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とある竜の恋の詩  作者: 桜寝子
第2章
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第16話 ナンパは成敗、半端な嘘も成敗

 やたら怖いアリーシャから逃げ、いくつかの屋台を眺めて選んだ串焼きを頬張る。


「ん、美味いなコレ」


 昔はこんな大通りに屋台なんて見かけなかったが、随分と賑やかになったもんだ。

 どうやら宿屋が看板を掲げ、其々味や量や価格を売り込んでいる様子。

 宿は食堂も兼業してる場合が殆どだからな。


「美味い物食ったらアイツも機嫌良くなるかね……」


 昔は美味い物に拘るなんてしなかったが、私も変わったな。

 食事の必要が失くなってから楽しむ様になるなんて。笑える話だ。


 そんな事を考えつつ、もぐもぐしながら置いてきたアリーシャの元へ歩く。

 すると――


「誰だアレ?」


 なんだか知らんが、アリーシャと1人の若い男が話していた。

 銀髪に青の眼……いやまさかね。



「――その連れってのも勝手に何処か行っちゃったんでしょ? じゃあ君も遊びに歩いたって良いじゃないか」


「でもまだ宿も決まってないから……このままここで話しません?」


 こっそり近づいてみたが、どうやらナンパされてるらしい。

 しかし何故アリーシャは楽し気なんだ? 


 様子を伺いながら持っていたもう1本をもぐもぐ。

 クソ、なんか腹立つな。


「じゃああそこに行こうよ。すぐ近くなら大丈夫だろう?」


「え、あの……」


 男はそう言ってアリーシャの腕を取り、近くの屋台へ向かおうと――


「ふんっ」


「お゛っごぉぁああ……」


 なんかもう鬱陶しいから、後ろから股間を蹴り上げた。

 勿論軽くだ。私の力じゃ簡単に潰してしまう。


「ちょっ!? エルちゃん!?」


「私の連れだ、離れろ」


 驚くアリーシャはひとまず後にして、蹲る男を見下ろし吐き捨てる。


「ぐぁ……な、何すんだ痛いだろっ! 子供だからって許さねぇぞ!」


「別に許せなんて言ってないが」


「良い性格してんなぁオイっ!」


 涙目で見返してくるのを更に睨み返すが、あまり効果は無さそうだ。

 魔力を抑えたままじゃあ、ただ子供が睨んでるだけだものな。こんな往来だから仕方ない。


「ていうか連れってこんな小っちゃい女の子かよ。早く言えっつーか、逆に探しに行けよ危ないだろ……」


 ボソボソと呟くのが聞こえた。割と良い奴か。

 そりゃ私みたいな小さな子供が1人で動いてちゃ危ないのは確かだ。普通の子供なら、だけど。


「アリーシャ、こんな奴と何を楽しそうに話してたんだ?」


「いや……噂の人らしいから話を聞いとこうかなって」


 ひとまず男は無視して聞いてみれば予想通り。まさかいきなり会えるとはな。

 というかあんなに怒ってたのに探ってくれてたのか。


「っそうだ! 英雄エルヴァンの息子に何をするんだ全く!」


 男が勢いよく立ち上がって叫ぶ。

 なんだその嘘くさい名乗りは。


「息子の息子にナニを……」


「うるせぇよ! 子供が何言ってんだ!?」


 賑やかな奴だ。さっきの呟きも含め、どうも悪意を感じない。

 何かしら思惑があって名乗ってる筈なんだけども。


「冗談は置いといて……初めましてだね、お兄ちゃん?」


 どう切り出したものかなと考え、私もエルヴァンの子だぞとアピールしてやった。

 むしろ早く気付け、分かりやすく髪と眼の色が同じなんだからさ。


「は? お兄ちゃん? 何言って――あっ……」


 やっと気付いたらしく顔を青くした。 

 おい、そんなあからさまな反応するな。騙るならもっと頑張れ。


 調べるまでもなく嘘じゃないか……コイツもしかして相当なポンコツか?


「あ、あーっ! そうかそうか、俺に妹が居たのかー!」


 私が口を開く前にまたしても叫ぶ。

 流石に大勢に注目された状態で暴露はされたくないらしい。


「そうだよな! 英雄エルヴァン程の男なら、そこらへんで子供作っててもおかしくないもんな!」


 おかしくない訳あるか馬鹿。風評被害だ。

 そしてアリーシャ、私を睨むな。


 ていうかもう、その言い方が息子のそれじゃないだろ。誤魔化す気があるのか?

 この様子じゃ私の子とはとても思えないな。


 私の噂と容姿の特徴が合っていて勘違いされた……とかそんな感じだろう。

 軽い性格っぽいし、エルヴァンの名を笠に着て調子に乗ってただけだな。



 なんにせよエルヴァンの息子を騙っていたのは事実。

 そうした理由は気になるが、それは後でいいだろう。先にきっちり思い知らせてやらないとな。


「おい。今は暴露しないでいてやる。――その代わり、闘技大会に出場しろ」


 胸倉を掴み引き寄せ、小声で脅す。

 顔が遠いっ……この身長差もムカつくな。


「え゛っ、なんで……?」


 最初から参加するつもりだったら恰好付かない脅しだが、一瞬嫌そうな反応をしたから大丈夫そうだ。

 我ながら中々な嫌がらせを思いついたな。


「言われた通りにする以外の選択肢があるとでも? それと、逃げようなんて考えるなよ」


「うっ……わ、分かった……」


 理由を教えてやる義理は無いし、逃がすつもりも無い。

 ふふっ……楽しみが増えたな。


 しかし負い目があるとは言え子供に脅されてこれか。よく嘘を通そうとしたもんだな。

 むしろなんでコイツが息子だなんて話が広まるんだ。どいつもこいつも節穴か。


「よし――じゃあアリーシャ、私達はもう行こうか」


 妹だと叫ばれた所為で私まで注目されてしまった。

 どうせ後々そうなるのは変わらないが、今は少し面倒だ。

 さっさと宿に行ってのんびり美味い物でも食べよう。


「へっ? もう良いの? ――あ、待って待って」


 歩き始めた私を見て、戸惑いながらアリーシャも続いた。

 周囲の視線を置いていく様に、急ぎ足でいくつか路地を曲がっていく。


 後に残されたのは呆然とする男……とそれを囲む野次馬だ。






「多分この通りの……あった、あの宿だ」


 私に話を聞きたいだろう奴らをサラッと振り切り、目的の宿がある通りまで出て指差す。

 建物自体はそこまで大きくなくまだ新しいが、食堂は賑わっているのが窓から見える。あの味と価格なら納得だな。


「へー、もう決めてたんだ?」


「ああ、さっき美味い屋台を出してて……あっ」


 決めた理由を説明しようとして思い出した。

 アリーシャにと買ったやつ……どうしたっけ?


「ふーん……私の分は?」


 そしてまさにそれを聞かれ焦る。

 しまった……あの時なんかムカついて、思わず手に持ってたのを食べたんだ。

 これは誤魔化し様が無いな、諦めよう。


「……食べちゃった」


「やっぱり! 可愛く言ったって……あ、待てコラ!」


 てへっ、と子供らしく言ってみる。

 これでも演技は上手くなったんだが……アリーシャに通用する訳も無いか。


 流石に人前で怒る程ではないだろうし、さっさと宿に逃げるか。

 ……なんか今日は逃げてばっかりだな。

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