(二十五)
敵は絶えず円を描くように動きながら、一定の距離を保ち続けている。三町から、近付いてせいぜいが二町といったところ。おそらくこの距離であれば、絶対の自負があるのだろう。
馬上筒の射程は、当然のことながら弓よりも長い。されど銃身を短く切り詰めているため、取り回しは楽ではあっても精度は落ちている。最低でも一町程度までは接近しなければ使い物にならぬであろう。
しかも撃てるのはたったの一発。それを外せば、再び弾込めをしている余裕はない。つまりは決して、遊び弾は撃てないということだ。
問題は、その機をはたして与えてもらえるかどうかだ。駆っているのもよほどの駿馬と見えて、足取りも軽やかで接近を許さない。その上こちらが少しでも動きを緩めると、必殺の矢が至近を掠めてゆく。まずは恐るべきその膂力と業。決して届かぬ場所に居ながら、死だけが常に目の前にあるようだった。
「……化け物め」
味方の陣からも弓隊、鉄砲隊による斉射が行われたが、矢は届かず、鉄砲はまったく標的を捉えられずにいた。堪らず徒士のまま飛び出してくる者もいたが、いずれも数歩と進まぬうちにあえなく射抜かれた。気付けばいつしか誰もが手を止め、機を窺うように走り続ける幸村の馬を、固唾を呑んで見守るだけとなっていた。
そしてまた裂帛の気迫が込められた矢が、風切り音を聞き取れるほどのところを通り過ぎてゆく。そのたびに、幸村は血が泡立つような恐怖と歓喜に震えていた。ようやく、戦をしていると実感していた。そう、あれこれ謀を巡らせて、かような大舞台を整えたのも、これを味わうためだったのだと。
のう、そなたはどうなのだ。幸村は必死に手綱を操りながら、名も知らぬ好敵手へと問いかける。そなたもまた、胸を躍らせておるか。血は滾っておるのか。
そなたは良いのか、かような世の中で。それだけの才、それだけの業を生かす場も与えられず、この静謐の中で腐れてゆくのに耐えられるのか。
「耐えられまいよ……そうであろう?」




