第21話 VS騎士団長
踏み込みは同時。そのままお互い隙だらけの大振りな1撃を振るう。
瞬間、今日1番の音と衝撃が響いた。
そして鍔迫り合いの形で押し合う。
これは半分以上が様子見だ。相手がどれだけの力で戦えるのかという線引きの為の物。
少なくとも身体強化に関してはこれで判断出来る。
そしてそれに充分耐え得る魔力障壁もだ。
しかし……おい、限りなく本気に近くないか……?
ていうか良い笑顔だなぁっ!?
私の力だって、この場では一応エルヴァンよりは劣る程度のレベルで抑えたいのだ。
実力のアピールとは言え、あまり過剰にする必要も無い。
ここら辺が限度だろう。
もう無理だと言わんばかりに剣を逸らして後退。
ついでに飛び退きながら2回、左右に切り払うが……危なげなく軽く防がれた。
「全く、なんて膂力だ。こんな力をそんな小さい体で使ったら壊れちまうぞ」
「心配ご無用。体は丈夫なんでね!」
使わせといて何を言ってるんだか。
すぐさま切り込み、今度は息をも付かせぬ連続の打ち合いが始まる。
避ける事はせず、さりとて決して当たりはしない。
剣と剣で激しく打ち合い続けるなんて実戦じゃあまりやらない事だ。
これもまた見せ物としての演出って奴だな。
だけどやってる側も中々楽しいからそれで構わない。
何より、先程の様に押し合うのは不利になりかねないのだ。
膂力だけなら負けはしない。
だけど武器と体格の差が大き過ぎる。
身体強化でも魔力障壁でも、重さまでは変えられない。
重さはそのまま威力に繋がるのだから、力を抑えたままではほんのちょっぴり厳しいだろう。
「ちょっと強めにいくぞっ!」
「っ……わっ!?」
言うが早いか、一際強く私の剣が弾かれた。
その隙を狙う様に更に強烈な1撃が襲い来る。
ただの攻撃じゃない。魔法で剣に暴風を纏った、防いでも吹き飛ばされる様な攻撃だ。
案の定、私は宙を舞った。
いきなり私の弱点を突いてきたな。
私の弱点……それは軽い事。
軽い故に押され易く、受ける方向を考えて上手く踏ん張らないとならない。
だからこそ足元を崩されたり、浮かせるもしくは吹き飛ばす様な攻撃に弱い。
人外の魔力に依る障壁が無ければ致命的な弱点になり得るだろう。
「っと……びっくりしたじゃないか。というか、スカートが捲れた。とんだ辱めを受けてしまったな」
宙で体を捻り綺麗に着地。
きっちり護ったからダメージは無いが、別のダメージを受けた。
こんな大勢の前でスカートを捲られるとはな。流石にちょっと恥ずかしい。
しかし流石だな。この私が本当の直前まで魔法に気付けなかった。
最速の魔法は雷だ。しかしそれは発生から到達までの話。
風の魔法は発生そのものが最速なのだ。
「そりゃあ悪かっ……いやそんな恰好してる方が悪いだろう!?」
怒られてしまった。まぁ当然か。
私の恰好はまるで戦いに向かない、普段着のワンピースだからだ。
特別動きづらいとも感じないから旅でもこの恰好だったりする。
なにせ私の障壁ならいくらでも護れる上、怪我を気にする体でさえないのだ。
なんなら全裸だって何の問題も無い。
ある意味問題だから流石にやらないけど。
「良いじゃないか。可愛いだろ?」
見せつける様にひらひらと揺らす。
髪に合わせて真っ白な、そしてさりげない装飾を取り入れたお洒落な一品。
我ながらに中々満足の行く出来だ。
そう、これは変身の時に作った物。
体の一部と認識して作ったからか、異常に丈夫で破れても再生する意味不明な服と化している。最早なんだこれ。
しかしその認識の所為か、しばらく(大体3日程)身に纏っていないとマナに還ってしまう。
逆に言ってしまえば、極力着続けなければならない訳だ。
ちなみに靴や下着も同様だ。どれもきっちり拘って作った。
今や着飾る事に抵抗は無いし、むしろ楽しんでる。
一時期アリーシャに着せ替え人形にされてたお陰だな。
「少なくとも戦う恰好ではないな」
「まぁそれはそう。でも――」
レイナードは理解出来ないと言わんばかりに眉間に皺を寄せた。
生前の私もそうだが、おっさんには女の子のお洒落を理解するのは難しいだろう。
「可憐に美しく、そして力強く。それが私だ」
とりあえず今はそんな感じで行こう。
せっかくの美少女なんだからな。
おっさんだって変わるものなのだ。
さて……くだらない会話を挟んで、向こうも息を整えられた筈だ。
適当に雷を放ちながら駆け出す。今度は魔法戦と行こうか!
先の打ち合いを続けるのは彼にとっては消耗が激しかった。
そもそもが大きな剣だし、歳もあるからな。
だから仕切り直したくて私を吹き飛ばしたんだろう。
「くっ……速いな」
彼もまた駆けて雷を避け、魔法をいくつか放つ。
今度は圧縮した空気を弾にした物だ。
風の魔法は基本的に見えないのが厄介な所で、魔力で察知するしかない。
それでも私はひょいひょいと避けていく。
私は小さいからな。姿勢を低くして素早く動けば狙いづらいだろうよ。
「私相手に点で攻撃してちゃ、当たる訳無いだろ」
「素早い相手には面で……だろう? 分かってるさ」
おっと、じゃあ何か仕掛けてくるか?
避けた先の地面が爆ぜてるのを見るに、威力重視で牽制してただけか。
いや待て、そこら中に空いた穴……まだ微かに魔力が残ってる?
つむじ風とも言えない程度の風で、砂煙が小さな渦を巻いているのが見える。
よくよく感知してみれば、そこから糸の様に魔力がレイナードと繋がったままだ。
て事はまさかっ!?
「っ! 本命はこっちか!」
私がそれに気付いた瞬間、辺りに竜巻が吹き荒れた。
堪らず足を止めて踏ん張って耐える。
複数の竜巻で囲まれた以上、下手に動けなくなった。なんて厄介な……
着弾地点で魔法を維持して、後の起点にしたのだ。
流石に扱いが上手い……ここまで繊細な操作が出来る奴は少ないだろう。
試合で諸々抑えているから良いものの、こんなの実戦なら大抵の相手が詰みの状態だ。
なんせこのまま周囲の竜巻をより強く、そして囲んだまま狭めれば終わりなのだから。
「まだまだ! これで終わるとでも!?」
恐らくあえてその手段は取らず、追加で正面から壁の様に巨大な風圧が飛ぶ。
アレを何処に避けても、その先で最も近い竜巻を操作して吹き飛ばされる。
これが彼の切り札なんだろう。
早々に見せてくれるとは、高く買ってくれたものだ。
なら……私も1つ見せてやろうじゃないか。
「いいや、終わりだ!」
周囲の竜巻も、正面の風の壁も、全てを相殺する程の爆風を今度は『私が』巻き起こす。
私は雷だけじゃなく風も……ついでに水もそこそこの練度で扱えるのだ。
「なっ……はぁっ!?」
急激に凪いで砂煙が舞うだけの会場を見て、レイナードは大きな口を開けて呆けた。
こんなのは魔力に物を言わせたゴリ押し。
繊細さも制御も放棄した、ただの爆発の様な物。
私の風は彼と比べれば数段は劣る。
試合だからと抑えてくれていたから相殺出来ただけだ。
手加減してくれてるのを全力で潰した様な物。
ある意味反則だな……悪い事をしたかもしれない。
けど――
「呆けてる場合じゃないぞ!」
「おわっ!?」
雷を放つと同時、一気に飛び込んで距離を詰める。
間一髪、雷を切り払って見せたが……既に私は懐に潜り込んだ。
「くっ……やべぇっ」
宣言通り終わりにしようじゃないか。
そのまま掬い上げる様に切り上げる。
大きな剣を振り切った状態で、体格差のある相手に詰められたなら取れる行動は限られる。
そして退くにはもう遅い。
「ぐっ、ぬぅっ!」
予想通り、左腕で防御された。
魔力障壁がぶつかり合う光が散り、一瞬だけ拮抗する。
その一瞬でお互いに雷と風を放ち吹き飛んだ。
「ふぅ……危ねぇ危ねぇ……」
大きく退がり膝を着き、安堵した様に溜息を吐く。
いいのかな? そんな油断しちゃって……
早く気付いた方が良いんじゃないかな。
「いや、言っただろう……終わりだって。お返しだ」
私は手を空へ向ける。
そこでようやく気付いたらしく、先程剣を防いだ左腕を見て驚愕の表情を浮かべた。
パチリと小さく火花の様な雷が散っている。
ふふっ……少し遅かったな。
「――落ちろ」
そして手を振り下ろす。
意味は無いが、これも演出って奴だ。
瞬間、雷が落ちた。
「がっ……ぐぁぁあああっ!?」
咄嗟に障壁で護った様だが、それでも直撃だ。
数秒耐えはしたものの、崩れる様に倒れた。
「良い戦いが出来た。楽しかったよ、レイナード」
彼が倒れた事で決着が付いたと判断したのか、大きな歓声が上がる。
随分と良い感じに実力を示す事が出来たな。ありがとう。




