第16話 ナンパは成敗、半端な嘘も成敗
やたら怖いアリーシャから逃げ、いくつかの屋台を眺めて選んだ串焼きを頬張る。
「ん、美味いなコレ」
昔はこんな大通りに屋台なんて見かけなかったが、随分と賑やかになったもんだ。
どうやら宿屋が看板を掲げ、其々味や量や価格を売り込んでいる様子。
宿は食堂も兼業してる場合が殆どだからな。
「美味い物食ったらアイツも機嫌良くなるかね……」
昔は美味い物に拘るなんてしなかったが、私も変わったな。
食事の必要が失くなってから楽しむ様になるなんて。笑える話だ。
そんな事を考えつつ、もぐもぐしながら置いてきたアリーシャの元へ歩く。
すると――
「誰だアレ?」
なんだか知らんが、アリーシャと1人の若い男が話していた。
銀髪に青の眼……いやまさかね。
「――その連れってのも勝手に何処か行っちゃったんでしょ? じゃあ君も遊びに歩いたって良いじゃないか」
「でもまだ宿も決まってないから……このままここで話しません?」
こっそり近づいてみたが、どうやらナンパされてるらしい。
しかし何故アリーシャは楽し気なんだ?
様子を伺いながら持っていたもう1本をもぐもぐ。
クソ、なんか腹立つな。
「じゃああそこに行こうよ。すぐ近くなら大丈夫だろう?」
「え、あの……」
男はそう言ってアリーシャの腕を取り、近くの屋台へ向かおうと――
「ふんっ」
「お゛っごぉぁああ……」
なんかもう鬱陶しいから、後ろから股間を蹴り上げた。
勿論軽くだ。私の力じゃ簡単に潰してしまう。
「ちょっ!? エルちゃん!?」
「私の連れだ、離れろ」
驚くアリーシャはひとまず後にして、蹲る男を見下ろし吐き捨てる。
「ぐぁ……な、何すんだ痛いだろっ! 子供だからって許さねぇぞ!」
「別に許せなんて言ってないが」
「良い性格してんなぁオイっ!」
涙目で見返してくるのを更に睨み返すが、あまり効果は無さそうだ。
魔力を抑えたままじゃあ、ただ子供が睨んでるだけだものな。こんな往来だから仕方ない。
「ていうか連れってこんな小っちゃい女の子かよ。早く言えっつーか、逆に探しに行けよ危ないだろ……」
ボソボソと呟くのが聞こえた。割と良い奴か。
そりゃ私みたいな小さな子供が1人で動いてちゃ危ないのは確かだ。普通の子供なら、だけど。
「アリーシャ、こんな奴と何を楽しそうに話してたんだ?」
「いや……噂の人らしいから話を聞いとこうかなって」
ひとまず男は無視して聞いてみれば予想通り。まさかいきなり会えるとはな。
というかあんなに怒ってたのに探ってくれてたのか。
「っそうだ! 英雄エルヴァンの息子に何をするんだ全く!」
男が勢いよく立ち上がって叫ぶ。
なんだその嘘くさい名乗りは。
「息子の息子にナニを……」
「うるせぇよ! 子供が何言ってんだ!?」
賑やかな奴だ。さっきの呟きも含め、どうも悪意を感じない。
何かしら思惑があって名乗ってる筈なんだけども。
「冗談は置いといて……初めましてだね、お兄ちゃん?」
どう切り出したものかなと考え、私もエルヴァンの子だぞとアピールしてやった。
むしろ早く気付け、分かりやすく髪と眼の色が同じなんだからさ。
「は? お兄ちゃん? 何言って――あっ……」
やっと気付いたらしく顔を青くした。
おい、そんなあからさまな反応するな。騙るならもっと頑張れ。
調べるまでもなく嘘じゃないか……コイツもしかして相当なポンコツか?
「あ、あーっ! そうかそうか、俺に妹が居たのかー!」
私が口を開く前にまたしても叫ぶ。
流石に大勢に注目された状態で暴露はされたくないらしい。
「そうだよな! 英雄エルヴァン程の男なら、そこらへんで子供作っててもおかしくないもんな!」
おかしくない訳あるか馬鹿。風評被害だ。
そしてアリーシャ、私を睨むな。
ていうかもう、その言い方が息子のそれじゃないだろ。誤魔化す気があるのか?
この様子じゃ私の子とはとても思えないな。
私の噂と容姿の特徴が合っていて勘違いされた……とかそんな感じだろう。
軽い性格っぽいし、エルヴァンの名を笠に着て調子に乗ってただけだな。
なんにせよエルヴァンの息子を騙っていたのは事実。
そうした理由は気になるが、それは後でいいだろう。先にきっちり思い知らせてやらないとな。
「おい。今は暴露しないでいてやる。――その代わり、闘技大会に出場しろ」
胸倉を掴み引き寄せ、小声で脅す。
顔が遠いっ……この身長差もムカつくな。
「え゛っ、なんで……?」
最初から参加するつもりだったら恰好付かない脅しだが、一瞬嫌そうな反応をしたから大丈夫そうだ。
我ながら中々な嫌がらせを思いついたな。
「言われた通りにする以外の選択肢があるとでも? それと、逃げようなんて考えるなよ」
「うっ……わ、分かった……」
理由を教えてやる義理は無いし、逃がすつもりも無い。
ふふっ……楽しみが増えたな。
しかし負い目があるとは言え子供に脅されてこれか。よく嘘を通そうとしたもんだな。
むしろなんでコイツが息子だなんて話が広まるんだ。どいつもこいつも節穴か。
「よし――じゃあアリーシャ、私達はもう行こうか」
妹だと叫ばれた所為で私まで注目されてしまった。
どうせ後々そうなるのは変わらないが、今は少し面倒だ。
さっさと宿に行ってのんびり美味い物でも食べよう。
「へっ? もう良いの? ――あ、待って待って」
歩き始めた私を見て、戸惑いながらアリーシャも続いた。
周囲の視線を置いていく様に、急ぎ足でいくつか路地を曲がっていく。
後に残されたのは呆然とする男……とそれを囲む野次馬だ。
「多分この通りの……あった、あの宿だ」
私に話を聞きたいだろう奴らをサラッと振り切り、目的の宿がある通りまで出て指差す。
建物自体はそこまで大きくなくまだ新しいが、食堂は賑わっているのが窓から見える。あの味と価格なら納得だな。
「へー、もう決めてたんだ?」
「ああ、さっき美味い屋台を出してて……あっ」
決めた理由を説明しようとして思い出した。
アリーシャにと買ったやつ……どうしたっけ?
「ふーん……私の分は?」
そしてまさにそれを聞かれ焦る。
しまった……あの時なんかムカついて、思わず手に持ってたのを食べたんだ。
これは誤魔化し様が無いな、諦めよう。
「……食べちゃった」
「やっぱり! 可愛く言ったって……あ、待てコラ!」
てへっ、と子供らしく言ってみる。
これでも演技は上手くなったんだが……アリーシャに通用する訳も無いか。
流石に人前で怒る程ではないだろうし、さっさと宿に逃げるか。
……なんか今日は逃げてばっかりだな。




