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尾張名古屋の夢をみる  作者: 神尾宥人
四. 尾張名古屋の事はじめ
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(四)

 明けて慶長十四年(一六〇九年)一月、尾張入りした家康は義利を伴って新城の候補地を視察し、正式に那古野への遷府を決定した。そしておそらくはこのときに、かの地の呼称を名古屋と改めたと思われる。さらに翌月には普請奉行を定め、縄張りに取り掛からせた。

 奉行に任ぜられたのは、滝川彦次郎忠征(ただまさ)・佐久間河内守政實(まさざね)・牧助右衛門長勝・山城宮内少輔忠久・村田権右衛門の五人であった。忠征と政實はかつて秀吉の元で伏見城の普請奉行をした功もある城普請の名人であり、他の者も経験豊かな実務家であったことは窺い知れる。

 その下には普請助役として十九の大名家が就き、石垣積を負担することとなった。殊に本丸天守台の石垣は高い(わざ)が必要となるため、熊本城の見事な普請で実績のある加藤肥後守清正が単独で当たり、残る部分を他の十八家が石高に応じて分担することとされた。

 ところがその折、駿府の義利の元を急遽訪ってきた者があった。許嫁の春姫の父親である、浅野紀伊守幸長だ。ちょうど尾張より戻ってきていた氏勝も、その対面に同席することとなった。

「これは右兵衛督どの。しばらく会わぬ間に立派になられた……祝言が今から楽しみにございますぞ」

「紀伊守さまもますますご健勝のようで、何よりでござる」

 義利もこの未来の義父のことが嫌いではないようで、声も心なしか弾んでいた。ただ、此度の急な来訪の目的がわからず戸惑ってもいる。間もなくはじまろうとしている新城の普請には、この幸長は関わっていないはずなのだ。と言うのも、この前年に幸長は中心となって丹波亀山城の改築を終えたばかりなのである。それに続けて普請に加わるのは負担が大きかろうと、さすがに家康も助役から外していたのだ。もちろんそこには浅野家が、間もなく徳川の縁戚になるということも考慮されているのであろう。

 ところが当の幸長は、それが逆に不満であったらしい。ゆえに、是非とも此度の新城の普請助役に加えて欲しいと嘆願してきたのだった。

「何しろこの名古屋の城は、我が娘婿である右兵衛督どのの居城。つまりは将来、お春もこの城に住まうことになる。ならばどうして、父であるこの紀州が普請に加われぬのか。まことに口惜(くちお)しゅうございますぞ」

 このところ家康は天下普請と称して、主に豊臣恩顧であった諸将たちを各地の城の普請に駆り出していた。その狙いは明らかに、諸大名の力を削ぎ、幕府の支配体制を強固なものにすることであった。大きな負担を強いられた大名たちの中には、やむなく武具や鉄砲までを処分して金に換えている者たちも多く、早くも不満の声も聞こえはじめている。

 そんな中でわざわざ名乗り出てくる者は珍しく、氏勝としても対応に困った。そもそも新城の普請を仕切っているのは幕府であって、義利も氏勝も口を挟むようなことはせずにきたのだ。

「どうしたものかな、大和?」未来の舅が帰って行ったあとで、義利は困り顔で相談してきた。「我より父上に伝えても良いのだが、果たして通るであろうか。石垣の分担はもう固まっておるのであろう?」

「殿のお手を煩わせるまでもありませぬ。この件は某が」

「うむ……されど我も、紀伊守どのの気持ちは嬉しいのだ。ああ申してくださった以上は、是非とも普請に加わっていただきたい。よろしく頼む、大和」

 畏まりました、と氏勝は答える。とはいえ内心では、幸長の願いを叶えることは難しいのではないかと思っていた。

 されどお亀の方を通じて家康に(はか)ると、いとも簡単に石垣の分担は変更となった。どうやら家康も幸長の丹波亀山城での実績を高く評価していたようで、名古屋でもその腕を揮えるというなら是非にと考えていたらしい。そのため石垣の中でも重要な本丸東櫓、さらには二の丸の枡形周辺が任せられることになった。

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