強く押されバランスを崩された。


 膂力では負けていない。押し合う中で地面を、私の足元を岩で突き上げたのだ。

 いつの間にそんな器用な真似が出来る様になったのやらっ……


 流石に姿勢を大きく崩されたらどうしようもない。続くアリーシャの強烈な薙ぎ払いを抵抗無く受けて離れた。

 吹き飛ばされてでも距離を取った方がマシだからな。



 しかしそれでも油断無く魔法で追撃を飛ばしてきた。

 拳大の焔の弾……それも多数に別けて着弾をズラしてくる。


「……多いな。狙いも正確だ……っとぉ!?」


 あえて避ける事はせず、全てを切り払っていく。

 が、予想外の手応えに驚いた。


 焔の中に石を隠した弾がいくつかあるみたいだ。

 厄介だな……切り払っても手応えの軽い弾と、それなりの衝撃を受ける弾。

 触れるまでどっちなのか分からず、少しずつタイミングがズレていく。

 このまま受け続けるのは難しいな。


 焔が弾け火の粉が舞う中、次を考える。

 地属性の魔法を織り交ぜられる様になったのなら、他にも何かしてくるだろう。

 ならここは分かりやすく動いてみるか。



 思考を終えると同時、私は駆け出した。

 さぁどう来る。


「……なるほど、罠か」


 私の正面、駆ける先の地面に魔力を感じ取った。

 岩を突き出すなりすれば、自分から突っ込む羽目になる位置だ。


 それに加え、左右から挟み込む形に大きめの炎弾も飛んで来る。

 こうなると足を止めるか、退くか、身動きの取れない空中に跳ぶしかない。

 

 当然追撃も考えているだろうから、悪くない選択だ。

 だが残念、それじゃ間に合わないな。


「遅いっ!」


「あっ……嘘!?」


 風の魔法で後ろから吹き飛ばす様に急加速。

 待ち構える場合、読んでいたタイミングをズラされると逆に崩れてしまいかねないのだ。


 発動直前だった魔法を止め、咄嗟に剣を構えるアリーシャへと飛び込む。

 またスカートが捲れた気がするが、もう気にしていられるか。


「ぐっ、うぁっ!?」


 そのまま空中から剣を振り下ろした。

 加速しての突進、そうして全体重を乗せた1撃だ。

 いくら私が小さくて軽いとは言えかなりの衝撃になる。


 堪らずアリーシャは転がり、私は彼女を越えて着地した。


 本来ならここですぐさま追撃と行きたい所だが……わざと遅らせて雷を放つ。

 すると慌てて転がって避け、スムーズに立ち上がり2度3度と雷を避けていく。


 へぇ……魔法を避ける訓練は毎回泣きべそかいて無様に転がってたのに。

 しっかり避ける様になったじゃないか。


「はぁっ、はぁ……ここだっ!」


 しかも避けるだけじゃなく、雷の合間を縫って飛び込んでくる。

 けどそれは直線的過ぎるな。対処は簡単に――


「っ!? そう来たか!」


 カウンターを狙ったが、まんまとズラされた。

 先の私がやったのと同じ、急加速をしてきたのだ。


 彼女の踏み込んだ地面が小さく爆発していた。

 またまた器用な真似をするっ……


 辛うじて剣を防いだが、今度も焔を纏っていた所為で1歩退いてしまった。

 その一瞬は、彼女が姿勢を整えて追撃するには充分だろう。



「やぁぁあああっ!」


 案の定、これでもかと言う程に連撃を叩き込んでくる。

 その全てを受けて見せるが、焔の剣というのは侮れない。


 同時に襲い来る焔も防ごうとジリジリ後退していく。

 オマケに舞い踊る焔が視界を妨げるのだ。どうしても距離を取りたくなる。


 実戦だったらいくらでも対処出来る。

 が、私は受け止めると決めたのだ。1撃たりとも漏らして堪るか。


「っ……随分と、荒々しい、じゃないか!」


 ひたすらに受け続け、感じた事を返す。

 まるで暴れるかの様に、滅茶苦茶に振り回している。


 焦りか何か知らないが、少し冷静じゃないな。

 これじゃお前の望む戦いにはならないぞ。


「そんなんでっ! 本気で戦えると、思ってるのか!? それともそれが、本気かっ!?」


 剣戟を続けながら声を掛けるがまるで反応が無い。苦しそうな表情だ。

 全く、これじゃお互いに後悔するだけだろう。


 彼女の剣を大きく弾き、その隙を突いて水流を叩きつける。

 久々に戦闘で水の魔法を使ったな……まぁ良い、頭を冷やせ。


 風で彼女ごとぶっ飛ばしても良かったが、火は風に煽られるものだからな。

 充分な練度の火にそれなりの練度でしかない風を送ったら、より大きな火が返ってくるかもしれない。


「ちょっとは冷静になれたか?」


「はぁ……はぁ……っうん。ごめん、ありがとう」


 ずぶ濡れで転がっていたアリーシャが立ち上がる。

 かなり息が上がってるみたいだな。


「もう、体力が限界でさ。とにかく出来る限りの事を……って焦っちゃった」


 ここまでギリギリの戦いを続けてきたんだ。仕方ない。

 体力どころか、魔力だってかなり減っている。これじゃ長くは戦えないだろう。


 だけどそれで妥協したり諦めたりする奴じゃない。


「もう終わりにするか?」


「はぁ……っ……ううん。ここからは……限界を越えてみせる」


 一応の確認をしてみれば、やっぱりだ。

 限界だから終わるんじゃない。限界だから越える。

 本当に、最高だよアリーシャ。


「なら見せてくれ。私はそれを全部受け止めよう」


 言葉は返ってこない。言葉が無くとも……ってか。




 荒い呼吸を繰り返すアリーシャの周囲に、試合開始の時と同じく焔が吹き荒れる。

 今まで以上の魔力で生み出しているのか、熱量が全く違う。

 だけどまだ動かない。


 ずっと感知していた彼女の魔力が変わっていく。

 急激に増加し、まるで別物の様に質が上がっていく。



 ……そうか。

 ついに蓋を開けたのか。


 私と鍛錬する中で、少しずつ漏れ出てきていた魔力。

 それが全て解放されていく。


 彼女が秘めていた、人外へ至る力。

 エルヴァンと同じ、孤独へ至る力。


 でも、そうだよな。

 人の枠を超えたって、もう孤独にはならないんだ。

 孤独に至る力は、共に歩く力になったんだ。


 この道を往く覚悟って言うなら……これ以上に見せる物は無い。




 変わっていく。魔力が、焔が。

 だけどアリーシャ自身は変わらないんだろうな。

 温かいまま、眩しいまま……


 ていうか本当に眩しい……焔が光ってる。なんで?


「なんだ……これは」


 思わず呆けてしまう。

 はは……アリーシャらしいじゃないか。


 キラキラと輝く、黄金の焔……だなんて。


 あぁ……なんて眩しい。

 焦がれる程に熱いのに、何故か優しくて暖かい。


「これが、お前の本当の力か……良いぞ、来いっ!!」


 アリーシャが跳ぶ。

 あの焔を纏った剣を叩きつける気か。

 受けて立とうじゃないか!


 大袈裟な程に雷を散らし、身体と剣に纏い構える。

 防御としては殆ど意味は無いが……こんな派手な焔を見せられたら、私も派手に行きたくなるってもんだ。


「「っぁぁああああ!!」」


 お互いに叫んでぶつかり合う。

 最早剣と剣の音とは思えない、ただの爆音が会場を揺らした。


 そして同時に弾かれ距離が開くが、やはり同時に踏み出し……

 後はただただ轟音を打ち鳴らし続けた。




「……あっ!?」


 何十秒と経った頃、遂にアリーシャの手から剣が離れた。

 激しい剣戟だった故に、遠くまで飛んでいってしまい拾う事は出来ない。


 確かに限界を超えたが、消耗した体力はどうしようもないのだ。

 むしろ覚醒直後で慣れない力をなんとか制御する負担だってあるだろう。

 これだけやれてる時点で驚きなんてもんじゃない。


「くっ……まだっ……まだ私はっ!!」


 しかし武器を失ったからと言って彼女は諦めない。

 何処までも立ち向かう。


 絞り出す様な叫びと共に、巨大な焔が放たれた。

 これ程の焔は滅多に見れるもんじゃない。



 それに対し私は大量の水を放った。

 雷では防げず、風は悪手。ならば水を……という判断だったが、これは失敗だった。


 この程度の水では彼女の煌めく焔には敵わず、一瞬で掻き消された。

 水蒸気が爆発する様に広がり、焔が突き抜けてくる。


 咄嗟に避けようとするが思い直した。受け止めると決めただろう。

 限界を超えた全力をぶつけてくれるのなら、こっちも全力で受け止める。ただそれだけだ。


「ぐぁっ……つぅ……これ程とはっ……」


 障壁越しだと言うのに焼けそうだ。

 体の前で腕を交差して受けているが、ゴリゴリと削られて行くのが分かる。


 耐えられなくは無いが、気を抜けば突破されるかもしれないな。

 まぁされたとて、私なら大丈夫だ。


 しかし、エルヴァンの最期を思い出してしまうな……

 またしてもこんな焔に包まれるとは。色んな意味で笑えて来る。



「くっ……はぁ……はぁ」


 ひとまず耐えきったが、これほどの焔を受けて無傷なのは流石に傍から見ておかし過ぎる。

 そう考えて障壁を弱め、軽い火傷を負う程度にわざと焼かれた。

 予想以上に服が燃えてちょっと危ない恰好になってるが……大丈夫だ。



 そして次はどう来るか、とアリーシャを感知してみる。

 しかしどうやら、もう立っている事も出来ないようだ。

 本当に全てを出し尽くしたのだろう。


「全く、無理をする」


 膝を着いて呼吸もままならない彼女に近づき、抱きしめる。

 そのまま治癒魔法を使い、少しでも回復をしてやる。


 傷を癒すと言うよりは、ただ疲労を回復する程度だ。

 そもそも試合で相手を回復するなんて良くないが、水蒸気で何も見えないんだから構わないだろう。


「頑張ったな……最高の物を見せて貰った。ありがとう」


「……うん」


 今にも眠りに落ちそうな彼女の、微かな返事が聞こえた。

 本当に……感謝だけじゃ伝えきれない程の感情が湧いて来る。


 そうしてすぐ、彼女は目を閉じた。

 お疲れ様……今は休め。



「さて、じゃあ幕引きといこうか」


 と思ったが、さっきの水蒸気で既に幕は引かれてたな……

 知ったこっちゃ無いが、どうやって決着が付いたのか見えなくて観客はさぞ不満だろうな。

 仕方ない、とりあえず霧を払ってやるか。


 風を起こして晴らしてやると、ざわついていた会場がシンと静まる。

 そして一拍置いて、歓声が響いた。


「うるさいな……アリーシャが起きるだろうが」


 そう言って担ぎ上げ……ようとした。

 くっ……重さはどうでもいいが、私の方がずっと小さいから上手く担げん。


 どう運ぶか一瞬悩み、結局横抱きにして歩き出した。

 所謂お姫様抱っこ……って言ったか。なんだか恥ずかしいな。


 うるさい程の歓声の中、ゆっくりと歩きながら私は笑う。


 勢い任せで、なんとなくの軽いノリで出場したが……

 結果的に最高の結末になったな。

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