第22話 彼女の決意
最後の攻撃は彼の真似だ。
剣を防がれた時、左腕に極僅かな魔力を繋げて微量の雷を維持していた。
後はそれを起点に雷を落としてやるだけだ。
隠す様に最小限の魔法を維持するのは私だって出来る。
むしろ相当に上手いと自負している。
彼でさえギリギリまで気づかなかったくらいだからな。自分の腕だというのに。
まぁ、これ程までに精密なのは実戦じゃまず使えないけど。
その間殆ど動けなくなる程に極限の集中が必要になるのだ。
「起きてるー?」
「あー……ちくしょう。俺の負けだ」
倒れたレイナードの元へ歩いて行くと、そんな呟きが返ってきた。
うん、ちゃんと威力は抑えたから意識もしっかりしてる。
というかまだ戦えるくらいだろうが、あっさり敗北を受け入れてくれたみたいだ。
「散々辱めてくれた罰だよ。思い知ったか」
「不可抗力だ……」
クスクス笑ってやれば、げんなりした顔で体を起こした。
そう。あの竜巻が出てきた辺りから、そりゃもう服が大変な事になっていたのだ。
必死に押さえてはいたが、多くの人に見られていただろう。全く恥ずかしい目に遭った。
流石に理不尽だから責める気は無いけど。
彼も言っていたが、こんな恰好をしている私が悪い。
「さて、とりあえず今は退場と行こうか」
「ん、そうだね」
そのまま立ち上がり歩き出す。
思った以上にピンピンしてるな、このおっさん。
まぁ確かに、いつまでも居たら邪魔になるからな。
そう同意しながら私も隣に並んだ。
「それにしても、アレを相殺されるとはねぇ……ほんっとに末恐ろしい子だよ」
驚くのも無理は無い。
それくらい、自分本来の属性以外を戦闘で扱うというのは難しい。
正直、思わずやり過ぎたなと感じてる。
その場のノリでどうにかしようとするからこうなるんだなと反省だ。
だってアレは今の私が制御を放棄してぶっ放した物。
エルヴァンの時より威力は上なのだ。
流石にここまでやるつもりは無かった。
「ちょっと申し訳無かったかな。手加減してくれてたのを全力で返した訳だし……」
「いや、構わねぇよ。俺がお前さんの力を読み違えただけだ」
何より気にしてしまうのはそこだったのだが、あっさり許された。
なんとも気持ちの良い男だな。
「そんな事より……良いのか? こんなに目立っちまったら、お前さんはエルヴァンみたいに……」
更に私を心配する言葉まで。全く、本当に。
生前で友になれなかった事が悔やまれる。
「あぁ、大丈夫だよ。私には理解者が居てくれる……父の様に苦しむ事は無い」
けどその心配は無用だ。そもそもの目的が目立つ事だし。
何より、昔と違って理解してくれる人が居る。
だからもう大丈夫だ。
それにしても……こないだもそうだったが、自分の事を父と呼ぶ事に笑いそうになる。
我ながらよくスムーズに言えてるもんだ。誰か私を褒めてくれ。
「そうか……良い友人を得たな。大切にしろよ?」
「当たり前だ」
言われずとも。
ようやく得た大切な存在だ、出来る限りの事はするさ。
ただ、アリーシャの存在が私の中で大きくなり過ぎるのもどうかと考えてもいる。
今までに居なかった、知らなかった。そんな心地良過ぎる存在。
だからこそ依存してしまいそうだ。
だけど何処からがそうなのか、そうならない様にどうすれば良いのか、私には全く分からない。
結局やっぱり、なるようになれで行くしかないのかもしれない。
そこからアリーシャの試合を挟み、多少の休憩の後……ついに決勝戦となる。
彼女の試合はまぁ、やはりギリギリの戦い。辛うじてもぎ取った勝利だった。
ハッキリ言おう、まさかここまで必死に食らい付くとは思っていなかった。
やる気を下げない様に言わなかったが、過度の注目がされない所で負けると予想したからこそ参加させたのだ。
なのに今や決勝戦。
ここまでの勝利は勿論喜ばしい事なんだが……正直不安だ。
この活躍が何を齎すのか、彼女自身は分かっているのだろうか。
結果を出せば当然、良くも悪くも様々な感情と言葉を向けられる。
それがまだまだ若い少女なら尚更に。というか、既に……だ。
当然私もエルヴァンの再来だなんだと騒がれている。娘だし。
私はそれで構わない。だけどアリーシャは……
あぁ、全く。出場させておいて何を考えているんだか……滅茶苦茶だな、私は。
予想外だったから、なんて言い訳は通らない。
出来る限り支えて護らなければな。
「なんにせよ、今はただ楽しもう」
だがしかし、それはそれとして。
これから最高の楽しみが始まるのだ。
ここまで来たらアリーシャの注目は変わらない。
だったらもう、楽しむしかないじゃないか。
高鳴る胸に触れ、喜びと共に入場する。
と、盛大な歓声が沸き起こった。すごくうるさい。
今更だが、よくもまぁこんな子供が活躍してて熱狂出来るな。
廃れてきたと思ったが、観客はそうでもないのか……騒げれば何でも良いのかね。
「随分とボロボロだけど、やれるか?」
向かいから歩いてきたアリーシャの様子を伺う。
ここまで全ての試合で辛勝だったのだから、休憩を挟んでも疲労は相当だろう。
服だって汚れ擦り切れ、戦いの厳しさを物語っている。
「勿論。今私に出せる力全てをぶつけるからね」
だと言うのに、彼女の魔力は燃え滾っている。
なんだかな、見違えたよ。
言わずもがな、実力ならレイナードの方が上だ。経験が違い過ぎる。
それでも先の試合では感じなかった歓喜が身体を駆け巡った。
始めて力を見せてくれた時と同じだ……ゾクゾクする。
「一気に成長したな。それ程の経験が積めたのか……もしくは何かあったのか。どっちだ?」
聞いてみるか。一体何が彼女を変えたのか、その理由を。
「どっちもかな。何が何でも、この場でエルちゃんに見せなきゃならないから」
「ほう……?」
見せるとな。それこそ一体何を……
「エルちゃんは言ってたよね。エルヴァンと同じ道を辿るな、って」
「ああ。でも結局どんな道だったとしても私は隣に居る、とも言ったな」
何故今その話を……既にその道の前まで来てしまっている事に気付いたのか?
しかしどうするべきか悩んでいる、って感じでも無い。
「うん、凄く嬉しい言葉だった。だから――」
直前で、もしかして……と思った。
「私は、彼と同じ道を往くよ」
「……そう、か」
だけど思わず目を見開いて驚いてしまう。
それを言い切る事がどれ程の事なのか……
「その上で、その先に往く。エルヴァンが辿り着けなかった道の先へ」
私が……辿り着けなかった……?
なんだ、何を言ってる?
「1人じゃなくて、一緒に行ってくれる人が居るなら。きっと先へ進めるよね」
「道の……先」
そんな事……考えもしなかった。行き止まりだと思った。
これ以上は何も無い、進めない、だから新しい道を探して旅に出た。そのつもり……だった。
「エルちゃんに見せたいんだ。私が一緒に見たいんだ。途切れちゃった道の先にあるモノを」
目の前のアリーシャが眩しくて、私は目を伏せた。
私はただ、諦めてただけなのか。
私が探し求めた『何か』は、そこにあるのか……?
「大したモノじゃないかもしれないぞ?」
「かもしれない。でも絶対に意味はある」
直視出来なくて、何故か否定したくて。
意地の悪い言葉を吐いてしまった。
なのに軽く受け止められる。
「……絶望するモノかもしれないぞ」
「かもしれない。でも1人じゃないから、きっと立ち上がれる」
尚も食い下がる様に、くだらない口が勝手に開く。
言えば言う程自分が惨めになりそうだ。
どうしてそんなに眩しく在れるんだ。
それがどんな道なのか、何も知らないからじゃないのか。
違う、彼女は……
「この試合は、私の覚悟の戦い。この道を往くと決めた、最初の1歩。だからまずエルちゃんに見せるんだ。見せなきゃ、進めないんだ」
知らないから、知ろうとして、覚悟した。
自分が分岐路に居る事なんてとっくに分かった上で、踏み込むつもりで前を見据えた。
支えるだの護るだの、何様なんだ私は。
嫌な汗が背中を流れる。これは焦りだ。
思わず手を伸ばしたくなる。
待ってくれ。
置いていかないでくれ。
私はただ道を戻って、立ち止まっていただけ。
前を歩いて導いてるつもりだったのに、気付けばアリーシャの方が前に……
「一緒に進もう」
あぁ……そうか。
彼女は全部分かってたんだ。
私が立ち止まっている事も、手を引いてくれる誰かを待ってた事も。
私が自分でも気付けなかった事を。
だから手を差し伸べる為に、私に見せるんだ。自分の覚悟を。
なんて眩しいんだろう。
「誰かさんが途中まで道を作ってくれてるんだからさ。きっとすぐだよ」
眩しいけど、温かいな。
まるで太陽みたいだ。
じゃあ私は差し詰め月か。
いや、そんな大層なモノかも分からないが……
「そう……だな。なら、まずは私を叩き起こしてくれ」
「寝坊助さんだもんね。全力でいくよ」
こんな眩しい太陽に照らされたら、夜の月も昼間に昇るか。
だったらいつまでも寝惚けてちゃいられない。
夢は起きて見るもんだ。
見せてくれ、お前の覚悟と、夢を。




