第15話 厄介事の予感
そして翌日、何事も無く王都に到着。
ただし街に入る時はそうはいかない。
「旅の途中……? え、君達が?」
どの街も基本的に防壁で囲み、門で出入りを管理しているのだ。
幼い子供とまだまだ大人とは言えない少女の2人、それで旅をしているなんて普通は有り得ないからな。
なんなら何か厄介毎を持ち込むのでは、と思われてもおかしくない……かもしれない。
警戒とまでは行かずとも疑問に思うのは当然だろう。
「疑うのは勝手だが事実だ。ほら、身分証」
まぁそんな疑問なんてこっちからすればどうでもいいので、さっさと身分証を見せる事にする。
これが無ければ基本的には街に入れない。入れたとしても殆どの荷物を没収され行動も制限されてしまうのだ。
まぁその街に住んでるとか顔を覚えられてるとか、簡単に調べられる場合は例外だけど。
本来存在していなかった私はどうやって作ろうかと悩んだ……が、なんともあっさり作れた。
既に居住している保護された子供であり、立場ある大人(団長)が仲介してくれたからだろう。
そんなんで良いんだろうか。まぁいいか。
ともかく、ここまでは別に問題ではない。これを見せた後が面倒なのだ。
何故なら――
「エルヴァーナ……ローグラント!? その見た目でローグラントって……まさか……いや、でも」
これだ。何処に行っても毎回このやり取りを挟む事になる。
消息不明になってる英雄エルヴァンの子が居るという噂が広まっているらしく、名前と見た目で簡単に結びついてしまう。
まぁ私が人前に出て1年以上も経てばそうもなるだろう。
だからしつこいくらいに色々な事を聞かれるのだ。
そんな設定にした自分の所為なんだけどさ……
「はいはい、私がそうだったとしてだから何なんだ。いいから通してくれ、怪しい所は何も無いだろう」
正直、何回も繰り返していい加減面倒になってる。
こんな幼い子供を至極真面目に警戒する奴も少ないから、多少強引でも通れるだろう。
「あ、ああ……」
案の定、特に追及も無く通してくれた。
子供に鬱陶しく思われるのは嫌なのかもしれない。
そのままアリーシャも通過となり、揃って歩き出すが……
「しかしエルヴァンの子がまた来るなんて……」
「――何だって? 誰の事だ?」
予想だにしない呟きが聞こえて思わず足を止めて訊ねる。
どういう事だ……私に子供が居たのか?
「1人旅をしてるらしい若い男だ。ローグラントは名乗ってないが……いつの間にか彼がエルヴァンの息子って話が広まってる」
エルヴァンが消息不明になって約10年。騙る輩が出てきたっておかしくはない……か?
例え嘘だとしても、誰も確認のしようが無い訳だしな。
「知らないなら複雑そうだし口は挟まないけど……まだ街に居るよ。ただ、それ以上の個人情報は職務上ちょっと言えないかな」
「そうか……ありがとう、ちょっと探してみよう」
クソ、意外としっかりしてるなこの門番。
せめて見た目か名前くらい分かれば楽なのに。
とにかく調べるべきだな。
でも本当に私の子だったらどうしよう……
とりあえず街に入れたという事で、馬を預けてここからは徒歩になる。
短期間の滞在なら商人も旅人も、門の先で馬を預けて世話をお願いする訳だ。
当然お金は掛かるが、どうしたって必要な事。
細かい健康管理や蹄の手入れなんて、専門職じゃなきゃ出来ないからな。
というか好き勝手に馬で街中を動かれたら邪魔だ。汚れるし。
だから長期間なら、それはそれでまた別の所になるだけだ。
「さて、と。――で? エルヴァンの子って何?」
そうして歩き始めると、後ろから強めに肩を掴まれた。
なんかアリーシャの声が低い。
「いや……知らん」
何故か気まずさを感じて目を逸らした。
「知らんで済む話じゃないでしょっ! 心当たりはっ!?」
そうは言われても知らんもんは知らんのだ。それをこれから調べるんだし。
けど心当たりと言われると……
「無い……事も無い」
「はぁっ!?」
さっきからなんか怖いんだが。
細かく語るのは憚れるが、色々あったんだよ。
とは言え多少は弁明しておきたい所だ。
「エルヴァンの名を利用したい奴らには散々擦り寄られてきたからな」
力を恐れるどころか、英雄という名の価値しか見ず利用しようと画策していた連中だ。
ただのギルドや政治、果ては裏社会まで……様々な派閥に狙われていた。
「そしてそういう輩が思い付く単純で効果的な手段、それが女を仕掛ける事だった」
「え、なんで?」
純粋か。いや、単純で効果的って所が分からないのか。
これは最悪な手段だが最高に効率的なんだよ。
「エルヴァンを利用しつつ繋ぎ止め、ついでに英雄の子という道具をも手に入れる為だ。英雄様が子を作って無責任に逃げるなんて世間は許さないからな」
「道具って……」
アリーシャは信じられないとでも言いそうな悲しい表情に変わった。
残念ながらそういう奴らにとっては子供だって道具に過ぎないのさ。
「私を見ていればどれだけ注目されるか分かるだろう? さぞかし使えるだろうよ」
王都に至るまでいくつもの街を経由してきたが、何処でも私は注目された。
当然利用しようと近づいて来る事もあった。
更に言ってしまえば、保護してくれた時の団長でさえ同じだった訳だ。
まぁ彼は単純な戦力で考えていた面が大きいから嫌悪感は無い。その後の親交もあったしな。
「じゃあ、そういう人達の思惑にハメられて……」
「いや、ハメられたと言うかハメたと言うか……」
私だってそんな奴らは一切信用なんてしない。
しかし生々しい話だが、私だって男だった。だから逆に利用したまでだ。
「は?」
「あ、違っ、まぁその、なんだ……」
軽い話にしたくて冗談を言ったが、返ってきたのは恐ろしく冷たい声と視線だった。さっきから変化が激しいな。
ていうかなんだその圧力。鍛錬してた時でさえそんなの見せなかったじゃないか。
「そう、あれだ。だからこそ件の男は私の子じゃない……かもしれない」
「何がだからこそなのさ? 結局手を出しまくってたんでしょ」
当たりが強い……勘弁してくれ。
「道具にされると分かってる子なんて作らない。逆に利用するにしても、何の対策もしない訳が無いだろう」
「へぇ」
そう、あの手この手で来る相手に対してこっちも仕込んでいた。
世の中には飲むだけの避妊薬がある。どうにか取り入ろうとする奴にこっそり飲ませるくらいは充分可能だ。
お互いそれを服用すればほぼ確実な対策と言える。
が、そんな事はアリーシャからすればどうでもいいようだ。
まだ冷たい声でジトリと睨んでくる。もうダメだこれ。
「とにかく、考えるのは実際に調べてからだ。――おっ、なんだか美味そうなのが色々あるぞ。買ってきてやろう」
「あ、ちょっと……!」
これ以上何か突っ込まれるのは精神的にキツイ。一旦話を終わらせよう。
丁度良い所に屋台があって助かった。
という訳で……その場にアリーシャを残し、そそくさと買い物に逃げる事にした。




